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夢小説設定
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「お、ありがとう」
夏子がそこに腰掛けると、自分もその正面のイスに腰掛ける。
「夏子さん、さっきはサンキュ。助かったよ」
「いえいえ。いいってことよ。だけど、今日から合宿終わるまで、ほんとうに付き合ってるフリしてもらうからね」
「……なんで」
「なんでもなにも、そうしないとさっきのウソが意味なくなっちゃうじゃない」
嫌そうに眉を寄せて言うと、夏子が腰に手をあててあったりまえでしょーというように言った。
洋平は眉を寄せて沈黙を返していたが、ハッとあることに気づいて顔をあげる。
「え、ちょっと待てよ。合宿終わるまでってどういうことだ……? 夏子さん、明日以降もバイト入ってたよな!?」
「だーかーら、言ったでしょ? 風見くんに代わってもらったんだって」
「え……。まさか今日から合宿終了日まで?」
洋平は恐ろしい事を確認するように、そろそろと聞いた。
夏子はにんまりと満足げに頷いてくる。
「そうよ」
「ってことは、今日からずっと来るのか?」
「だから、そうだって言ってるじゃない。まったく理解力のない子ねー」
ぺしんと夏子に頭を叩かれた。
理解力がないんじゃなくて、理解するのが怖かったのだとはとりあえず言わないでおく。
「それにしても、あの花道くんって子、単純でよかったわね。むしろあの場にいた子全員? 最初のわたしと洋平の会話を聞いてたら、さっきのが咄嗟についたウソだってバレそうなものなのに」
「まあ、あいつらも気が動転してそれどころじゃなかったんだろ」
「洋平がいきなりわたしのこと抱きしめたから?」
「……いや、それは……ほんとう、悪い」
痛いところをつかれて、洋平は声を落とした。
自分に好意を寄せてくれている夏子を断り続けてきたのに、あんな風に利用してしまうなんて申し訳ないとしかもう言いようがなかった。
一瞬前の自分の行動が、心底憎らしい。
「さっきも言ったけど、別にいいって。役得だったし。……伊理穂ちゃんに見せつけたかったの?」
ぽつりと呟かれた夏子の言葉に、洋平は薄く唇を持ち上げた。
瞳が暗く影を落とす。
「わかんねえ……。そう……かもな。そんなことしたって、なんの意味もねぇのにな」
思い返して、目頭が熱くなりそうになった。
反射的に夏子を抱きしめてしまったのは、自分の中の微かなプライドがそうさせたのかもしれなかった。
夏子の言ったとおり、伊理穂に夏子との仲を見せつけて、この先の未来に自分は伊理穂なんか必要ないと、そう伊理穂に思わせたかったのかもしれない。
(ほんとうに必要とされていないのは、オレのほうなのに……)
伊理穂なんかいなくても大丈夫だと、そう強がりたかった。
そんなことをしたって、かえって自分が惨めになるだけなのに。
ふいに、頬に暖かなぬくもりを感じた。
目をあげると、間近に夏子の顔があった。
洋平の頬に手を添えて、心配そうに眉根を寄せている。
「洋平、ひどい顔色。大丈夫?」
「はは……なんとか、ね」
夏子は洋平と伊理穂の事情をすべて知っていた。
夏子の告白を断り続けているうちに、うまく夏子にしゃべらされたのだ。
なにも隠すことなくいられるのは、自分の感情にさえウソをつき続けている洋平にとってとても楽だった。
「洋平。無理しなくっていいのよ? わたしの前で強がったって意味ないでしょ?」
「夏子さんに甘えるわけにはいかねぇよ」