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「……大楠っ」
洋平は両手で顔を覆って、名前を呟いた。
地面に出来た黒い染みは、もう手の平大のサイズにまでひろがってしまった。
と、大楠がいきなりそれまでの雰囲気をぶち壊すように、おどけた声を出した。
「ああ、でも洋平。時々他の女にも目を向けろよ? オレたちだって男だからな。ちゃんと発散しねーとよ」
洋平は、その言葉に思わず噴き出した。
胸に込み上げていた熱が引っ込んで、涙で揺らめいていた視界が元通りになっていく。
暗闇に取り込まれていた心が、少しだけ明るくなる。
「――はッ。バ……ッカ、大楠。どっちだよ」
「伊理穂ちゃんを本命としつつ、経験を積め。そういうことだ」
「はは。なんだそりゃ」
言いながら目尻の涙を拭って、洋平は顔をあげた。
大楠の顔は見ずにまっすぐ前を見つめる。
胸に、昨日の伊理穂とのやりとりがよみがえって、心がばらばらになりそうなほど痛んだ。
その痛みに耐えるように洋平は瞳を細めると、ゆっくりとその事実を受け入れようとするように言葉のひとつひとつを噛み締めながら言う。
「オレは、伊理穂をこれ以上ねえってくらい傷つけたんだ。……もう、二度とアイツはオレに近寄ってなんてこねぇよ。万一近寄って来たとしても、もう昔みたいには戻れねえ。――だけど、サンキューな、大楠」
「――おう」
二人はそれからしばらくの間、公園のベンチでのんびりと過ごしていた。
大楠の優しさが、傷ついた洋平の心にあたたかく響いた。
伊理穂は午後練習の後、体育館に残って花道のゴール下シュートの特訓をしていた。
傍らには赤木が一緒に特訓を見ていて、遠くでは流川が自身の自主練習に励んでいた。
伊理穂は手に持ったバインダーに花道のシュートの成否を記録しながら、小さくため息をつく。
今日、昼休みの特訓で顔を合わせた花道に、開口一番「洋平はどうしたんだ?」と聞かれた。
洋平が、今日は学校を休んでいるらしい。
伊理穂は内心の驚きを隠して、風邪引いちゃったらしいとかなんとか言ってごまかしたけれど、あのときの眉根を寄せた花道の表情を思い出すに、どうやらそれはうまくいかなかったらしい。
何を思っているのか、それから花道が洋平のことを聞いてくることはなかった。
伊理穂はそのことに、ホッと胸を撫で下ろす。
花道も聞かないだけでなにか怪しんではいるのだろうけれど、もしも流川の前で洋平のことを聞かれて、それで取り乱すようなことになってはいやだった。
(楓くん……)
伊理穂は手元のバインダーから目を離すと、そっと流川を見つめた。
さらさらの黒髪から滴り落ちる汗。真剣に細められた切れ長の瞳。一心にバスケをする、その姿。
伊理穂の胸が、きゅうんと縮まる。
流川を好きだと感じたこの気持ちも、嘘ではない。だけど……。
「伊理穂」
その時。体育館入り口の方から、遠慮がちに自分の名を呼ぶ声が聞こえた。
振り返ると、そこには親友の久遠結子が立っていた。
「結ちゃん!?」
伊理穂はその姿を見とめると、慌てて結子に駆け寄る。
「ちょ、どうしたの結ちゃん! 今日結ちゃん部活ないって言ってなかった? ううん、それにしたってこんな遅い時間まで……」
「待ってたの」
結子が真剣な表情で伊理穂を見つめて言う。
洋平は両手で顔を覆って、名前を呟いた。
地面に出来た黒い染みは、もう手の平大のサイズにまでひろがってしまった。
と、大楠がいきなりそれまでの雰囲気をぶち壊すように、おどけた声を出した。
「ああ、でも洋平。時々他の女にも目を向けろよ? オレたちだって男だからな。ちゃんと発散しねーとよ」
洋平は、その言葉に思わず噴き出した。
胸に込み上げていた熱が引っ込んで、涙で揺らめいていた視界が元通りになっていく。
暗闇に取り込まれていた心が、少しだけ明るくなる。
「――はッ。バ……ッカ、大楠。どっちだよ」
「伊理穂ちゃんを本命としつつ、経験を積め。そういうことだ」
「はは。なんだそりゃ」
言いながら目尻の涙を拭って、洋平は顔をあげた。
大楠の顔は見ずにまっすぐ前を見つめる。
胸に、昨日の伊理穂とのやりとりがよみがえって、心がばらばらになりそうなほど痛んだ。
その痛みに耐えるように洋平は瞳を細めると、ゆっくりとその事実を受け入れようとするように言葉のひとつひとつを噛み締めながら言う。
「オレは、伊理穂をこれ以上ねえってくらい傷つけたんだ。……もう、二度とアイツはオレに近寄ってなんてこねぇよ。万一近寄って来たとしても、もう昔みたいには戻れねえ。――だけど、サンキューな、大楠」
「――おう」
二人はそれからしばらくの間、公園のベンチでのんびりと過ごしていた。
大楠の優しさが、傷ついた洋平の心にあたたかく響いた。
伊理穂は午後練習の後、体育館に残って花道のゴール下シュートの特訓をしていた。
傍らには赤木が一緒に特訓を見ていて、遠くでは流川が自身の自主練習に励んでいた。
伊理穂は手に持ったバインダーに花道のシュートの成否を記録しながら、小さくため息をつく。
今日、昼休みの特訓で顔を合わせた花道に、開口一番「洋平はどうしたんだ?」と聞かれた。
洋平が、今日は学校を休んでいるらしい。
伊理穂は内心の驚きを隠して、風邪引いちゃったらしいとかなんとか言ってごまかしたけれど、あのときの眉根を寄せた花道の表情を思い出すに、どうやらそれはうまくいかなかったらしい。
何を思っているのか、それから花道が洋平のことを聞いてくることはなかった。
伊理穂はそのことに、ホッと胸を撫で下ろす。
花道も聞かないだけでなにか怪しんではいるのだろうけれど、もしも流川の前で洋平のことを聞かれて、それで取り乱すようなことになってはいやだった。
(楓くん……)
伊理穂は手元のバインダーから目を離すと、そっと流川を見つめた。
さらさらの黒髪から滴り落ちる汗。真剣に細められた切れ長の瞳。一心にバスケをする、その姿。
伊理穂の胸が、きゅうんと縮まる。
流川を好きだと感じたこの気持ちも、嘘ではない。だけど……。
「伊理穂」
その時。体育館入り口の方から、遠慮がちに自分の名を呼ぶ声が聞こえた。
振り返ると、そこには親友の久遠結子が立っていた。
「結ちゃん!?」
伊理穂はその姿を見とめると、慌てて結子に駆け寄る。
「ちょ、どうしたの結ちゃん! 今日結ちゃん部活ないって言ってなかった? ううん、それにしたってこんな遅い時間まで……」
「待ってたの」
結子が真剣な表情で伊理穂を見つめて言う。