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夢小説設定
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「伊理穂と……ちゃんと話がしたくて」
「結ちゃん……」
伊理穂はその言葉に微かに目を瞠った。
今日、伊理穂は結子と向き合う勇気が持てずに、逃げるようにして一日を過ごしてしまった。
自分の行動を思い返して、ずきりと胸が痛む。
(わたし、今日一日結ちゃんのことを避けたのに……)
なのにうらむこともなく、心配そうに瞳を細めて伊理穂を見てくる結子に、胸がつまった。
「月瀬。友達が迎えに来たんなら、今日はもう帰っていいぞ。残り本数も少ないしな」
「あ、でも……」
「気にするな。お前にはいつも充分過ぎるほどやってもらっている。……いいからもう帰れ」
赤木の言葉に、花道も頷いた。
「おう、伊理穂。オレは大丈夫だぞ。なんせ天才だからな! ハッハッハ!」
海南に負けて以来坊主になったその赤頭に、調子に乗るなぁ! と赤木のゲンコツが落ちる。
いてえなゴリ! とうずくまる花道を見て、伊理穂はプッと噴き出した。
「あはは、花道のおバカー! ……でも、ありがとう。じゃあ、お言葉に甘えて帰ろうかな」
言うと、流川が自主練をやめてこちらへ近づいてきた。
「伊理穂」
「楓くん」
「流川。ちょっと伊理穂借りるわよ」
先制攻撃とばかりに口を開いた結子を、流川がムッと唇を尖らせて見やる。
「るせー、わかってる」
流川はすぐに伊理穂に視線を戻してやわらかく瞳を細めると、伊理穂の頭を撫でた。
「伊理穂、気をつけて帰れよ。変なやつに襲われそうになったら、久遠を撒き餌にして逃げろ」
「ちょ、流川! あんたってやつはほんっとーに……!」
肩を震わす結子の代わりに、伊理穂がくすくす笑いながら答える。
「うん、大丈夫。……心配してくれてありがとう、楓くん」
「ん。あと、伊理穂」
「うん?」
「少し、顔色が悪い」
言いながら流川が伊理穂の頬に触れた。
その言葉と優しい流川の指に、伊理穂の胸がずきんと悲鳴をあげる。
流川は伊理穂の頬を壊れ物に触るように優しく撫でると、心配げに瞳を細めて言った。
「水戸、今日風邪で休みなんだって? お前うつされたんじゃねーか? 今日は、なるべく早めに寝ろ。明日の朝はオレの自主練に付き合わなくていい。だから、栄養取ってしっかり眠って、元気な顔で明日学校に来い」
「楓くん……。うん。ありがとう」
流川の優しさに胸がつまって、思わず涙が込み上げてきた。
伊理穂は慌ててそれを押し返すと、流川ににっこり笑ってお礼を言う。
「ん。じゃあな、伊理穂。また明日。久遠、伊理穂を頼むぞ」
「任せなさいよ。じゃあね、冷血狐」
「おー、ヒステリー女」
「く……っ!」
結子は小さく歯噛みすると、今すぐにでも殴りたい衝動を抑えるように伊理穂の肩をぐっと掴んで、そのまま踵を返した。
伊理穂も慌てたように振り返って、体育館に残るみんなにもう一度別れの挨拶をすると、結子と並んで歩き出す。
「結ちゃん。待っててくれてありがとう。あのね、わたしも結ちゃんに話したいことがあったの」