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もどかしそうに何か言おうとした結子を、伊理穂はじっと見つめた。
元気づけようとしてくれる結子の気持ちはすごく嬉しかったけれど、下手な言葉で今の事実をねじまげて欲しくなかった。
きっと甘い言葉をかけられたら、頭では違うとわかっていても、心がその可能性にみっともなくすがりついてしまう。
洋平には夏子がいる。自分なんかいらない。
そのことを深く心に刻みつけて、洋平の幸せを心から祈れるようになりたかった。
伊理穂の切実な視線の意味に気づいたのか、結子がハッとなって口を噤む。
「ご……ごめん、伊理穂。ほんとうにつらいのは……あんたなのに」
「ううん……」
口元をおさえて今にも泣き出しそうな表情の結子に、伊理穂は小さく首を横に振った。
「ありがとう、結ちゃん。わたしのために、怒ったり悲しんだりしてくれて。結ちゃんがいてくれるから、わたしは大丈夫だよ。だから、結ちゃんもそんな悲しそうな顔しないで……?」
「伊理穂……!」
ぎゅっと、伊理穂は結子のあたたかいぬくもりに包まれた。
「あ、わ、わたし! え……と、夏子さん……? の分の飲み物、買ってきます」
伊理穂のどこか急いたような声が体育館に響いて、伊理穂が体育館から出て行った。
少し遅れて、その後をハッと我に返った結子が追いかけていく。
洋平はその背中をじっと見つめ、やがて見えなくなると、ホッと息を吐いた。
夏子を抱きしめていた腕を解く。
「悪い、夏子さん。いきなり抱きしめたりして」
と、空気を読んでくれていたのか、今まで黙って抱きしめられたままだった夏子が、その魅力的な唇を持ち上げてにいっと微笑んだ。
「いいよ。ラッキーだったし。それにしても洋平って意外とがっしりした体つきだったのね。見た目細身だから全然わからなかった。さっすが不良。ケンカして鍛えたの? ねね、もっかい抱きしめてよ」
ヘイ、カモン! と両腕を広げて言う夏子に、洋平はなかばうんざりしながら言葉を返す。
「カンベンしてよ。だいたい夏子さん、なんでここにいんの?」
夏子は、洋平のバイトしている古着屋の先輩バイトだった。
明るくさばさばとした性格で、洋平も仕事を教えてもらうことが多く、夏子とは仲がよかった。
しかし最近では困ったことに、夏子が洋平に好意を向けてきていて、洋平はそれに少し辟易していた。
何度断っても言い寄ってくるのだ。夏子のことは嫌いではないが、恋愛感情はない。
断ったところで泣かれるわけではないし、けろっと笑顔で返されるのだけど、それでも心が痛まないわけじゃない。
それに今日だって夏子はバイトだったはずだ。
思って洋平は半眼で夏子を見る。
「テンチョーに休みの理由聞いたのよ。学校で友達の強化合宿を手伝うって。あ、学校はね、この前洋平お店に財布忘れてったでしょ? そんときに学生証見て知ったの。不良のクセにけっこういいとこ行ってんだなーと思って頭に残ってたのよねー」
「それで、今日はバイトじゃなかったっけ?」
「そこはそれ! この夏子さんの人望で、風見くんにシフト変わってもらいました」
風見とは同じく古着屋でバイトしている大学生だ。
大人しい性格でよく夏子にいいようにこき使われている。きっと今回もその調子で無理矢理シフトを変えられたのだろう。
風見の苦労も知らず、夏子はうふと片目をつぶって茶目っ気たっぷりに笑っている。
「……あ、そう」
洋平はそれに疲れたように相槌を打った。
と、夏子がふいに瞳を細めて伊理穂の消えた方を見た。
元気づけようとしてくれる結子の気持ちはすごく嬉しかったけれど、下手な言葉で今の事実をねじまげて欲しくなかった。
きっと甘い言葉をかけられたら、頭では違うとわかっていても、心がその可能性にみっともなくすがりついてしまう。
洋平には夏子がいる。自分なんかいらない。
そのことを深く心に刻みつけて、洋平の幸せを心から祈れるようになりたかった。
伊理穂の切実な視線の意味に気づいたのか、結子がハッとなって口を噤む。
「ご……ごめん、伊理穂。ほんとうにつらいのは……あんたなのに」
「ううん……」
口元をおさえて今にも泣き出しそうな表情の結子に、伊理穂は小さく首を横に振った。
「ありがとう、結ちゃん。わたしのために、怒ったり悲しんだりしてくれて。結ちゃんがいてくれるから、わたしは大丈夫だよ。だから、結ちゃんもそんな悲しそうな顔しないで……?」
「伊理穂……!」
ぎゅっと、伊理穂は結子のあたたかいぬくもりに包まれた。
「あ、わ、わたし! え……と、夏子さん……? の分の飲み物、買ってきます」
伊理穂のどこか急いたような声が体育館に響いて、伊理穂が体育館から出て行った。
少し遅れて、その後をハッと我に返った結子が追いかけていく。
洋平はその背中をじっと見つめ、やがて見えなくなると、ホッと息を吐いた。
夏子を抱きしめていた腕を解く。
「悪い、夏子さん。いきなり抱きしめたりして」
と、空気を読んでくれていたのか、今まで黙って抱きしめられたままだった夏子が、その魅力的な唇を持ち上げてにいっと微笑んだ。
「いいよ。ラッキーだったし。それにしても洋平って意外とがっしりした体つきだったのね。見た目細身だから全然わからなかった。さっすが不良。ケンカして鍛えたの? ねね、もっかい抱きしめてよ」
ヘイ、カモン! と両腕を広げて言う夏子に、洋平はなかばうんざりしながら言葉を返す。
「カンベンしてよ。だいたい夏子さん、なんでここにいんの?」
夏子は、洋平のバイトしている古着屋の先輩バイトだった。
明るくさばさばとした性格で、洋平も仕事を教えてもらうことが多く、夏子とは仲がよかった。
しかし最近では困ったことに、夏子が洋平に好意を向けてきていて、洋平はそれに少し辟易していた。
何度断っても言い寄ってくるのだ。夏子のことは嫌いではないが、恋愛感情はない。
断ったところで泣かれるわけではないし、けろっと笑顔で返されるのだけど、それでも心が痛まないわけじゃない。
それに今日だって夏子はバイトだったはずだ。
思って洋平は半眼で夏子を見る。
「テンチョーに休みの理由聞いたのよ。学校で友達の強化合宿を手伝うって。あ、学校はね、この前洋平お店に財布忘れてったでしょ? そんときに学生証見て知ったの。不良のクセにけっこういいとこ行ってんだなーと思って頭に残ってたのよねー」
「それで、今日はバイトじゃなかったっけ?」
「そこはそれ! この夏子さんの人望で、風見くんにシフト変わってもらいました」
風見とは同じく古着屋でバイトしている大学生だ。
大人しい性格でよく夏子にいいようにこき使われている。きっと今回もその調子で無理矢理シフトを変えられたのだろう。
風見の苦労も知らず、夏子はうふと片目をつぶって茶目っ気たっぷりに笑っている。
「……あ、そう」
洋平はそれに疲れたように相槌を打った。
と、夏子がふいに瞳を細めて伊理穂の消えた方を見た。