17
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「洋平は……いつもいつも、こんなに我慢してたんだって、そのたびに気づかされる。毎日毎日、嫌になるくらい、それこそ気がおかしくなりそうなくらい、たくさんたくさん我慢して、わたしの相手をしてくれてたんだって、胸が張り裂けそうになる。洋平の気持ち、本当は三年前から気づいてたのに、もっと早く彼を解放してあげられたのに、わたしが……洋平の優しさを……利用して……。気づいてたのに、知らないフリして、ずっとそばにい続けて、彼の時間も心も、くいつぶしてた」
伊理穂はとめどなく流れる涙を隠すように、顔を両手で覆った。
俯いた背中を、結子が優しく撫でてくれる。
そのあたたかさに導かれるように、伊理穂は言葉を続けた。
「きっと、これまでの時間は、洋平にとっては死ぬよりつらい拷問だったよね。どれだけ、わたしが自分のことしか考えてなかったのか。どれだけ洋平が毎日毎日苦しかったのか。彼の顔が思い浮かぶたびに、毎日毎日、ほんとう嫌になるくらい思い知る……!」
「伊理穂……」
「わたし、洋平のこと好きだなんて思う資格ないんだよ。伝えるなんてそんなの論外だよ、結ちゃん。洋平には、わたしのこと、早く忘れてもらいたい。なるべく彼の視界に入らないように、彼にもうこれ以上苦しみを与えないように過ごしていかなきゃいけない……って、思う……のにっ!」
伊理穂の心の中を激しい嵐が吹き荒れた。
洋平のためにはどうすればいいのか。そんなの考えなくてもわかる。
彼の前から自分が消えること。
もう二度と関わらずに、彼とは関係のないところで人生を送ること。
それが一番。
わかってる。簡単なことだ。
だけど、苦しくて。
どうすればいいのかはわかるのに、それを実行するのは死ぬより苦しくて。
(こんなことに、なってもなお……! そばに……いて欲しいと、願ってしまうなんて……!)
なんて愚かで浅はかな自分。
伊理穂は嗚咽をこらえながら、喉に絡まる言葉をなんとか押し出した。
「まどの……かぎっ!」
「え?」
「窓の……鍵を、閉めることができないの!」
洋平の部屋と玄関代わりに使っていた、自室の窓。
洋平の部屋の窓は固く閉ざされているのに、伊理穂は自分の窓の鍵を閉めることがどうしてもできなかった。
だって、もしかしたら。
「そんなこと、ないって……! もう二度とそんな日は来ないって、わかって……るのにっ! もしかしたら、この窓を開けて、よ、洋平が……っ、もう一度、わたしに向けて笑ってくれるかも……って! あの声で名前を呼んで、微笑んで、髪を撫でてくれるかもって……っ!! よう……へ……っ!」
目が回る。
世界が勢いよく回転して、自分がどこにいるのかわからなかった。
胸に吐き気が込み上げる。
どうしてなんだろう。
どうして。
何度も何度も胸に同じ想いがうごめいて、伊理穂の呼吸を詰まらせる。
胃から口に向けて、苦いものがせり上がって来る。
それを吐き出してしまわないように、伊理穂は咄嗟に口元を押さえた。
どうして。
こんなにも嫌われる運命ならば、どうして。
(どうしてわたしと洋平、こんなに近くに生まれついてしまったの……!?)
真っ青な顔をして口元を押さえる伊理穂に、結子が慌てたようにとりすがった。
「伊理穂、どうしたの? 気持ち悪いの?」
「……っ」
首を僅かに横に振るので精一杯だった。
苦しい。
口の中が苦い。
伊理穂はとめどなく流れる涙を隠すように、顔を両手で覆った。
俯いた背中を、結子が優しく撫でてくれる。
そのあたたかさに導かれるように、伊理穂は言葉を続けた。
「きっと、これまでの時間は、洋平にとっては死ぬよりつらい拷問だったよね。どれだけ、わたしが自分のことしか考えてなかったのか。どれだけ洋平が毎日毎日苦しかったのか。彼の顔が思い浮かぶたびに、毎日毎日、ほんとう嫌になるくらい思い知る……!」
「伊理穂……」
「わたし、洋平のこと好きだなんて思う資格ないんだよ。伝えるなんてそんなの論外だよ、結ちゃん。洋平には、わたしのこと、早く忘れてもらいたい。なるべく彼の視界に入らないように、彼にもうこれ以上苦しみを与えないように過ごしていかなきゃいけない……って、思う……のにっ!」
伊理穂の心の中を激しい嵐が吹き荒れた。
洋平のためにはどうすればいいのか。そんなの考えなくてもわかる。
彼の前から自分が消えること。
もう二度と関わらずに、彼とは関係のないところで人生を送ること。
それが一番。
わかってる。簡単なことだ。
だけど、苦しくて。
どうすればいいのかはわかるのに、それを実行するのは死ぬより苦しくて。
(こんなことに、なってもなお……! そばに……いて欲しいと、願ってしまうなんて……!)
なんて愚かで浅はかな自分。
伊理穂は嗚咽をこらえながら、喉に絡まる言葉をなんとか押し出した。
「まどの……かぎっ!」
「え?」
「窓の……鍵を、閉めることができないの!」
洋平の部屋と玄関代わりに使っていた、自室の窓。
洋平の部屋の窓は固く閉ざされているのに、伊理穂は自分の窓の鍵を閉めることがどうしてもできなかった。
だって、もしかしたら。
「そんなこと、ないって……! もう二度とそんな日は来ないって、わかって……るのにっ! もしかしたら、この窓を開けて、よ、洋平が……っ、もう一度、わたしに向けて笑ってくれるかも……って! あの声で名前を呼んで、微笑んで、髪を撫でてくれるかもって……っ!! よう……へ……っ!」
目が回る。
世界が勢いよく回転して、自分がどこにいるのかわからなかった。
胸に吐き気が込み上げる。
どうしてなんだろう。
どうして。
何度も何度も胸に同じ想いがうごめいて、伊理穂の呼吸を詰まらせる。
胃から口に向けて、苦いものがせり上がって来る。
それを吐き出してしまわないように、伊理穂は咄嗟に口元を押さえた。
どうして。
こんなにも嫌われる運命ならば、どうして。
(どうしてわたしと洋平、こんなに近くに生まれついてしまったの……!?)
真っ青な顔をして口元を押さえる伊理穂に、結子が慌てたようにとりすがった。
「伊理穂、どうしたの? 気持ち悪いの?」
「……っ」
首を僅かに横に振るので精一杯だった。
苦しい。
口の中が苦い。