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「うーん、だってこれがマネージャーの仕事だしねえ」
「うええ……。マネージャーなんて、わたしは絶対ごめんだわ」
まずいものでも食べたように顔をしかめて結子が言い放った。
その表情があまりに愛らしくて、伊理穂は微笑む。
「でも、手伝ってくれてありがとう、結ちゃん」
「お返しはケーキでいいわよ」
「まっかせて! インターハイ終わったら奢るね!」
どんと胸を叩いて言うと、結子が満足そうに微笑んだ。
そのときふと、近くで夏子と仲良く話している洋平の姿が目に飛び込んできて、伊理穂の胸がぎゅっと縮まった。
伊理穂の視線の先で、二人は仲良さそうにじゃれあっている。
(少し前なら……わたしがあそこにいたのに……)
思って伊理穂の視界が暗くなる。
自分にはもう二度と向けられることのない洋平の優しい笑顔。
それを一身に受けている夏子が、この上なく羨ましかった。
(ううん……違うか。わたしに向けられてたのは、洋平が無理して作った笑顔。今、夏子さんがもらっているのは、洋平の心からの笑顔……)
何か冗談を言ったのか、洋平の手が夏子の髪に触れた。そのままそこを優しく撫でて、夏子がそれに嬉しそうに瞳を細めて笑っている。
大好きだった洋平のあたたかい手。それがいま、夏子だけのものになっている。
胸が締め付けられて、息が吸えなくなって、鼻の奥がつんと刺激された。
夏子が来てからのこの4日間、二人はずっとあんな調子だった。
夏子は伊理穂たちとも気さくに話してくれるさっぱりした性格で、同性の伊理穂の目から見ても、大人の妖艶さと子どもの無邪気さを併せ持つとても魅力的な女性だった。
いつもしっかりしている洋平が、夏子といるとまるで弟のように見えるのが、伊理穂の胸を余計苦しくさせた。
あんな洋平を見るのははじめてだった。
きっとそれだけ夏子に心を開いて、甘えている証拠なんだろう。
ずっと無理をさせ続けてきた洋平がやっと見つけた安らげる場所。
良いことのはずなのに、胸が苦しい。
今目の前に広がっている現実を、誰かに否定してもらいたくてしょうがなかった。
本当に好きなら相手の幸せを心から祝福してあげるべきだと思うのに、それができない自分の幼さなに心底嫌気が差した。
とその時。
「あぶねぇっ!」
「伊理穂ちゃん、避けろっ!」
「伊理穂!!」
怒号のようなみんなの声が聞こえて、伊理穂はハッと振り返った。野生の勘なのかなんなのか、なんとなく体育館入り口の方からなにか来る気がしてそちらを向くと、伊理穂めがけて野球ボールが飛んできていた。
(!)
今よければ間に合う。
思うのに、からだが竦んでしまって動けなかった。
(ぶつかるっ!)
かろうじて動いた腕で顔を庇って、ぎゅっと目をつぶったその時。
「伊理穂!!」
伊理穂の体は激しく自分に突っ込んできた誰かに、庇うように抱きしめられた。
懐かしいぬくもりにそれが洋平だと気づいた瞬間、そのからだ越しに鈍い衝撃が伝わってくる。
ぐっと低く呻く、洋平の声。
「――洋平!」
洋平が自分を庇ってケガをした。
瞬時にそれを悟ると、伊理穂の全身からざっと血の気が引く音が聞こえた。からだが恐怖でどんどん冷たくなっていく。
洋平が目の前で痛みに脂汗を浮かべ、苦渋の表情で背中を押さえて呻いた。
花道たちが慌てたようにこちらに向かって走ってくる。
「うええ……。マネージャーなんて、わたしは絶対ごめんだわ」
まずいものでも食べたように顔をしかめて結子が言い放った。
その表情があまりに愛らしくて、伊理穂は微笑む。
「でも、手伝ってくれてありがとう、結ちゃん」
「お返しはケーキでいいわよ」
「まっかせて! インターハイ終わったら奢るね!」
どんと胸を叩いて言うと、結子が満足そうに微笑んだ。
そのときふと、近くで夏子と仲良く話している洋平の姿が目に飛び込んできて、伊理穂の胸がぎゅっと縮まった。
伊理穂の視線の先で、二人は仲良さそうにじゃれあっている。
(少し前なら……わたしがあそこにいたのに……)
思って伊理穂の視界が暗くなる。
自分にはもう二度と向けられることのない洋平の優しい笑顔。
それを一身に受けている夏子が、この上なく羨ましかった。
(ううん……違うか。わたしに向けられてたのは、洋平が無理して作った笑顔。今、夏子さんがもらっているのは、洋平の心からの笑顔……)
何か冗談を言ったのか、洋平の手が夏子の髪に触れた。そのままそこを優しく撫でて、夏子がそれに嬉しそうに瞳を細めて笑っている。
大好きだった洋平のあたたかい手。それがいま、夏子だけのものになっている。
胸が締め付けられて、息が吸えなくなって、鼻の奥がつんと刺激された。
夏子が来てからのこの4日間、二人はずっとあんな調子だった。
夏子は伊理穂たちとも気さくに話してくれるさっぱりした性格で、同性の伊理穂の目から見ても、大人の妖艶さと子どもの無邪気さを併せ持つとても魅力的な女性だった。
いつもしっかりしている洋平が、夏子といるとまるで弟のように見えるのが、伊理穂の胸を余計苦しくさせた。
あんな洋平を見るのははじめてだった。
きっとそれだけ夏子に心を開いて、甘えている証拠なんだろう。
ずっと無理をさせ続けてきた洋平がやっと見つけた安らげる場所。
良いことのはずなのに、胸が苦しい。
今目の前に広がっている現実を、誰かに否定してもらいたくてしょうがなかった。
本当に好きなら相手の幸せを心から祝福してあげるべきだと思うのに、それができない自分の幼さなに心底嫌気が差した。
とその時。
「あぶねぇっ!」
「伊理穂ちゃん、避けろっ!」
「伊理穂!!」
怒号のようなみんなの声が聞こえて、伊理穂はハッと振り返った。野生の勘なのかなんなのか、なんとなく体育館入り口の方からなにか来る気がしてそちらを向くと、伊理穂めがけて野球ボールが飛んできていた。
(!)
今よければ間に合う。
思うのに、からだが竦んでしまって動けなかった。
(ぶつかるっ!)
かろうじて動いた腕で顔を庇って、ぎゅっと目をつぶったその時。
「伊理穂!!」
伊理穂の体は激しく自分に突っ込んできた誰かに、庇うように抱きしめられた。
懐かしいぬくもりにそれが洋平だと気づいた瞬間、そのからだ越しに鈍い衝撃が伝わってくる。
ぐっと低く呻く、洋平の声。
「――洋平!」
洋平が自分を庇ってケガをした。
瞬時にそれを悟ると、伊理穂の全身からざっと血の気が引く音が聞こえた。からだが恐怖でどんどん冷たくなっていく。
洋平が目の前で痛みに脂汗を浮かべ、苦渋の表情で背中を押さえて呻いた。
花道たちが慌てたようにこちらに向かって走ってくる。