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結子はあの時、伊理穂にそう言った。
流川とうまくいけばいいと思っていたわけじゃない。
洋平と伊理穂は見事なまでにすれ違っているだけで、お互いに想い合っている。それも強く。
だからこそ二人がうまくいけばいいという気持ちが強くなったけれど、今の伊理穂ではそれをわからせることが難しそうだった。
それを理解させるにはもう少し時間が必要だったし、洋平のほうにもなんとか働きかけないとダメだと思った。
だからせめてそれまでの間、伊理穂には流川と付き合ってもらっていたら良いと思った。
流川には悪いと思ったけれど、それほどまでに今の伊理穂は深く傷ついていて、ひとりにするのが心配だった。
それに流川なら、きっとわかってくれるだろう。それほどまでに流川は、伊理穂のことを大切に想っているように結子には見えた。
それに、そうするうちに伊理穂が流川のことをほんとうに好きになるなら、それも悪くないと思ったのだ。
もちろん結子だって間違いなく伊理穂の傍にいて目を離すつもりなんてないけれど、女友達の与えるものと、彼氏の与えるものとじゃ種類が違う。
今の伊理穂には、彼氏というぬくもりが必要だと思った。
だけど、伊理穂は小さく首を振った。
よみがえる、伊理穂の言葉。
『ううん。ダメだよ、結ちゃん。それじゃあ、くりかえしになっちゃう。今までわたしが洋平にしてきたことと同じになっちゃう。……だから、だめなの。洋平も、楓くんも……。わたしから解放してあげなくちゃ』
『伊理穂……。いつ……流川に言うの?』
『ほんとうは、すぐにでも伝えたほうがいいんだけど……今は決勝リーグの真っ最中だから。……それが終わったら、言う』
『伊理穂、わたしは、そばにいるからね? わたしは、素直で無邪気なアンタが好きよ』
『結ちゃん、ありがとう。でも、わたしはずるい女だから……』
『ずるくったっていいじゃないの。女なんだから。アンタの持ってるずるさ、わたしの中にだってあるわよ。でもアンタみたいに素直に認められる心はわたしにはない。アンタの心はずるくなんてないわよ、綺麗よ。わたしは、そんな伊理穂が大好きなんだから……!』
『……ありがとう、結ちゃん』
そう言って儚く笑った伊理穂。
「伊理穂……」
その弱々しい笑顔を思い出して、結子の胸が心配で押しつぶされそうになった。
なんとかしてあげたい。
なんとか。
結子はベランダに出ると、祈るような気持ちで夜の空を見上げた。
星が瞬いて、月が皓く輝いていた。
その時ひとつの顔が脳裏に閃いて、結子は時計を振り返って時間を確認すると、部屋に取って返して携帯を掴んだ。
そこから目的の番号を見つけると、発信ボタンを押した。
数度のコールのあと、留守番電話に切り替わる。
イライラと爪を噛みながら何回かそれを繰り返して、ついに結子が諦めようと思ったその時。
ぷつり、と電子音が切れる音がして、それに取って代わるように不機嫌そうな声が耳に飛び込んできた。
「んだよるっせえな結子! てめえ、今何時だと思ってやがる!」
その場違いに元気な声音にホッと息をつくと、結子はすがるようにその名前を呼んだ。
「三井先輩……!」
To be continued…