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「褒めてるんだよ! 決まってるじゃない!」
伊理穂がグッと手を拳の形にして慌てたように身を乗り出した。
その伊理穂の必死な様子に、結子の胸がくすぐったくなった。
衝動のままに小さく笑みを零すと、緊張していた気持ちがほぐれて、嬉しさが胸に込み上げてくる。
伊理穂の瞳は、結子の家のことを知る前と知った後で、なんら変わることがなかった。
変に距離を置かれたり、逆に恩恵にあやかろうというような欲目も見られない。
一瞬前まで向けてくれていたいつもの笑顔と同じ顔で、伊理穂が結子に微笑んでくれる。
結子にはそのことがとてつもなく嬉しかった。
小学校中学校は、どうしてもせまい地域社会の枠組みの中で過ごすことになる。自然、その狭い世界では結子の家のことは最初から誰もが知っていることとなり、結子が何かをする前から、結子は『久遠家』のご令嬢として見られていた。
こどもは無邪気だ。それゆえに残酷だ。
小学校の頃一番仲の良かった友達に結子がある日ふいに言った言葉。その答え。
『友達になってくれてありがとう』
『だって、お母さんが結子ちゃんと仲良くなっておくとなにかと有利だからそうしなさいって』
結子はその言葉をこれまで一瞬たりと忘れたことはない。
それを境に結子はひとりでいることが多くなった。
ひとりでいることは嫌いではなかったけれど、それでもひとりが好きなわけでもない。
やっぱり淋しかった。
それ以来、どうしても友人と距離を置いて付き合うようになってしまった自分自身がなにより悲しかった。
高校に入って1年10組になって、伊理穂と出会って。
たまたま出席番号が近くて話すようになったこの子が、屈託なく笑って大好きと言ってくれたのがすごくうれしかった。
『結ちゃんて、見た目はすっごくおしとやかそうなのに、中身は結構ドライで過激だよね! 結ちゃんのそういうところ、おもしろくて大好き!』
そう結子の性格を評して、そこが好きと無邪気に微笑んで言ってくれたことがすごく嬉しかった。
ふいにそんなことを思い出して、結子の胸が熱くなる。
今も目の前で、拳を固めたまま「他にも結ちゃんの素敵なところはね……」と、結子の好きなところを挙げてくれる伊理穂のことが、たまらなく好きだった。
「伊理穂、ありがとう」
すこしだけぼんやりゆらめく視界でそう言うと、伊理穂が再びきょとんとして結子を見てきた。
そんな伊理穂に、結子は続けて言う。
「伊理穂。わたしね、ずっと不安だったの。わたしの家がお金持ちだってわかったら、見る目が変わっちゃうんじゃないかって」
「どうして?」
心底わからないというように、伊理穂が眉を寄せる。
「別に結ちゃんの家柄と付き合うわけじゃないし、そんなの関係ないよ。だいたい、それを言うならうちのほうじゃない?」
言うと、伊理穂は真剣な表情で自分の顔に人差し指を向けた。
「だって、うちなんてお父さんが神奈川最強の暴走族『死神』を旗上げした、伝説の初代総長なんだよ? 見る目が変わるんだとしたら間違いなくうちだよ。聞く人が聞いたら、犯罪者の娘と同じレベルの恐怖具合だもん、きっと」
うんうんとひとりで頷きながら言う伊理穂に、結子は今度こそ本格的に吹き出した。
その笑い声に伊理穂が驚いたように結子をみて、それから自分もつられたように笑い出す。
「あはは、確かにその通りよね! 実家がお金持ちってよりも、お父さんが神奈川で伝説の暴走族総長ってほうが、すっごくインパクトあるわ」
「でしょう~! だからさ、そんなこと気にしないで平気だよ、結ちゃん。わたしは、結ちゃんの性格が大好きで、結ちゃんが好きなんだから」
「うん。ありがとう、伊理穂。わたしも、伊理穂のそういう裏表のない無邪気なところが大好き。……伊理穂と、友達になれてよかった」
「――! うん! わたしも!!」
結ちゃーん! と飛びついてきた伊理穂を、結子は笑いながら抱きとめた。
伊理穂がグッと手を拳の形にして慌てたように身を乗り出した。
その伊理穂の必死な様子に、結子の胸がくすぐったくなった。
衝動のままに小さく笑みを零すと、緊張していた気持ちがほぐれて、嬉しさが胸に込み上げてくる。
伊理穂の瞳は、結子の家のことを知る前と知った後で、なんら変わることがなかった。
変に距離を置かれたり、逆に恩恵にあやかろうというような欲目も見られない。
一瞬前まで向けてくれていたいつもの笑顔と同じ顔で、伊理穂が結子に微笑んでくれる。
結子にはそのことがとてつもなく嬉しかった。
小学校中学校は、どうしてもせまい地域社会の枠組みの中で過ごすことになる。自然、その狭い世界では結子の家のことは最初から誰もが知っていることとなり、結子が何かをする前から、結子は『久遠家』のご令嬢として見られていた。
こどもは無邪気だ。それゆえに残酷だ。
小学校の頃一番仲の良かった友達に結子がある日ふいに言った言葉。その答え。
『友達になってくれてありがとう』
『だって、お母さんが結子ちゃんと仲良くなっておくとなにかと有利だからそうしなさいって』
結子はその言葉をこれまで一瞬たりと忘れたことはない。
それを境に結子はひとりでいることが多くなった。
ひとりでいることは嫌いではなかったけれど、それでもひとりが好きなわけでもない。
やっぱり淋しかった。
それ以来、どうしても友人と距離を置いて付き合うようになってしまった自分自身がなにより悲しかった。
高校に入って1年10組になって、伊理穂と出会って。
たまたま出席番号が近くて話すようになったこの子が、屈託なく笑って大好きと言ってくれたのがすごくうれしかった。
『結ちゃんて、見た目はすっごくおしとやかそうなのに、中身は結構ドライで過激だよね! 結ちゃんのそういうところ、おもしろくて大好き!』
そう結子の性格を評して、そこが好きと無邪気に微笑んで言ってくれたことがすごく嬉しかった。
ふいにそんなことを思い出して、結子の胸が熱くなる。
今も目の前で、拳を固めたまま「他にも結ちゃんの素敵なところはね……」と、結子の好きなところを挙げてくれる伊理穂のことが、たまらなく好きだった。
「伊理穂、ありがとう」
すこしだけぼんやりゆらめく視界でそう言うと、伊理穂が再びきょとんとして結子を見てきた。
そんな伊理穂に、結子は続けて言う。
「伊理穂。わたしね、ずっと不安だったの。わたしの家がお金持ちだってわかったら、見る目が変わっちゃうんじゃないかって」
「どうして?」
心底わからないというように、伊理穂が眉を寄せる。
「別に結ちゃんの家柄と付き合うわけじゃないし、そんなの関係ないよ。だいたい、それを言うならうちのほうじゃない?」
言うと、伊理穂は真剣な表情で自分の顔に人差し指を向けた。
「だって、うちなんてお父さんが神奈川最強の暴走族『死神』を旗上げした、伝説の初代総長なんだよ? 見る目が変わるんだとしたら間違いなくうちだよ。聞く人が聞いたら、犯罪者の娘と同じレベルの恐怖具合だもん、きっと」
うんうんとひとりで頷きながら言う伊理穂に、結子は今度こそ本格的に吹き出した。
その笑い声に伊理穂が驚いたように結子をみて、それから自分もつられたように笑い出す。
「あはは、確かにその通りよね! 実家がお金持ちってよりも、お父さんが神奈川で伝説の暴走族総長ってほうが、すっごくインパクトあるわ」
「でしょう~! だからさ、そんなこと気にしないで平気だよ、結ちゃん。わたしは、結ちゃんの性格が大好きで、結ちゃんが好きなんだから」
「うん。ありがとう、伊理穂。わたしも、伊理穂のそういう裏表のない無邪気なところが大好き。……伊理穂と、友達になれてよかった」
「――! うん! わたしも!!」
結ちゃーん! と飛びついてきた伊理穂を、結子は笑いながら抱きとめた。