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「お前こそなんて顔してんだよ。……泣きそうだったぞ」
「! ……ワリィ」
洋平は大楠の手から逃れると、ふるふると首を横に振った。
ふうと息を吐き出して、深呼吸する。
少しだけ、胸の痛みが楽になった。
「もう大丈夫だ」
「…………」
言うと、複雑な表情でじっとこちらを見つめている大楠に苦笑して、洋平はパス出しをしている野間と交代するために、そちらへ足を向けた。
合宿開始から三日が経っていた。
伊理穂は大楠に助けられて、氷嚢と冷やしタオルが入ったカゴを職員室の冷凍庫から運んできていた。
その他冷たいドリンクなども入れて持ってきているので、これがなかなか重量がある。
大楠はそれを持つのを手伝ってくれていた。
「大楠くん、ありがとう」
「いいってこれくらい。伊理穂ちゃん一人じゃこれ持てないだろ?」
「うん、正直どうしようかなって思ってた。だからすっごく助かったよ」
「はは。オレも伊理穂ちゃんの役に立てて嬉しいよ」
にかっと白い歯を見せて言ってくれた大楠に、伊理穂は微笑んだ。
「にしてもさ、久遠さん……だっけ?」
「結ちゃん?」
「そう。おっもしれー性格してんなー、あの子。高宮なんてもう完っ全に頭あがんねーぜ?」
大楠の言葉に、伊理穂も昨日の出来事を思い出した。
悪ふざけする高宮が結子の琴線に触れたのか、高宮がすっかりやり込められていたのだ。
それ以来、高宮は結子が何も言わないのに結子のフォローに走りまわっている。
はたから見ると、女王様と下僕みたいで、それがなんだか非常におかしかった。
思わずくすくすと伊理穂の口から笑いが漏れる。
「ふふふ、でしょう? 自慢の友達なんだよ、結ちゃんは。見た目で判断したりしないから、きっとみんなとも仲良くなれると思ってたんだ。まあ……あんなに早く打ち解けるとは思わなかったけど」
「だよなー」
言いながら、大楠がよっと荷物を持ち直した。
伊理穂は視線を上げて、大楠に言う。
「大楠くん、ありがとうね」
「あ? なにが?」
「いろいろ……手伝ってくれて。大楠くん……洋平に……言われてるんでしょう?」
訊ねると、大楠がハッと息を止めた。
伊理穂はそれに苦笑する。
「やっぱり」
合宿が始まってからずっと、伊理穂が困っていると絶妙なタイミングでいつも大楠が助けに来てくれた。
誰かに助けて欲しいと訴えかけたわけでも、体育館に視線をめぐらせたりして無言でアピールしたわけでもないのに、伊理穂が困っていると、そのことを言うまえにいつもいつも大楠が助けてくれた。
……いつも、洋平が助けてくれるタイミングで。
「どうしてわかったんだ?」
「洋平が、いつも助けてくれるタイミングと同じだったから。……大楠くんは……さ。わたしと洋平のこと、知ってるんだよね……?」