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「違う。聞こえた」
しらじらしいそのせりふに、三井は思わず瞳を細める。
流川のことだ。
自分と伊理穂が庭にふたりでいるのに気づいて、気になって外に出て来たに違いない。
だとすればやっぱり、『聞こえた』じゃなくて『聞いていた』が正解だ。
思って三井は内心で舌打ちをする。
(チッ。なんでもねー顔でウソつきやがって……!)
三井は苛立ちを抑えるように肺の底からふうと息を吐き出して三和土に腰を落ち着けると、流川のほうは見ずに唇を持ち上げた。
胸の痛みを悟られぬように、興味ないようにさらりと言う。
「ばーか。んなことしたってイミねーだろ。あいつの苦しみを増やすだけだ」
すると、流川がふいにすっと何かを差し出した。
何事かとそちらをみれば、こちらに向けられた流川の手に乗っているのは、薄くて平べったい、形の良い石だった。
わけがわからなくて、三井は訝しげに眉を寄せる。
「あ? なんだこれ?」
「良い感じに平べったい石。多分、川でよく跳ねる」
「は!? そうじゃねーよ! なんでお前はこれをオレに差し出してんだって聞いてんだよ!」
石だってくらい見りゃーオレにもわかるわっ! とつばを飛ばしながら言えば、流川が迷惑そうに顔をしかめて、それからぽつりと言った。
「ごほうび」
「いるかー!」
その耳を疑うような言葉に三井は今度こそ完全に立ち上がると、流川の手から乱暴にその石を奪いとって地面に投げた。
意図せず川での石はね遊びと同じ投げ方になり、またも意図せず石が川の水面で飛び跳ねるように五回も綺麗にバウンドした。
それを見た流川が、おお~といかにもとってつけたように抑揚なく歓声をあげ、無表情にぱちぱちと拍手を送ってくる。
その態度に三井の中のなにかが、ぷちっと音を立てて切れた。
うおお~っと両手を上に振り上げて、怒りの感情を露わにする。
「拍手なんて送ってんじゃねー!」
「いや、だって地面なのによく跳ねたし」
「そういう問題じゃねーっ!! くそっ、わけわかんねーもん差し出しやがって!」
噛み付くようにそう言うと、途端にバカらしくなって三井はどすんと勢いよく三和土に腰掛けた。
少しだけお尻がじんじんしたけれど、それを流川に悟られるのはひどく悔しいので、あえてなんでもない振りして三井は嘆息する。
しばらく沈黙して二人でそこに座っていると、ふいに胸にありがとうと微笑んだ伊理穂の表情が浮かんだ。
瞳を閉じてまぶたの裏のそれをじっと見つめながら、三井が小さく口を開く。
「伊理穂のこと……。早く、なんとかしてやりてーな」
「…………」
目を開けると、流川がこくりと頷いたのが見えた。
それに薄く口端を持ち上げていると、流川がでも、と深刻そうに三井を振り返る。
「まず、テストが優先。さっき木暮センパイが三井センパイのこと探してた」
「なにィ!? おい、さっきっていつだ!」
流川が三井の隣りに来てからもうだいぶ時間が経っている。
嫌な予感しかしない。
「……30分くらい前?」
呑気に首を傾げながら言う流川の胸倉を、三井は乱暴に掴んだ。
「おい、なにがさっきだ! もうけっこうな時間経ってんじゃねーか!」
「でも聞いたときはさっきだった」
「バカヤロウ! その理屈で言ったら10年前もつい最近になるじゃねーか!」
脳裏に『つい最近まで制服着てたと思ったのにねえ。今じゃもう二児の母親よ』とご近所で話していたおばちゃんを思い出しながら言うと、流川がわざとらしくぽんと手を打った。
「なるほど」
「な・る・ほ・ど・じゃねええええええっ! 流川! てめえなんでもっと早く言わねえんだよ!」
「オレは勉強ほぼ終わってるから」
「~~っ! クッソ、こいつマジムカツク! こいつマジムカツク! オレがいなかったら湘北はインターハイ一回戦負け確実だぞ!?」
「どあほう。オレがいればカンケーねー。優勝確実」
「ああ!? んだと流川! てめえ、一年のクセにベスト5選ばれたからって調子乗ってんじゃねーぞ! お前、もう、ほんとマジ殺す! 覚悟しやがれ!!」
三井が拳を振り上げたその時。
「くぉら~~~~っ!」
耳を塞ぎたくなるような怒号が二人に放たれた。
声の正体は赤木だった。
赤木はゴリラよろしく肩をいからせてずんずんとこちらへ近寄ると、流川の胸倉を掴んでいる三井の頭に、強烈なゲンコツをお見舞いした。
その衝撃の大きさに思わず三井の手が流川から離れて、呼吸の楽になった流川がホッと息をつく。
「三井、貴様勉強もせず何をやっとるかあ! 木暮がずっとお前のこと探してるぞ! わかったらさっさと中に戻れ! こんな夜中に大声を出して、ご近所の迷惑だろうが!」
「お前の大声だって負けてねえよ、赤木!」
「なんだと!?」
口答えする三井に顔を怒らせる赤木の隙を見計らって、流川がひょひょいとリビングへと戻っていった。
「あ! 流川、てめ! 自分だけ逃げる気か!?」
裏切り者! と声をかけても、流川はもう振り向きもしなかった。
くそっとぎりぎりと三井は歯噛みする。
(流川のやろう……っ!)
そんな三井の頭に、もう一度赤木のゲンコツが炸裂した。
目の前に華麗に火花が飛び散る。
多分この火花と一緒に、覚えた内容がいくつか飛び散ったに違いない。
そんな三井の思いもよそに、更に赤木が言い募る。
「いいからさっさと戻れ!」
「わかったよ! るっせえな、そう何度も叩くな、マウンテンゴリラ! 覚えたことが飛んじまうだろ!」
「誰がゴリラだウッホ!」
声を張り上げる赤木から逃げるようにリビングへ転がり込むと、騒ぎを聞きつけて見ていたのか弾ける様な笑顔で笑っている伊理穂と目があった。
その明るい表情に、三井の心も自然と明るくなる。
やはり自分は、伊理穂の笑顔が大好きだ。
(とはいえ、今は流川の言うとおり、マジで勉強に集中しねーとな)
思うと、三井は木暮に謝って、再び勉強を再開した。
To be continued…