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伊理穂は体育館の外水道で氷嚢を用意しながら、深いため息をついた。
どうしてこんなことになってしまったんだろう。
考えても考えても、まったくわからない。
部の備品である氷嚢は5つしかない。後はペットボトルで代用をすることにした。中身を空にした500ミリペットボトル11本の中に伊理穂は順々に水を注いでいく。
その水がだんだんとペットボトルにたまっていくのをじっと見つめながら、伊理穂はもう一度深いため息をついた。
事の発端は昨日の朝のことだった。
花道をはじめとする赤点軍団も無事追試を突破し、学校も終業式を迎え、あとはインターハイに向けて集中するのみ! と部員全員が気合を入れて、安西監督の後輩が監督をしているという、静岡のインターハイ代表校・常誠高校に一週間の合宿に行くぞという日の朝。
なぜか、花道と伊理穂は安西とともに湘北に居残り特訓(伊理穂はその補佐だが)を申し付けられた。
そこまではまだいい。
インターハイまで残りあと10日。加えて花道のこれまでのめざましい上達ぶりを考えたら、下手にチーム練習を積ませるより、まだまだ足りない基礎の部分を強化したほうがいいという安西の考え方には大いに同意できたし、一年生マネージャーで、主に花道の面倒を見てきた伊理穂が一緒に湘北に残されることも、自然といえば自然な流れだろう。
まだ納得できる。
だけどどうして。
伊理穂の胸がずきりと痛む。
どうして、洋平たち桜木軍団までもがこの花道強化合宿に参加しているんだろう。
しかも全員が一週間の泊まりこみで。
「…………」
体育館からは、ボールがゴールに弾かれる音と、それを見ておおはしゃぎする桜木軍団の声がもれ聞こえてきている。
その中にはもちろん、洋平の楽しそうな声も含まれていた。
伊理穂はもう一度深くため息をつく。
合宿が始まってから一日が経過したけれど、まだ洋平とは一言も言葉をかわしていなかった。
それどころか、視線が交わったのだって、ほんの二、三回だ。
伊理穂の胸がきしりと痛む。
昨日はまだ洋平がうまく立ち回っていたからか、それとも花道のあまりにひどいシュートフォームのおかげでか、伊理穂と洋平が話さないことを、特に不審がられることはなかった。
もしかしたら、花道以外はもうみんな伊理穂と洋平の関係が変化したことを知っているのかもしれない。
(花道が知っているってことは……ないよね、やっぱり)
洋平は優しいひとだ。
無二の親友がやっと見つけた夢中になれるもの。それが大事な局面に差し掛かっているのに、その邪魔をするようなことは絶対にしないだろう。
だから花道が知っていることはまず間違いなくありえないはずだ。
うんうんと伊理穂は強く頷く。
とそこに。
「……なにひとりで頷いてるの?」
不審に思っていることを隠そうともせずに、誰かが後ろから声をかけてきた。
伊理穂はその声に慌てて後ろを振り返る。
「――結ちゃん!」
そこにいたのは、伊理穂の親友の久遠結子だった。
洋平も一緒に合宿に参加するとあって、伊理穂はいてもたってもいられず昨日の夜結子にSOSを出していた。
結子の手には、一週間分の荷物が入ってるんだろう大きなトートバックが握られていた。
まさかほんとうに来てくれるなんて。
感動に瞳をうるませて結子を見つめる伊理穂とは対象的に、結子はその綺麗な眉を寄せて、いぶかしむように伊理穂をじっと見つめた。
「必死な声で助けてって言うから来てみれば……。ひとりでうんうん頷いちゃって、だれか常人には見えないものと会話でもしてたの? おまけにペットボトルからはさっきから水がこれでもかってくらいあふれ続けてるし、ものすっごく怖いんだけど」
「――えっ。わあ、ほんとだ!」
結子の言葉に慌てて手元のペットボトルに視線を戻せば、その口からは溢れた水がどぼどぼと流れ出していた。
伊理穂はそのペットボトルを持つと中の水を適量まで減らし蓋をした。
そして次の空のペットボトルを蛇口の下に滑り込ませる。
その様子を眺めながら、結子が伊理穂の隣りに立った。
どうしてこんなことになってしまったんだろう。
考えても考えても、まったくわからない。
部の備品である氷嚢は5つしかない。後はペットボトルで代用をすることにした。中身を空にした500ミリペットボトル11本の中に伊理穂は順々に水を注いでいく。
その水がだんだんとペットボトルにたまっていくのをじっと見つめながら、伊理穂はもう一度深いため息をついた。
事の発端は昨日の朝のことだった。
花道をはじめとする赤点軍団も無事追試を突破し、学校も終業式を迎え、あとはインターハイに向けて集中するのみ! と部員全員が気合を入れて、安西監督の後輩が監督をしているという、静岡のインターハイ代表校・常誠高校に一週間の合宿に行くぞという日の朝。
なぜか、花道と伊理穂は安西とともに湘北に居残り特訓(伊理穂はその補佐だが)を申し付けられた。
そこまではまだいい。
インターハイまで残りあと10日。加えて花道のこれまでのめざましい上達ぶりを考えたら、下手にチーム練習を積ませるより、まだまだ足りない基礎の部分を強化したほうがいいという安西の考え方には大いに同意できたし、一年生マネージャーで、主に花道の面倒を見てきた伊理穂が一緒に湘北に残されることも、自然といえば自然な流れだろう。
まだ納得できる。
だけどどうして。
伊理穂の胸がずきりと痛む。
どうして、洋平たち桜木軍団までもがこの花道強化合宿に参加しているんだろう。
しかも全員が一週間の泊まりこみで。
「…………」
体育館からは、ボールがゴールに弾かれる音と、それを見ておおはしゃぎする桜木軍団の声がもれ聞こえてきている。
その中にはもちろん、洋平の楽しそうな声も含まれていた。
伊理穂はもう一度深くため息をつく。
合宿が始まってから一日が経過したけれど、まだ洋平とは一言も言葉をかわしていなかった。
それどころか、視線が交わったのだって、ほんの二、三回だ。
伊理穂の胸がきしりと痛む。
昨日はまだ洋平がうまく立ち回っていたからか、それとも花道のあまりにひどいシュートフォームのおかげでか、伊理穂と洋平が話さないことを、特に不審がられることはなかった。
もしかしたら、花道以外はもうみんな伊理穂と洋平の関係が変化したことを知っているのかもしれない。
(花道が知っているってことは……ないよね、やっぱり)
洋平は優しいひとだ。
無二の親友がやっと見つけた夢中になれるもの。それが大事な局面に差し掛かっているのに、その邪魔をするようなことは絶対にしないだろう。
だから花道が知っていることはまず間違いなくありえないはずだ。
うんうんと伊理穂は強く頷く。
とそこに。
「……なにひとりで頷いてるの?」
不審に思っていることを隠そうともせずに、誰かが後ろから声をかけてきた。
伊理穂はその声に慌てて後ろを振り返る。
「――結ちゃん!」
そこにいたのは、伊理穂の親友の久遠結子だった。
洋平も一緒に合宿に参加するとあって、伊理穂はいてもたってもいられず昨日の夜結子にSOSを出していた。
結子の手には、一週間分の荷物が入ってるんだろう大きなトートバックが握られていた。
まさかほんとうに来てくれるなんて。
感動に瞳をうるませて結子を見つめる伊理穂とは対象的に、結子はその綺麗な眉を寄せて、いぶかしむように伊理穂をじっと見つめた。
「必死な声で助けてって言うから来てみれば……。ひとりでうんうん頷いちゃって、だれか常人には見えないものと会話でもしてたの? おまけにペットボトルからはさっきから水がこれでもかってくらいあふれ続けてるし、ものすっごく怖いんだけど」
「――えっ。わあ、ほんとだ!」
結子の言葉に慌てて手元のペットボトルに視線を戻せば、その口からは溢れた水がどぼどぼと流れ出していた。
伊理穂はそのペットボトルを持つと中の水を適量まで減らし蓋をした。
そして次の空のペットボトルを蛇口の下に滑り込ませる。
その様子を眺めながら、結子が伊理穂の隣りに立った。