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「洋平! 早く学校行かないと遅刻するよ~!!」
伊理穂は洋平の家のリビングから、二階の洋平の部屋で準備をしている洋平に叫んだ。
「おーう」
二階から返ってくる洋平ののんびりした返事に、伊理穂は軽く眉根を寄せる。
ほんとうにわかってんのかしら。
そう言いたげな伊理穂の表情を見て、弥生がクスクスと笑い声を上げた。
弥生は、洋平の母親だ。早くに洋平の父親でもある夫を亡くし、女手ひとつで洋平を育てていた。
世間知らずな雰囲気のある弥生だが、案外抜け目のない性格をしていた。
大事に育てた一人息子がグレても、動じることのなかったつわものの弥生だ。ぽやっとした外見にだまされていはいけない。
洋平がグレた当時、弥生の口から発せられた、血は争えないわねという恐ろしい呟きを、伊理穂は今でも聞かなかったことにしている。
触らぬ神になんとやらだ。
このどこか侮れない不思議な迫力のある弥生は、自身を『弥生さん』以外での呼び名で呼ぶことを許さなかった。
「いつも悪いわねぇ、伊理穂ちゃん」
「ううん、もう慣れっこだよ。中学あがってからずっとだもんね。洋平の遅刻癖は」
伊理穂は弥生の淹れてくれた紅茶を啜りながら、ひょうきんに笑ってみせた。
二人が小学校の時から、こうして伊理穂が洋平の家まで迎えに来て、学校へ向かうのが日常になっていた。
湘北高校の入学式を迎えてから二週間、『美女と野獣』の話をした5歳だった小さな女の子は、16歳の少女になった。
幼いころから際立ってかわいらしかったその容姿は、16歳になってさらに磨きがかかったようだった。顔からは幼いころのあどけなさがすっかり抜け落ち、手足はすらりと伸び、胸はほんのり膨らみ始め、お腹の辺りはきゅっとくびれ、おとなの女性へと変わる段階を、順調に進んでいた。
「ほんときれいになったわねぇ、伊理穂ちゃん」
湘北の制服に身をつつみ、息子が降りてくるのを待つ伊理穂をしみじみと見ながら、弥生がつぶやいた。
「ええ!? なに弥生さん急に。やだなぁ、もう」
「うふふ。あんな不良息子と今でも仲良くしてくれて、感謝してるのよ。いつからあんなになっちゃったのか……。育て方を間違ったのかしら」
弥生は、わざとらしくふぅとため息をつき、続ける。
「ほんとに、親泣かせよね~。参っちゃうわよ」
「あはは」
「おいおい。二人して俺の悪口か?」
そのとき、洋平が二階から苦笑しながら降りてきた。
「「洋平」」
伊理穂と弥生の声がきれいに重なる。
「悪い、伊理穂。遅くなった。行こうぜ」
そう言って左手に持った鞄を頭の上に持ち上げて見せる洋平も、5歳のころとはすっかり変わっていた。
黒いまっすぐな髪は、整髪料でリーゼントにがっちりと固められ、眉は吊り上るように短くカットされている。弥生の言葉通り、いまや洋平は正真正銘の不良だ。
でも、鋭い目線の奥の瞳の柔らかさや、周りの人の気持ちを思いやるやさしい性格は昔のままだった。
伊理穂は、カップに残った紅茶を一気にのどに流し込むと、自分も鞄を手に椅子から立ち上がった。
「紅茶ご馳走様です」
「いいえ。気をつけていくのよ」
「おう」
「はあい。いってきます」
それぞれ思い思いの返事を返すと、伊理穂と洋平は並んで家をでた。
伊理穂は洋平の家のリビングから、二階の洋平の部屋で準備をしている洋平に叫んだ。
「おーう」
二階から返ってくる洋平ののんびりした返事に、伊理穂は軽く眉根を寄せる。
ほんとうにわかってんのかしら。
そう言いたげな伊理穂の表情を見て、弥生がクスクスと笑い声を上げた。
弥生は、洋平の母親だ。早くに洋平の父親でもある夫を亡くし、女手ひとつで洋平を育てていた。
世間知らずな雰囲気のある弥生だが、案外抜け目のない性格をしていた。
大事に育てた一人息子がグレても、動じることのなかったつわものの弥生だ。ぽやっとした外見にだまされていはいけない。
洋平がグレた当時、弥生の口から発せられた、血は争えないわねという恐ろしい呟きを、伊理穂は今でも聞かなかったことにしている。
触らぬ神になんとやらだ。
このどこか侮れない不思議な迫力のある弥生は、自身を『弥生さん』以外での呼び名で呼ぶことを許さなかった。
「いつも悪いわねぇ、伊理穂ちゃん」
「ううん、もう慣れっこだよ。中学あがってからずっとだもんね。洋平の遅刻癖は」
伊理穂は弥生の淹れてくれた紅茶を啜りながら、ひょうきんに笑ってみせた。
二人が小学校の時から、こうして伊理穂が洋平の家まで迎えに来て、学校へ向かうのが日常になっていた。
湘北高校の入学式を迎えてから二週間、『美女と野獣』の話をした5歳だった小さな女の子は、16歳の少女になった。
幼いころから際立ってかわいらしかったその容姿は、16歳になってさらに磨きがかかったようだった。顔からは幼いころのあどけなさがすっかり抜け落ち、手足はすらりと伸び、胸はほんのり膨らみ始め、お腹の辺りはきゅっとくびれ、おとなの女性へと変わる段階を、順調に進んでいた。
「ほんときれいになったわねぇ、伊理穂ちゃん」
湘北の制服に身をつつみ、息子が降りてくるのを待つ伊理穂をしみじみと見ながら、弥生がつぶやいた。
「ええ!? なに弥生さん急に。やだなぁ、もう」
「うふふ。あんな不良息子と今でも仲良くしてくれて、感謝してるのよ。いつからあんなになっちゃったのか……。育て方を間違ったのかしら」
弥生は、わざとらしくふぅとため息をつき、続ける。
「ほんとに、親泣かせよね~。参っちゃうわよ」
「あはは」
「おいおい。二人して俺の悪口か?」
そのとき、洋平が二階から苦笑しながら降りてきた。
「「洋平」」
伊理穂と弥生の声がきれいに重なる。
「悪い、伊理穂。遅くなった。行こうぜ」
そう言って左手に持った鞄を頭の上に持ち上げて見せる洋平も、5歳のころとはすっかり変わっていた。
黒いまっすぐな髪は、整髪料でリーゼントにがっちりと固められ、眉は吊り上るように短くカットされている。弥生の言葉通り、いまや洋平は正真正銘の不良だ。
でも、鋭い目線の奥の瞳の柔らかさや、周りの人の気持ちを思いやるやさしい性格は昔のままだった。
伊理穂は、カップに残った紅茶を一気にのどに流し込むと、自分も鞄を手に椅子から立ち上がった。
「紅茶ご馳走様です」
「いいえ。気をつけていくのよ」
「おう」
「はあい。いってきます」
それぞれ思い思いの返事を返すと、伊理穂と洋平は並んで家をでた。