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結子の優しい言葉に、伊理穂はふるふると首を振った。
ほんとうは泣いてしまいたい。
盛大に、子どものように声を張り上げて、目の前の結子にすがりついて、そんな風に泣いてしまいたかった。
だけど、泣いたところで何も変わらない。
それに泣き叫んで目が赤くなってしまっては、かえって困ったことになる。
マネージャーとしての役目すら、果たせなくなってしまう。
それだけは嫌だった。
せめて、自分に与えられた責務くらい、きちんと果たしたい。
そこまで考えて、ずきりと胸が軋んだ。
(だけど、何のため……?)
きちんとひとり立ちをしたとしても、きっともう洋平と話せる日が来ることはない。
伊理穂が洋平のことを邪魔だと思っていると、あの場にいた事情を知らない人全員に誤解されてしまっただろう。
もしかしたら、最初から洋平は桜木軍団のみんなにそう説明していたのかもしれない。
(だから、大楠くんはなにも言わずに手伝ってくれてたのかな……)
そうなったら、伊理穂が洋平に話しかけるのはひどく不自然だろう。
実際事実はその逆なのだから、洋平が伊理穂に話しかけてくることなどないに等しい。
微かな希望さえもなくなってしまって、伊理穂の胸にぽっかりと穴があいたようになった。
それがブラックホールのようになって、どんどん溢れてくる伊理穂の感情を吸い込んでいく。
だんだんと、なにも感じられなくなっていく。
「伊理穂……なんで……!?」
結子の、憤りを含んだような声が耳を打った。
「なんで伊理穂がこんな苦しまなくっちゃいけないの……!? 伊理穂、もう充分傷ついてるじゃないの。やっぱり水戸くんに一言文句でも……!」
「結ちゃん。だめだったら」
伊理穂は泣き笑いの表情で首を振ると、諭すように言う。
「結ちゃん、なんか勘違いしてるよ。洋平、なんにも悪いことなんてしてない。そうでしょう? 洋平はやっとわたしから解放されて、それで自分の恋愛を始めただけだよ。わたしが……勝手に傷ついてる……だけ。ただそれだけ、だよ」
「――でも! 伊理穂のこと突き放したのは水戸くんのほうでしょう!? なのに、伊理穂にあんなこと言わせて……っ!」
「キライって?」
「そうよ!」
「でも……花道にはあれが一番よかったと思う。洋平、なんだかんだでやっぱ優しいから。ああすることで花道のことも……わたしのことも、守ってくれてたんだよ」
「どういう意味?」
結子が訝しそうに眉を寄せた。
伊理穂はそれに苦笑する。
「多分……花道に事実をありのまま話してたら、大変なことになってたと思うよ。花道のことだから洋平に殴りかかってたような気は……する。それだけ、洋平はいつもわたしを気にかけてくれてたし、わたしも洋平をすごく頼りにしてたから……」
花道と出会ったのは中学のときだ。
洋平が一番ひどく荒れた時に出会ったせいか、洋平と伊理穂の絆をとても強いものだと思ってくれている。
(わたしも……そう信じたかったけど……)
伊理穂は自嘲を浮かべて首を振ると、話を続ける。
「だから、わたしのほうが洋平を突き放したことにすればまだ穏便にことが進むし、それに花道だってもう楓くんはやめて洋平にしろ! なんて言ってくることもなくなるだろうし、これで全部丸く収まるでしょ?」
「――でも、伊理穂はこんなに傷ついてるじゃない!」
「それこそ自業自得だよ。洋平は、わたしが楓くんと別れたこと知らないんだし、わたしもわざわざ教えるつもりもない。……自分の気持ちだって、絶対に言わない。墓場まで持っていく」
「伊理穂……! 違う、違うのよ、伊理穂! 水戸くんは、水戸くんだってほんとうは……!」