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陵南戦の日。結子はひとり試合会場に訪れていた。
二階の観客席、そこからコートを見下ろす。
そこには、選手のウォーミングアップを見守る親友の伊理穂の姿があった。
(伊理穂……)
伊理穂の顔色が少し悪かった。
きっとあまり眠れていないのだろう。思って結子は心配になる。
結子は例えば自分が眠ってしまっている夜中でも、伊理穂が眠れないのならば電話をくれと伊理穂に伝えていた。けれど、伊理穂が結子の迷惑も考えずにそんなことをするわけがなかった。
伊理穂が唯一それを出来た人物。
それが水戸洋平だったのに。
その時、ふと三井の姿が結子の目に飛び込んできた。
三井は一言、二言伊理穂と言葉を交わして無邪気な少年のような笑顔で笑うと、またコートへと戻っていく。
(三井先輩)
結子は、二日前、伊理穂から洋平との事を聞いたあとの三井とのやり取りを思い出した。
* * *
『んだよるっせえな結子! てめえ、今何時だと思ってやがる!』
「三井先輩――! どうしよう、どうしよう三井先輩! 伊理穂が……伊理穂が……!!」
『あ……?』
結子はやっと繋がった携帯をぎゅっと強く握り締めると、送話口に向かって咳き込むように喋りかけた。
放った言葉がとても切羽詰った声色だったことに自分でも驚いたけれど、それでも結子はなにかに急きたてられるような気持ちを抑えることができなかった。
すがるように手元の携帯をさらに強く握り締める。
と。結子の剣幕に驚いていたのかしばらく大人しかった受話口から、静かな三井の声がした。
『おい、結子。お前、どこに住んでんだ?』
「え? あ、三丁目の郵便局の近くのところですけど……」
脈絡のない三井の質問に、結子は内心で首を傾げながら答えた。
ふうんと三井が耳元で呟く。
『それならうちから10分くれえか。意外に近いとこに住んでんだな、お前』
「はあ……」
『じゃあ、今から行くから待ってろ』
「あ、はい……って、ぇえ!?」
突然の三井の言葉に、結子は驚いて携帯を取り落としそうになった。
慌てて掴みなおすと、噛み付くように送話口に向けて話す。
「な、ちょ、先輩何考えてるんですか!? 今からって……今一体何時だと……!」
『何時って、11時だろ夜の。そもそもそんな夜中に電話してきたのはお前だろーが』
「いや、わたしは時間を聞いてるんじゃないですよ! 確かに、思わず電話しちゃったのは悪かったですけど、いや、だって先輩明日試合じゃないですか!」
そうだ、三井はいま大事な決勝リーグの最中だ。
すでに1敗を喫している湘北は、残りの試合を全て勝たなくては全国へ行くことはできない。
そんな大事な試合を明日に控えているのに、こんな夜中から出歩いている場合じゃないだろうと結子は語調を強くした。
けれど。
『ぁあ!? るっせーな、女からそんな泣きそうな声で電話されて、ほっとけるわきゃねーだろうが! 家も近ぇしすぐ行ってやるから。――だから待ってろよ結子。ひとりで泣いてんじゃねーぞ』
最後、心配そうな声音で優しい言葉を残して、ブチッと乱暴に電話が切れた。
呆然とする結子の耳に、ツーツーと無機質な電子音だけが繰り返し響く。
心臓がうるさい。
耳元からの電子音が聞こえなくなるくらい大きく、結子の心臓が高鳴っていた。
それから15分後。三井はほんとうに結子の家に現れた。
結子の生まれた久遠家は、この辺りではちょっとした有名な家だった。
二階の観客席、そこからコートを見下ろす。
そこには、選手のウォーミングアップを見守る親友の伊理穂の姿があった。
(伊理穂……)
伊理穂の顔色が少し悪かった。
きっとあまり眠れていないのだろう。思って結子は心配になる。
結子は例えば自分が眠ってしまっている夜中でも、伊理穂が眠れないのならば電話をくれと伊理穂に伝えていた。けれど、伊理穂が結子の迷惑も考えずにそんなことをするわけがなかった。
伊理穂が唯一それを出来た人物。
それが水戸洋平だったのに。
その時、ふと三井の姿が結子の目に飛び込んできた。
三井は一言、二言伊理穂と言葉を交わして無邪気な少年のような笑顔で笑うと、またコートへと戻っていく。
(三井先輩)
結子は、二日前、伊理穂から洋平との事を聞いたあとの三井とのやり取りを思い出した。
* * *
『んだよるっせえな結子! てめえ、今何時だと思ってやがる!』
「三井先輩――! どうしよう、どうしよう三井先輩! 伊理穂が……伊理穂が……!!」
『あ……?』
結子はやっと繋がった携帯をぎゅっと強く握り締めると、送話口に向かって咳き込むように喋りかけた。
放った言葉がとても切羽詰った声色だったことに自分でも驚いたけれど、それでも結子はなにかに急きたてられるような気持ちを抑えることができなかった。
すがるように手元の携帯をさらに強く握り締める。
と。結子の剣幕に驚いていたのかしばらく大人しかった受話口から、静かな三井の声がした。
『おい、結子。お前、どこに住んでんだ?』
「え? あ、三丁目の郵便局の近くのところですけど……」
脈絡のない三井の質問に、結子は内心で首を傾げながら答えた。
ふうんと三井が耳元で呟く。
『それならうちから10分くれえか。意外に近いとこに住んでんだな、お前』
「はあ……」
『じゃあ、今から行くから待ってろ』
「あ、はい……って、ぇえ!?」
突然の三井の言葉に、結子は驚いて携帯を取り落としそうになった。
慌てて掴みなおすと、噛み付くように送話口に向けて話す。
「な、ちょ、先輩何考えてるんですか!? 今からって……今一体何時だと……!」
『何時って、11時だろ夜の。そもそもそんな夜中に電話してきたのはお前だろーが』
「いや、わたしは時間を聞いてるんじゃないですよ! 確かに、思わず電話しちゃったのは悪かったですけど、いや、だって先輩明日試合じゃないですか!」
そうだ、三井はいま大事な決勝リーグの最中だ。
すでに1敗を喫している湘北は、残りの試合を全て勝たなくては全国へ行くことはできない。
そんな大事な試合を明日に控えているのに、こんな夜中から出歩いている場合じゃないだろうと結子は語調を強くした。
けれど。
『ぁあ!? るっせーな、女からそんな泣きそうな声で電話されて、ほっとけるわきゃねーだろうが! 家も近ぇしすぐ行ってやるから。――だから待ってろよ結子。ひとりで泣いてんじゃねーぞ』
最後、心配そうな声音で優しい言葉を残して、ブチッと乱暴に電話が切れた。
呆然とする結子の耳に、ツーツーと無機質な電子音だけが繰り返し響く。
心臓がうるさい。
耳元からの電子音が聞こえなくなるくらい大きく、結子の心臓が高鳴っていた。
それから15分後。三井はほんとうに結子の家に現れた。
結子の生まれた久遠家は、この辺りではちょっとした有名な家だった。