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洋平が『会いたかったですよ』と夏子に甘く囁いた声が、わぁんと耳鳴りのように伊理穂の中で響いた。
「うええ!? お……い、洋平!?」
「どういうことだよ! お前、あんなに断り続けてたじゃねーか!」
花道や大楠たちが洋平に向かって騒ぎ立てている声が、まるで水の中にいるときのように、歪んで聞こえてくる。
頭がわんわんして平衡感覚が狂っていく。
そこにスッと入り込んでくる、洋平の声。夏子の体に巻きついたままの、洋平の腕。
「うるせーな。離れてみてはじめてわかったんだよ。この人の大切さが……さ」
ばくばくと心臓が耳元で鳴っている。
頬を冷たい汗が伝う。
ぐらりと、景色が傾いだ気がした。
伊理穂はハッと我に返ると、必死で両足を踏ん張って自分自身に喝を入れる。
今なにが起こっているのか。理解しているはずなのに、うまく飲み込むことができない。
回転の鈍くなった頭を伊理穂は必死でめぐらせる。
「あ、わ、わたし! え……と、夏子さん……? の分の飲み物、買ってきます」
「あ、伊理穂ちゃん?」
とにかく一旦この場から逃げ出したくて伊理穂は咳き込むように言った。
それに大楠が素早く反応したけれど、伊理穂は大楠に取り合わずに顔を背け、それじゃあ! とだけ言い置いて踵を返した。
そのまま強く地面を蹴って体育館から逃げ出す。
とりあえず、職員室で冷えている飲み物を持って体育館に行って、それからまた新しい飲み物をコンビニに買いに行こう。
まだかろうじて働く頭の片隅でそんなことを考えて、伊理穂は職員室へと続く渡り廊下を急いだ。
確かに地面を蹴っているはずなのに、足元がふわふわと浮いているみたいだった。
視界が揺らぐ。
さっきみた現実を否定しようと躍起になる感情が、伊理穂の喉元を締め上げた。
グッと吐き気が込み上げる。
「……っ」
伊理穂はたまらず、途中の柱に手をついてうずくまった。
「う……っ」
胸を駆け上がってくる吐き気を抑えるように、お腹に強く力を入れる。
とそこに、
「伊理穂!」
結子が現れた。
結子はうずくまる伊理穂に気づいて悲鳴のような声をあげると、慌てて伊理穂にとりすがってくる。
「伊理穂! どうしたの!?」
「あ、結……ちゃん」
体育館から追いかけてきたのが結子で伊理穂はホッと顔をあげた。
結子が血相を変えてその顔を覗き込んでくる。
「ちょっと伊理穂! 大丈夫!?」
「うん……。ちょっと驚いちゃっただけで……平気。ごめんね、心配かけて」
「平気って……っ。あんた、自分の顔色わかってるの?」
「……悪い?」
結子の言葉に、伊理穂は自分の頬に触れた。
自分の指先も頬も氷のように冷たかった。
どういう状態かはわからなかったけれど、顔色がよくはないんだろうな、ということだけはわかって伊理穂は苦笑する。
「悪いなんてもんじゃないわよ。……この世の終わりって顔してる」
「あはは。そっか」
「あははそっかじゃないでしょう!? ……伊理穂、お願いだから無理しないで。今なら誰もいないし、泣いてもいいのよ?」
「ううん……大丈夫」
「うええ!? お……い、洋平!?」
「どういうことだよ! お前、あんなに断り続けてたじゃねーか!」
花道や大楠たちが洋平に向かって騒ぎ立てている声が、まるで水の中にいるときのように、歪んで聞こえてくる。
頭がわんわんして平衡感覚が狂っていく。
そこにスッと入り込んでくる、洋平の声。夏子の体に巻きついたままの、洋平の腕。
「うるせーな。離れてみてはじめてわかったんだよ。この人の大切さが……さ」
ばくばくと心臓が耳元で鳴っている。
頬を冷たい汗が伝う。
ぐらりと、景色が傾いだ気がした。
伊理穂はハッと我に返ると、必死で両足を踏ん張って自分自身に喝を入れる。
今なにが起こっているのか。理解しているはずなのに、うまく飲み込むことができない。
回転の鈍くなった頭を伊理穂は必死でめぐらせる。
「あ、わ、わたし! え……と、夏子さん……? の分の飲み物、買ってきます」
「あ、伊理穂ちゃん?」
とにかく一旦この場から逃げ出したくて伊理穂は咳き込むように言った。
それに大楠が素早く反応したけれど、伊理穂は大楠に取り合わずに顔を背け、それじゃあ! とだけ言い置いて踵を返した。
そのまま強く地面を蹴って体育館から逃げ出す。
とりあえず、職員室で冷えている飲み物を持って体育館に行って、それからまた新しい飲み物をコンビニに買いに行こう。
まだかろうじて働く頭の片隅でそんなことを考えて、伊理穂は職員室へと続く渡り廊下を急いだ。
確かに地面を蹴っているはずなのに、足元がふわふわと浮いているみたいだった。
視界が揺らぐ。
さっきみた現実を否定しようと躍起になる感情が、伊理穂の喉元を締め上げた。
グッと吐き気が込み上げる。
「……っ」
伊理穂はたまらず、途中の柱に手をついてうずくまった。
「う……っ」
胸を駆け上がってくる吐き気を抑えるように、お腹に強く力を入れる。
とそこに、
「伊理穂!」
結子が現れた。
結子はうずくまる伊理穂に気づいて悲鳴のような声をあげると、慌てて伊理穂にとりすがってくる。
「伊理穂! どうしたの!?」
「あ、結……ちゃん」
体育館から追いかけてきたのが結子で伊理穂はホッと顔をあげた。
結子が血相を変えてその顔を覗き込んでくる。
「ちょっと伊理穂! 大丈夫!?」
「うん……。ちょっと驚いちゃっただけで……平気。ごめんね、心配かけて」
「平気って……っ。あんた、自分の顔色わかってるの?」
「……悪い?」
結子の言葉に、伊理穂は自分の頬に触れた。
自分の指先も頬も氷のように冷たかった。
どういう状態かはわからなかったけれど、顔色がよくはないんだろうな、ということだけはわかって伊理穂は苦笑する。
「悪いなんてもんじゃないわよ。……この世の終わりって顔してる」
「あはは。そっか」
「あははそっかじゃないでしょう!? ……伊理穂、お願いだから無理しないで。今なら誰もいないし、泣いてもいいのよ?」
「ううん……大丈夫」