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目からは勝手に涙が溢れ出す。
心臓がばくばくと脈打っていた。
その拍動と一緒に全身に鋭い棘のような痛みがいきわたって、からだがばらばらになってしまいそうだった。
伊理穂はなんとか吐き気を押し返すと、荒く息をついて、言葉を続けた。
どうして。
「あんなにも彼を苦しめておきながら、まだそんなことを思う自分がいるなんて、ほんとう、自分に自分で心底嫌気がさす……っ。だけど、忘れられないの。洋平が……好きで……っ、しょうがなくて……っ! あのぬくもりも、優しい笑顔も、声も、全部全部、わたしに向けてくれたもの全てが、……よ、洋平が……無理して生み出した幻だってわかってもなお……それでも……欲しいと望んじゃうなんて……っ!」
最低だ。
洋平に愛されないのは当然だった。
洋平に嫌われるのは当然だった。
こんな自分勝手な人間、誰だって嫌に決まっている。
だけど、日を追うごとにその想いが募って。苦しみは癒えるどころか、時間が経てば経つほど増えていって。
(こんな……苦しみが、あるなんて……っ!)
傷は時間が癒してくれるなんて嘘だ。
だって忘れられない。
洋平の匂いや声や笑顔はだんだんと霞んでいくのに、それに反比例するように想いだけがどんどん募っていく。
苦しいくらいに、伊理穂の心を支配していく。
(好き……っ!)
「伊理穂……っ」
「わたし、きっと一生、洋平のこと忘れたりなんてできない。だって、好きで好きで好きで、自分でももう本当にどうしようもないんだもん……! だからこそ、洋平にはこんな気持ち、絶対に絶対に悟られないようにしなくちゃいけないの。洋平、わたしがこんな風に思ってるってわかったら、きっとすごく嫌な思いをするに決まってる……!」
洋平の声、久しぶりに聞きたいなと思って。そう言った伊理穂に、いい加減にしてくれよと言った洋平のあの日の表情が、伊理穂の頭に鮮明によみがえる。
やっと解放されたと思ったのにと忌々しそうに表情を歪めて、まだ伊理穂の面倒を見る日々が続くのかと、苦悶に顔をゆがめた洋平。
好きだなんて言ったら、どれほど洋平が嫌な思いをするのか、想像する必要もないくらい手に取るようにわかった。
「だから、洋平に気持ちを伝えるなんて絶対にない。――結ちゃんも、彼のことはもうほっといてあげて。わたしのことなんか、もう二度と思い出さなくていいように。もう二度と、関わらないですむように。洋平が、これから先……幸せに、暮らせる……ように……! わたしがいないことが、彼の幸せだから……」
「伊理穂……っ!」
「結ちゃん……っ!!」
伊理穂は、結子に抱きつくと子供のように声をあげて大泣きした。
伊理穂は月の明かりが降り注ぐ夜の道を、家へと歩いていた。
満月が近いのか、月の光は強く、それほど恐怖もなかった。
あれからしばらく結子の胸で泣いて、気づいたらとっぷりと日が暮れていた。
どれほどの間そうしていたんだろう。
伊理穂は驚いて結子から離れると、慌てて謝った。
結子は優しく微笑んで、いいのよと言ってくれた。
帰るという伊理穂に、泊まればと勧めてくれたけど、伊理穂はそれを辞退した。
車で家まで送るとも言ってくれたけれども、それも遠慮した。
少し、夜風に当たりたかった。
まぶたが重い。
泣きすぎて、頭の芯がぼんやりと霞んでいた。
心臓がばくばくと脈打っていた。
その拍動と一緒に全身に鋭い棘のような痛みがいきわたって、からだがばらばらになってしまいそうだった。
伊理穂はなんとか吐き気を押し返すと、荒く息をついて、言葉を続けた。
どうして。
「あんなにも彼を苦しめておきながら、まだそんなことを思う自分がいるなんて、ほんとう、自分に自分で心底嫌気がさす……っ。だけど、忘れられないの。洋平が……好きで……っ、しょうがなくて……っ! あのぬくもりも、優しい笑顔も、声も、全部全部、わたしに向けてくれたもの全てが、……よ、洋平が……無理して生み出した幻だってわかってもなお……それでも……欲しいと望んじゃうなんて……っ!」
最低だ。
洋平に愛されないのは当然だった。
洋平に嫌われるのは当然だった。
こんな自分勝手な人間、誰だって嫌に決まっている。
だけど、日を追うごとにその想いが募って。苦しみは癒えるどころか、時間が経てば経つほど増えていって。
(こんな……苦しみが、あるなんて……っ!)
傷は時間が癒してくれるなんて嘘だ。
だって忘れられない。
洋平の匂いや声や笑顔はだんだんと霞んでいくのに、それに反比例するように想いだけがどんどん募っていく。
苦しいくらいに、伊理穂の心を支配していく。
(好き……っ!)
「伊理穂……っ」
「わたし、きっと一生、洋平のこと忘れたりなんてできない。だって、好きで好きで好きで、自分でももう本当にどうしようもないんだもん……! だからこそ、洋平にはこんな気持ち、絶対に絶対に悟られないようにしなくちゃいけないの。洋平、わたしがこんな風に思ってるってわかったら、きっとすごく嫌な思いをするに決まってる……!」
洋平の声、久しぶりに聞きたいなと思って。そう言った伊理穂に、いい加減にしてくれよと言った洋平のあの日の表情が、伊理穂の頭に鮮明によみがえる。
やっと解放されたと思ったのにと忌々しそうに表情を歪めて、まだ伊理穂の面倒を見る日々が続くのかと、苦悶に顔をゆがめた洋平。
好きだなんて言ったら、どれほど洋平が嫌な思いをするのか、想像する必要もないくらい手に取るようにわかった。
「だから、洋平に気持ちを伝えるなんて絶対にない。――結ちゃんも、彼のことはもうほっといてあげて。わたしのことなんか、もう二度と思い出さなくていいように。もう二度と、関わらないですむように。洋平が、これから先……幸せに、暮らせる……ように……! わたしがいないことが、彼の幸せだから……」
「伊理穂……っ!」
「結ちゃん……っ!!」
伊理穂は、結子に抱きつくと子供のように声をあげて大泣きした。
伊理穂は月の明かりが降り注ぐ夜の道を、家へと歩いていた。
満月が近いのか、月の光は強く、それほど恐怖もなかった。
あれからしばらく結子の胸で泣いて、気づいたらとっぷりと日が暮れていた。
どれほどの間そうしていたんだろう。
伊理穂は驚いて結子から離れると、慌てて謝った。
結子は優しく微笑んで、いいのよと言ってくれた。
帰るという伊理穂に、泊まればと勧めてくれたけど、伊理穂はそれを辞退した。
車で家まで送るとも言ってくれたけれども、それも遠慮した。
少し、夜風に当たりたかった。
まぶたが重い。
泣きすぎて、頭の芯がぼんやりと霞んでいた。