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倒れた日から二日後の夜。
伊理穂は赤木家のリビングで、流川の前に座って勉強を教えていた。
湘北高校では、赤点のある生徒はインターハイには出られないという規則がある。
なのに、湘北高校男子バスケ部の主戦力のうち、赤木と木暮を除く四人が、なんと赤点を取っていた。
これはもはや三井襲撃事件以来の、バスケ部の危機だ。
というわけで、赤木家には赤木・木暮・彩子・伊理穂の優等生軍団と、三井・宮城・流川・桜木の問題児軍団で追試対策の勉強合宿を行っていた。
伊理穂は、与えられた問題を解き終わった流川が差し出してきた答案用紙を受け取った。
「おつかれさま、楓くん」
ねぎらいの言葉をかけ、答案用紙に目を落としながら丸つけのために赤ペンのふたを開けていると、流川がぽそりと小さく呟いた。
「ワルイ」
「え?」
きょとんと顔をあげる伊理穂の視線の先には、バツが悪そうに瞳を伏せた流川の顔。
ぼそぼそとすまなそうに唇を動かしている。
「伊理穂からノート、借りてたのに」
「ああ。なんだ、そんなこと?」
別に気にしなくて良いのに、と伊理穂が言おうとしたところで、ふいに流川の隣りに座っていた花道が彼に突っかかった。
「くぉらルカワ! てめえ、伊理穂にノート借りといて赤点なんて何考えてんだ! あんまり彼女に苦労させてんじゃねーぞ!」
花道の最後のせりふに、伊理穂の肩がぴくりと小さく震える。
そうだ。花道にはまだ流川と別れたことを言えていなかった。
――洋平と、仲違いしたことも。
(どうしよう……)
伊理穂は戸惑って瞳をさまよわせた。
言うべきか言わざるべきか。
洋平と仲違いしたことは洋平が伝えるかもしれないし、それは最悪洋平まかせにしたとしても、流川と別れたことはいつかは言わなければならなかった。
だって、その事実はいまはまだ伊理穂と、流川と、それから結子しか知らない。
伝えられるのは伊理穂しかいなかった。
(でも……いま言ったら勉強どころじゃなくなる……よね……?)
伊理穂はまだ流川に突っかかっている花道を盗み見ながら、どうしたものかと眉尻を下げた。
その伊理穂の困ったような視線に気づいた流川が、伊理穂に黙っているよう目配せをして、それまで完全無視していた花道に向き直る。
「るせー。勉強の邪魔だ」
「んだとぉ!?」
流川のその言葉に花道ががたんと椅子を鳴らして立ち上がった。流川につかみかかろうとする花道のその脳天に、騒ぎに気づいた赤木の拳が落ちる。
ぐおっと低い呻き声をあげて花道が頭を押さえてしゃがみ込んだ。
「ぐぬぬ……っ。悪いのはルカワなのになぜ……っ!」
「このたわけ! 赤点の数トップのくせに何言うか! ホレ、こっちに集中しろ!」
喧々囂々とやりだす花道と赤木に伊理穂は小さく笑いながら、二人には聞こえないように流川にそっと囁いた。
「楓くん。ごめんね、ありがとう」
「ん。無理すんな、伊理穂。オレたちのことは今言わなくてもいい。今言うとこいつがめんどくせー。オレはこのままでも別につらくねーから。……だから、そんな泣きそうな顔すんな、伊理穂」
オレは大丈夫だから。
そう重ねて伝えてくれる流川に、伊理穂の目頭が熱くなった。
伊理穂の脳裏に、流川と別れた日のことがよみがえる。
流川がまだ伊理穂と付き合っていると思われたままで、つらくないはずなかった。
伊理穂は赤木家のリビングで、流川の前に座って勉強を教えていた。
湘北高校では、赤点のある生徒はインターハイには出られないという規則がある。
なのに、湘北高校男子バスケ部の主戦力のうち、赤木と木暮を除く四人が、なんと赤点を取っていた。
これはもはや三井襲撃事件以来の、バスケ部の危機だ。
というわけで、赤木家には赤木・木暮・彩子・伊理穂の優等生軍団と、三井・宮城・流川・桜木の問題児軍団で追試対策の勉強合宿を行っていた。
伊理穂は、与えられた問題を解き終わった流川が差し出してきた答案用紙を受け取った。
「おつかれさま、楓くん」
ねぎらいの言葉をかけ、答案用紙に目を落としながら丸つけのために赤ペンのふたを開けていると、流川がぽそりと小さく呟いた。
「ワルイ」
「え?」
きょとんと顔をあげる伊理穂の視線の先には、バツが悪そうに瞳を伏せた流川の顔。
ぼそぼそとすまなそうに唇を動かしている。
「伊理穂からノート、借りてたのに」
「ああ。なんだ、そんなこと?」
別に気にしなくて良いのに、と伊理穂が言おうとしたところで、ふいに流川の隣りに座っていた花道が彼に突っかかった。
「くぉらルカワ! てめえ、伊理穂にノート借りといて赤点なんて何考えてんだ! あんまり彼女に苦労させてんじゃねーぞ!」
花道の最後のせりふに、伊理穂の肩がぴくりと小さく震える。
そうだ。花道にはまだ流川と別れたことを言えていなかった。
――洋平と、仲違いしたことも。
(どうしよう……)
伊理穂は戸惑って瞳をさまよわせた。
言うべきか言わざるべきか。
洋平と仲違いしたことは洋平が伝えるかもしれないし、それは最悪洋平まかせにしたとしても、流川と別れたことはいつかは言わなければならなかった。
だって、その事実はいまはまだ伊理穂と、流川と、それから結子しか知らない。
伝えられるのは伊理穂しかいなかった。
(でも……いま言ったら勉強どころじゃなくなる……よね……?)
伊理穂はまだ流川に突っかかっている花道を盗み見ながら、どうしたものかと眉尻を下げた。
その伊理穂の困ったような視線に気づいた流川が、伊理穂に黙っているよう目配せをして、それまで完全無視していた花道に向き直る。
「るせー。勉強の邪魔だ」
「んだとぉ!?」
流川のその言葉に花道ががたんと椅子を鳴らして立ち上がった。流川につかみかかろうとする花道のその脳天に、騒ぎに気づいた赤木の拳が落ちる。
ぐおっと低い呻き声をあげて花道が頭を押さえてしゃがみ込んだ。
「ぐぬぬ……っ。悪いのはルカワなのになぜ……っ!」
「このたわけ! 赤点の数トップのくせに何言うか! ホレ、こっちに集中しろ!」
喧々囂々とやりだす花道と赤木に伊理穂は小さく笑いながら、二人には聞こえないように流川にそっと囁いた。
「楓くん。ごめんね、ありがとう」
「ん。無理すんな、伊理穂。オレたちのことは今言わなくてもいい。今言うとこいつがめんどくせー。オレはこのままでも別につらくねーから。……だから、そんな泣きそうな顔すんな、伊理穂」
オレは大丈夫だから。
そう重ねて伝えてくれる流川に、伊理穂の目頭が熱くなった。
伊理穂の脳裏に、流川と別れた日のことがよみがえる。
流川がまだ伊理穂と付き合っていると思われたままで、つらくないはずなかった。