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「なあに、これ? なにしてるの?」
「体育館の中蒸し暑いから、熱中症にならないための準備」
「へえ。こんなにたくさん?」
「うん。一応人数分。花道と、それから……洋平たちと、あとわたしと監督と結ちゃん。予備も含めて全部で16個氷作っとこうと思って」
「へえ……。マネージャーって大変なのね」
結子は感心したように呟くと、手に持っていた荷物を地面に降ろして、伊理穂の作業を手伝ってくれた。
伊理穂はそれが嬉しくて表情をほころばせると、結子に改めてお礼を言う。
「結ちゃん、ありがとう。駆けつけてきてくれて。……すっごく心強いよ」
「いいのよこれくらい。お安い御用だもの」
「おうちは大丈夫だった?」
結子は良家のお嬢様だ。
なんとなくそういう家は厳しいというイメージがある。
心配して言うと、結子は小さく肩を竦めた。
「平気。友達の部活が人手不足だから合宿手伝ってくるって言ったら、青っ春ストラーイク! とか言いながら送り出してくれたわよ。まったく、あの父は小さい頃強く頭でも打ったんじゃないかしらね」
「あはは、結ちゃんのお父さんてちょっと変わってるんだ?」
「だいぶよ、だいぶ。自分がこんなに清らかに育ったのが不思議なくらい、奇妙奇天烈な性格してるわよあの人は」
「へえ。じゃあお父さんは結ちゃんとそっくりなんだ」
「…………それじゃあ、わたしはこれで帰ろうかしらね」
言うと、結子はくるりと踵を返した。
そのまま足元の荷物を拾い上げてすたすたと来た道を引き返していく。
「うわああ、ウソ! ウソです結ちゃぁあああん! お願いだから見捨てないでぇええ!」
「あら? あなた誰かしら?」
「伊理穂です! 月瀬伊理穂! ううううう、結ちゃんごめんなさいもう二度と言いませんからぁあああ!」
「そうね。この記憶を深く胸に刻みつけておくことね」
にっこりと結子が迫力のある笑顔で言った。
背景に般若のお面が見えるのは伊理穂の気のせいじゃないはずだ。絶対。
「……なんか変なこと考えてない?」
「いやまさか滅相もありません結ちゃん大好き!」
鋭い指摘をしてくる結子に慌てて首を振ると、結子がしばらくはかるように伊理穂を見て、それから深くため息をついた。
瞳を優しく細めて、眉尻を下げて言う。
「それにしても……水戸くん。ほんとうに合宿に参加してるのね」
「……うん」
伊理穂も困ったように微笑み返す。
「なにか会話したの?」
「ううん……。洋平にはわたしの姿は見えてないみたいです。――まあ、もちろんわたしだって迂闊に話しかけて洋平を苦しめたくないし、そのほうがいいんだけど……やっぱり、ちょっとつらい……かな。花道には感づかれないように気をつけなくちゃいけないし。そのためにはなるべく接点も減らさないといけないし。だから、結ちゃんが来てくれて、ほんとうに心強い。ありがとう、結ちゃん」
「……役に立つかはわかんないけど」
「いてくれるだけで、全然違うよ。がんばれる」
「無理しないでよ? 聞いたわよ、三井先輩から。伊理穂、この前学校休んだ日、前日に倒れたのが原因だったんですって?」
結子が眉を寄せて言った。
伊理穂はいたずらがばれたような顔でえへへと笑ってみせる。
「バレちゃいましたか」
「まあね。……三井先輩に、勝手にしゃべっちゃってごめんね」
「ううん。いいよ。心配してくれてありがとう、結ちゃん。でも……もう、大丈夫。がんばるんだ。ちゃんと自分の足で立てるように。……洋平が、いなくても大丈夫になるように。そうしたらさ、いつかまた、洋平と話せる日が来るかもしれないでしょ? だから……」