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伊理穂は暗い決意を固めて、のろのろと首を一度縦に振る。
「……そうなの」
強張る頬を無理矢理引っ張って、にこりと花道に微笑んだ。
ほんとうはインターハイが終わったら告げるつもりだったけれど、もう仕方なかった。
こうなったらせめてあまり花道の心を煩わせることがないように、精一杯なんでもない振りをして、慎重に言葉を選びながら言う。
「洋平、なにかと面倒見て来るから、楓くんが嫌がっちゃって……。わたしも……楓くんが大事だから……。――だから」
「――伊理穂……。ウソだろ……!?」
花道が愕然と呟いたその時だった。
「洋平!!」
ふいに体育館に明るい声が響いて、伊理穂の横を一陣の風が吹きぬけた。
その一瞬後に、何かが洋平に勢いよく抱きついた。
「うおっ!?」
「!!」
洋平が驚きながらも、自分にしがみついてきたものを抱きとめる。
そしてそれが誰かを確認して、
「な、夏子さん!?」
仰天したように声をあげた。
(夏子……さん?)
伊理穂の視線が、洋平に抱きついている女の人に釘付けになる。
右側に一房、目立つ赤のメッシュを入れたショートカットの黒髪。猫のようにくりくりと大きくて少し吊り気味の、力強い瞳。薄くルージュを落としたやわらかそうな唇。
明るく活動的な印象の美人。
(この人が……もしかしてさっき花道が言っていた人……?)
伊理穂の胸がうるさく騒ぎ出す。
「え、な、なんでここに……!?」
驚きが覚めやらない洋平をよそに、夏子と呼ばれた女性は洋平の首に腕をからませた。
そのままの体勢で、不機嫌そうに瞳を細めて言う。
「やーもう、なんでここに!? じゃないわよ! こっちからしたらなーんで急にバイト休んでんのってハ・ナ・シ! せっかく店長に頼んで洋平と同じシフトで組んでもらってるのに、洋平が急にシフト変更したりしたら、ぜーんぶパアでしょうが! もー、会いたかったぞー洋平ー!」
「わ、ちょっと、夏子さ……ん!」
言いながらしがみついてくる夏子を引き剥がそうとしていた洋平と、呆然と二人を見つめていた伊理穂との目があった。
洋平は伊理穂の目を見てハッと小さく瞳を見開くと、それまで夏子を剥がそうとしていた手を止めて、ゆっくりと夏子の体に腕をまわした。
ばくんと伊理穂の心臓が飛び上がる。
(い……や。洋平……)
思う伊理穂をよそに、ぎゅっと大事なものを抱えるように、洋平の腕に力が込められる。
「――!」
伊理穂の呼吸が止まった。
その耳に、洋平の熱のこもった声が響く。
「オレも……会いたかったですよ。夏子さん」
伊理穂の足元から、世界ががらがらと音を立てて崩れた。
To be continued…
「……そうなの」
強張る頬を無理矢理引っ張って、にこりと花道に微笑んだ。
ほんとうはインターハイが終わったら告げるつもりだったけれど、もう仕方なかった。
こうなったらせめてあまり花道の心を煩わせることがないように、精一杯なんでもない振りをして、慎重に言葉を選びながら言う。
「洋平、なにかと面倒見て来るから、楓くんが嫌がっちゃって……。わたしも……楓くんが大事だから……。――だから」
「――伊理穂……。ウソだろ……!?」
花道が愕然と呟いたその時だった。
「洋平!!」
ふいに体育館に明るい声が響いて、伊理穂の横を一陣の風が吹きぬけた。
その一瞬後に、何かが洋平に勢いよく抱きついた。
「うおっ!?」
「!!」
洋平が驚きながらも、自分にしがみついてきたものを抱きとめる。
そしてそれが誰かを確認して、
「な、夏子さん!?」
仰天したように声をあげた。
(夏子……さん?)
伊理穂の視線が、洋平に抱きついている女の人に釘付けになる。
右側に一房、目立つ赤のメッシュを入れたショートカットの黒髪。猫のようにくりくりと大きくて少し吊り気味の、力強い瞳。薄くルージュを落としたやわらかそうな唇。
明るく活動的な印象の美人。
(この人が……もしかしてさっき花道が言っていた人……?)
伊理穂の胸がうるさく騒ぎ出す。
「え、な、なんでここに……!?」
驚きが覚めやらない洋平をよそに、夏子と呼ばれた女性は洋平の首に腕をからませた。
そのままの体勢で、不機嫌そうに瞳を細めて言う。
「やーもう、なんでここに!? じゃないわよ! こっちからしたらなーんで急にバイト休んでんのってハ・ナ・シ! せっかく店長に頼んで洋平と同じシフトで組んでもらってるのに、洋平が急にシフト変更したりしたら、ぜーんぶパアでしょうが! もー、会いたかったぞー洋平ー!」
「わ、ちょっと、夏子さ……ん!」
言いながらしがみついてくる夏子を引き剥がそうとしていた洋平と、呆然と二人を見つめていた伊理穂との目があった。
洋平は伊理穂の目を見てハッと小さく瞳を見開くと、それまで夏子を剥がそうとしていた手を止めて、ゆっくりと夏子の体に腕をまわした。
ばくんと伊理穂の心臓が飛び上がる。
(い……や。洋平……)
思う伊理穂をよそに、ぎゅっと大事なものを抱えるように、洋平の腕に力が込められる。
「――!」
伊理穂の呼吸が止まった。
その耳に、洋平の熱のこもった声が響く。
「オレも……会いたかったですよ。夏子さん」
伊理穂の足元から、世界ががらがらと音を立てて崩れた。
To be continued…