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言うと、伊理穂は結子を自宅へと連れて帰った。
母親の千鶴の用意してくれた紅茶を持って自室へあがると、部屋の電気をつけて、ベッド下のガラステーブルに置いた。
クッション生地の折りたたみ座椅子を広げて結子にそれを勧めると、自分も同じものを取り出して結子の向かいに腰を降ろした。
結子が紅茶を一口すする。そのカップを下ろすのを待って、伊理穂は口を開いた。
「あのね、結ちゃん……」
伊理穂は重い口を持ち上げて、結子に全てを話した。
洋平と自分の家庭の事情。それから、昨日の出来事。
そして。
「結ちゃん。わたし、結ちゃんの言うとおり、ほんとうは洋平のことが好きだった」
伊理穂の頬を幾筋も涙が流れていく。
「ほんとうは、ずっとずっと大好きだったの。気づかなかった。ううん、違う。気づかないふりをしてた。だってそうすれば、洋平のそばにずっといられると思ったから。洋平が感情を爆発させた三年前のあの日、わたし、洋平に嫌いって言われて耐えられなかったの。自分が壊れてしまいそうだった。それでも、洋平のそばにいられるなら、どんなに忌み嫌われててもよかったの。だけど……っ」
伊理穂はしゃくりあげながら言葉を続ける。
「あの時、洋平はわたしのもとへもう一度戻ってきてくれた。嫌いなんてうそだよって、言ってくれた。だから、わたしは気持ちに蓋をしたの。洋平のことを好きだなんてそんな感情、気づいちゃいけなかった。直視しちゃいけなかった。だって、洋平の人生をめちゃくちゃにしたのはわたし。わたしには彼を好きになる資格なんてない。ほんとうはそばにいる資格だって……っ。それにわたし……っ」
伊理穂の喉が震えた。
嗚咽を漏らす伊理穂の背中を、結子が自分も瞳に涙を浮かべながらさすってくれる。
伊理穂はそれに助けられるようにしながら、なんとか喉につかえた言葉を紡いでいく。
「ほんとうは……気づいてたの! 洋平がわたしを嫌いだって思ってること、迷惑がってること、嫌いなんて嘘だよって言ってくれたのは、わたしの両親への恩返しのためだって、気づいてたの。でも、気づかないふりをした。これにも、蓋をしたの。知ってたのに、認めたくなかったから、蓋をしたの。純粋に、洋平がくれた言葉を信じるふりをした。愚かで無邪気な幼馴染みのままだったら、彼のそばに……いられると……思ったから!」
「伊理穂……」
結子の瞳からも涙が零れた。
伊理穂は頭を抱えるようにしてうずくまった。
苦しい。
胸がちぎれる。からだが、ばらばらになってしまいそうだ。
「洋平を好きだと思う気持ちも、洋平に嫌われていることに気づいた気持ちも、全部全部箱に入れて蓋をして、もう二度と開くことがないようにその箱にしっかり封をして、そうしてそれを心の奥深くに沈めたの。愚かで自分勝手なわたしは、そうして、その感情を忘れたの。自分に都合のいい解釈だけを記憶に残して、都合の悪いことは全部心の奥底に沈めて、洋平が苦しむのも構わずにそばに居続けた。……これまではっ、忘れることにずっと成功してたのに……っ!」
優しかった洋平。
伊理穂の頭を撫でて、優しく微笑んで、包み込むようにそばにいてくれた洋平。
「だめ……だった! 楓くんと付き合い始めて、だんだん離れていく洋平との距離に、耐えられなかった……! 箱がだんだん浮かんできて、それに比例するようにわたしも隠してた気持ちに気付き始めてた。でもだけど必死で気づかないふりをして洋平のそばに居続けて、そうして洋平を追い詰めて、わたしは……また……っ!」
堪えきれずに、伊理穂は大きくしゃくりあげた。
洋平。洋平。もうどんなに名前を呼んでも、振り向いてくれることはない。
あの優しい笑顔を、そのぬくもりを、伊理穂に向けてくれることは、もう二度とない。
今度こそ本当に失ってしまった。
自分勝手なエゴで、洋平を最後の最後まで追い詰めて、そして、今度こそ完全に彼を失った。
「箱が壊れちゃったの。気づかないふりをしていた感情が全部飛び出して、もうだめだった……! 愚かだと思う。自分でも、自業自得だと思う。でもだけど、好きだったの。洋平が好きだった。どんな手段を使ってでも、わたしは洋平のそばにいたかった! 嫌われてても、無理をさせてるとわかってもなお、それでもわたしは洋平のそばにいたかったの……!」
「伊理穂……!」
母親の千鶴の用意してくれた紅茶を持って自室へあがると、部屋の電気をつけて、ベッド下のガラステーブルに置いた。
クッション生地の折りたたみ座椅子を広げて結子にそれを勧めると、自分も同じものを取り出して結子の向かいに腰を降ろした。
結子が紅茶を一口すする。そのカップを下ろすのを待って、伊理穂は口を開いた。
「あのね、結ちゃん……」
伊理穂は重い口を持ち上げて、結子に全てを話した。
洋平と自分の家庭の事情。それから、昨日の出来事。
そして。
「結ちゃん。わたし、結ちゃんの言うとおり、ほんとうは洋平のことが好きだった」
伊理穂の頬を幾筋も涙が流れていく。
「ほんとうは、ずっとずっと大好きだったの。気づかなかった。ううん、違う。気づかないふりをしてた。だってそうすれば、洋平のそばにずっといられると思ったから。洋平が感情を爆発させた三年前のあの日、わたし、洋平に嫌いって言われて耐えられなかったの。自分が壊れてしまいそうだった。それでも、洋平のそばにいられるなら、どんなに忌み嫌われててもよかったの。だけど……っ」
伊理穂はしゃくりあげながら言葉を続ける。
「あの時、洋平はわたしのもとへもう一度戻ってきてくれた。嫌いなんてうそだよって、言ってくれた。だから、わたしは気持ちに蓋をしたの。洋平のことを好きだなんてそんな感情、気づいちゃいけなかった。直視しちゃいけなかった。だって、洋平の人生をめちゃくちゃにしたのはわたし。わたしには彼を好きになる資格なんてない。ほんとうはそばにいる資格だって……っ。それにわたし……っ」
伊理穂の喉が震えた。
嗚咽を漏らす伊理穂の背中を、結子が自分も瞳に涙を浮かべながらさすってくれる。
伊理穂はそれに助けられるようにしながら、なんとか喉につかえた言葉を紡いでいく。
「ほんとうは……気づいてたの! 洋平がわたしを嫌いだって思ってること、迷惑がってること、嫌いなんて嘘だよって言ってくれたのは、わたしの両親への恩返しのためだって、気づいてたの。でも、気づかないふりをした。これにも、蓋をしたの。知ってたのに、認めたくなかったから、蓋をしたの。純粋に、洋平がくれた言葉を信じるふりをした。愚かで無邪気な幼馴染みのままだったら、彼のそばに……いられると……思ったから!」
「伊理穂……」
結子の瞳からも涙が零れた。
伊理穂は頭を抱えるようにしてうずくまった。
苦しい。
胸がちぎれる。からだが、ばらばらになってしまいそうだ。
「洋平を好きだと思う気持ちも、洋平に嫌われていることに気づいた気持ちも、全部全部箱に入れて蓋をして、もう二度と開くことがないようにその箱にしっかり封をして、そうしてそれを心の奥深くに沈めたの。愚かで自分勝手なわたしは、そうして、その感情を忘れたの。自分に都合のいい解釈だけを記憶に残して、都合の悪いことは全部心の奥底に沈めて、洋平が苦しむのも構わずにそばに居続けた。……これまではっ、忘れることにずっと成功してたのに……っ!」
優しかった洋平。
伊理穂の頭を撫でて、優しく微笑んで、包み込むようにそばにいてくれた洋平。
「だめ……だった! 楓くんと付き合い始めて、だんだん離れていく洋平との距離に、耐えられなかった……! 箱がだんだん浮かんできて、それに比例するようにわたしも隠してた気持ちに気付き始めてた。でもだけど必死で気づかないふりをして洋平のそばに居続けて、そうして洋平を追い詰めて、わたしは……また……っ!」
堪えきれずに、伊理穂は大きくしゃくりあげた。
洋平。洋平。もうどんなに名前を呼んでも、振り向いてくれることはない。
あの優しい笑顔を、そのぬくもりを、伊理穂に向けてくれることは、もう二度とない。
今度こそ本当に失ってしまった。
自分勝手なエゴで、洋平を最後の最後まで追い詰めて、そして、今度こそ完全に彼を失った。
「箱が壊れちゃったの。気づかないふりをしていた感情が全部飛び出して、もうだめだった……! 愚かだと思う。自分でも、自業自得だと思う。でもだけど、好きだったの。洋平が好きだった。どんな手段を使ってでも、わたしは洋平のそばにいたかった! 嫌われてても、無理をさせてるとわかってもなお、それでもわたしは洋平のそばにいたかったの……!」
「伊理穂……!」