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段々と三井の口調が荒くなる。
「伊理穂のことが嫌いだと!? ずっと迷惑だっただと!? ふざけやがって……! あんな、こっちが見ててイヤんなるくらい優しい目していつも伊理穂のこと見てるくせに、何言ってやがんだよ! だいたい、オレは水戸本人からアイツが伊理穂のこと好きだって聞いてんだぞ!? 伊理穂の気持ちだって……見てりゃわかんだろーが! あの流川だって気づいてたのになんで……! くっそ、オレが何回かあいつに言ってやってたのに……!」
悔しそうに顔を歪めて、三井が固めた拳を胸の前で反対の手の平に勢いよく打ちつけた。
ぱしんと乾いた音が部屋に響く。
「こうなったらもう一度オレが直接水戸に……」
「ダメです、先輩!」
剣呑な声で言う三井を、結子は慌てて止めた。
三井が理解できないという表情で結子を見る。
「ぁあ!? なんでダメなんだよ結子! だって、おかしいだろ!? 二人想い合ってんのに! オレは……っ!」
三井が苦しそうに眉間に皺を寄せて言う。
「オレは、伊理穂に幸せになって欲しいんだよ。アイツには元気に笑ってて欲しい。アイツがオレを笑顔でバスケ部に迎え入れてくれて……オレはほんとうに救われたんだ。だから、アイツのこと幸せにしてやりてぇんだよ!」
三井の切実な声音に、結子の胸が小さく軋む。
「それはわかります。わたしだって同じ気持ちです。三井先輩みたいに伊理穂となにか特別なことがあったわけじゃないけど、でも伊理穂は……。多分、あの子はわたしの家が金持ちだって知らなかっただけだと思うけど、でもそれでも初めてだったんです。良家のお嬢様としてじゃなくて、わたし自身をちゃんと見て、なんの欲目もなしに仲良くなってくれたのはあの子が初めてだった。だから、わたしだってなんとかしてあげたい。あの子が笑顔でいられるようにしてあげたい……!」
「じゃあ!!」
「――だけど! 今動いたらダメなんです。伊理穂が……あの子が、ほんとうにすごく傷ついてて……。水戸くんをこれ以上自分のことで煩わせたくないって、あの子、今にも消えちゃいそうになりながら、泣くんです」
「だったらなおさら……」
三井が焦ったように口を開く。
結子はそれに静かに首を振った。
「ダメなんです。わたしも、三井先輩と同じようなこと伊理穂に言ったんです。わたしが水戸くんに言ってあげるって。そしたらあの子に泣きながら止められて……それで気づいたんです。今はこんなことになったばっかりで、あの二人はほんとうにお互いにすごく傷ついてる。もしも今下手に動いたら、二人とも余計意固地になってどんどんこじれていっちゃう。だから、もう少し時間が必要なんだって」
「――くそっ。んだよ、それ」
三井が悔しそうに吐き捨てた。
結子はそれを見て、胸に後悔が迫った。
三井が憤るのは当たり前だ。
今は何もできないのに。三井は大事な決勝リーグの真っ最中なのに。
どうして三井に連絡を取ってしまったんだろう。
情に厚い三井がこんな風になることは、容易に想像できたはずなのに。
「ごめんなさい」
「あ?」
突然謝った結子に、三井が怪訝な顔をした。
結子はそんな三井に眉尻を下げて言う。
「なにも……できないってわかってるのに、まだ先輩に話すべきじゃありませんでした。……大事な試合前なのに、余計なこと言って心を惑わせて、ほんとうにごめんなさい」
言い終わると共に、結子は頭を下げた。
口の中に苦い後悔の味が広がる。
浅はかだった。
状況に耐えられなくて、思わず三井に縋りついてしまった。