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伊理穂は静かにその瞳を見つめ返す。
「伊理穂。オレはもう、今この時からお前の彼氏じゃねー」
「楓くん」
その言葉に、少し収まっていた涙が、ぼろっと零れた。
流川がそれをしょうがねえなというように瞳を細めて、優しく拭ってくれる。
「――だけど。オレは別れても、友人としてお前のそばにいる。いつでも、お前を見守ってる。だから、苦しいときはひとりになんな。オレを頼れ。オレに、友人としてお前を支えさせてくれ」
「か、楓くん……! だけど……っ!」
そんなのってあまりに勝手で許されない気がした。
自分の都合で流川を振り回して、これ以上彼に頼るなどと。ほんとうなら、友人として付き合ってくれるということ自体が奇跡なのに。
思って言おうとした言葉を、流川が首を振って遮ってくる。
「伊理穂。お前の、オレと別れたいっていうエゴは叶えてやる。だから……お前は、オレがお前の支えになりたいっていう、オレのエゴを叶えろ。大丈夫だ。オレは、お前をきちんと諦める。お前がオレの気持ちに苦しむのは、オレの望みじゃねー。それはさっきも言ったろ? だけど……一度は好きになった女の幸せを望んで、それを助けてやりたいと思うのは、愛情が友情に変化したって同じはずだ。お前が、水戸を思う気持ちを考えれば、わかんだろ?」
流川の声音がだんだんと切実なものに変わっていって、伊理穂の胸を締めつけた。
流川が、わざとエゴという言葉を使ったのだと伊理穂は直感した。
伊理穂の行いと流川の望みをイーブンにして、伊理穂がこれ以上苦しまなくていいように、流川という逃げ場に迷いなく飛び込めるように、わざとそう言ってくれているのだと悟った。
そうして、優しくされるだけではつらいと苦しかった伊理穂の心にも気づいて、エゴという言葉を使うことで伊理穂を責めて、その苦しみさえも軽くしてくれているのだとわかった。
(どうして……っ!)
どうしてこんなに優しいんだろう。
伊理穂の胸がきりきり痛む。
流川が言ってくれたように、流川と付き合った短い間、自分が流川に幸せを与えられたのかどうかなんてわからない。
だけど。
「ありがとう、楓くん。ありがとう……っ!」
伊理穂は流川に懸命に感謝の言葉を伝えた。
流川は黙って、それを聞いてくれていた。
(ありがとう、楓くん……っ。ほんとうに、ほんとうに大好きだったよ……)
だけど、自分はそれ以上に洋平が好きだと思い出してしまったから。
俯いて伊理穂が涙を流し続けていると、ふと流川の手が頭に触れた。
「伊理穂」
先ほどまでと違って、普段の声音に戻って自分の名前を呼ぶ流川に、伊理穂は半ば驚いて顔をあげる。
と、流川がひどく真剣な顔で言った。
「ノートは今までどおり貸せ。あれがないと、オレはヤバイ」
「!」
何を言われるのかと身構えていた伊理穂は、その言葉にぽかんと口を開けた。
すぐにそこから笑いが飛び出す。
流川の優しさと気遣いに、胸がつまった。
その気持ちに応えなければならないと思った。いつまでも泣いてくよくよしていないで、申し訳ないと自分を責めるだけじゃなくて、付き合う前の日常に戻ろうとしてくれている流川に向き合わなければならないと思った。
伊理穂は目尻に浮かんだ涙をぬぐうと、にこりと精一杯微笑んでみせた。
「あはは、うん、わかった! じゃあ、これからも楓くんのためにきちんとノート取るね」
「おー。ヨロシクオネガイシマス」
ぺこりと頭を下げた流川に、伊理穂は今度こそおなかを抱えて笑った。
(ありがとう、楓くん)
「伊理穂。オレはもう、今この時からお前の彼氏じゃねー」
「楓くん」
その言葉に、少し収まっていた涙が、ぼろっと零れた。
流川がそれをしょうがねえなというように瞳を細めて、優しく拭ってくれる。
「――だけど。オレは別れても、友人としてお前のそばにいる。いつでも、お前を見守ってる。だから、苦しいときはひとりになんな。オレを頼れ。オレに、友人としてお前を支えさせてくれ」
「か、楓くん……! だけど……っ!」
そんなのってあまりに勝手で許されない気がした。
自分の都合で流川を振り回して、これ以上彼に頼るなどと。ほんとうなら、友人として付き合ってくれるということ自体が奇跡なのに。
思って言おうとした言葉を、流川が首を振って遮ってくる。
「伊理穂。お前の、オレと別れたいっていうエゴは叶えてやる。だから……お前は、オレがお前の支えになりたいっていう、オレのエゴを叶えろ。大丈夫だ。オレは、お前をきちんと諦める。お前がオレの気持ちに苦しむのは、オレの望みじゃねー。それはさっきも言ったろ? だけど……一度は好きになった女の幸せを望んで、それを助けてやりたいと思うのは、愛情が友情に変化したって同じはずだ。お前が、水戸を思う気持ちを考えれば、わかんだろ?」
流川の声音がだんだんと切実なものに変わっていって、伊理穂の胸を締めつけた。
流川が、わざとエゴという言葉を使ったのだと伊理穂は直感した。
伊理穂の行いと流川の望みをイーブンにして、伊理穂がこれ以上苦しまなくていいように、流川という逃げ場に迷いなく飛び込めるように、わざとそう言ってくれているのだと悟った。
そうして、優しくされるだけではつらいと苦しかった伊理穂の心にも気づいて、エゴという言葉を使うことで伊理穂を責めて、その苦しみさえも軽くしてくれているのだとわかった。
(どうして……っ!)
どうしてこんなに優しいんだろう。
伊理穂の胸がきりきり痛む。
流川が言ってくれたように、流川と付き合った短い間、自分が流川に幸せを与えられたのかどうかなんてわからない。
だけど。
「ありがとう、楓くん。ありがとう……っ!」
伊理穂は流川に懸命に感謝の言葉を伝えた。
流川は黙って、それを聞いてくれていた。
(ありがとう、楓くん……っ。ほんとうに、ほんとうに大好きだったよ……)
だけど、自分はそれ以上に洋平が好きだと思い出してしまったから。
俯いて伊理穂が涙を流し続けていると、ふと流川の手が頭に触れた。
「伊理穂」
先ほどまでと違って、普段の声音に戻って自分の名前を呼ぶ流川に、伊理穂は半ば驚いて顔をあげる。
と、流川がひどく真剣な顔で言った。
「ノートは今までどおり貸せ。あれがないと、オレはヤバイ」
「!」
何を言われるのかと身構えていた伊理穂は、その言葉にぽかんと口を開けた。
すぐにそこから笑いが飛び出す。
流川の優しさと気遣いに、胸がつまった。
その気持ちに応えなければならないと思った。いつまでも泣いてくよくよしていないで、申し訳ないと自分を責めるだけじゃなくて、付き合う前の日常に戻ろうとしてくれている流川に向き合わなければならないと思った。
伊理穂は目尻に浮かんだ涙をぬぐうと、にこりと精一杯微笑んでみせた。
「あはは、うん、わかった! じゃあ、これからも楓くんのためにきちんとノート取るね」
「おー。ヨロシクオネガイシマス」
ぺこりと頭を下げた流川に、伊理穂は今度こそおなかを抱えて笑った。
(ありがとう、楓くん)