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洋平は瞳を細めて、視線を自分のつま先に移した。
俯いて露わになった首のうしろに、夏の焼け付くような日差しがじりじり突き刺さって痛い。
震える心臓を抑えて、胸に突き上げてくる衝動に瞳を閉じて必死で耐えていると、大楠の気遣うような声が耳をついた。
「……洋平。オレはさ、今でも伊理穂ちゃんはお前のことが好きだと思ってるんだ」
「は、バーカ。それはねぇよ。あいつにとってオレはただの幼馴染みだった。それ以上でもそれ以下でもねえ。それは、悔しいくらいにオレが一番よくわかってんだよ。――もう、そんな関係も失っちまったけどな」
声が震えないようにするので精一杯だった。
顔なんてあげられなかった。
背中に、大楠の心配げな声がかかる。
「――洋平。伊理穂ちゃんは、大丈夫なのか?」
「伊理穂? ああ、あいつは大丈夫だろ。流川もいるし、それに……あいつの親父さんにも事情を話した。だから、大丈夫だ。オレなんかがいなくなったところで、たいして支障なんかない。……伊理穂は、すぐに立ち直るよ」
「…………」
大楠が押し黙る。そんな大楠に向けて、洋平は顔を伏せたままで口を開いた。
「……なあ、大楠。今まで、ごめんな」
「あ?」
言うと、大楠が訝しげな声をあげた。
顔を伏せたままそれに小さく笑って、洋平は言葉を続ける。
「今まで、伊理穂のこと、ちゃんと話さなくってさ。――オレ、全部気付いてたんだ。お前が伊理穂をずっと好きだったことも、お前がオレの気持ちに気付いてることも、そして……お前が、オレたちを想って身を引いてくれてたことも、全部」
「洋平」
大楠が静かに息を呑んだ気配がした。
洋平は瞳を閉じたままそれを察して、自嘲する。
「最低、だよな。だけど、大楠。だからお前には言えなかったんだ」
胸に熱いものがせまる。
洋平はそれを押し返すように深く息を吸い込む。二酸化炭素のかわりに言葉を吐き出した。
「お前がそうやって思ってくれてることが、すっげえ嬉しかったんだ。お前がそうやって思ってくれることで、もしかしたら伊理穂とそうなれる日が来るかもしれねえとも思ってた。ほんと、最低だよな……! オレは、お前の気持ちを自分の願掛けに利用してたんだ。もう情けなくって、お前に顔向けもできねぇよ……!」
ほんとうに悪いと、そう言ったところで、ついに洋平は自分の目頭の重みに耐えることができなくなった。
ぽたりと、透明な雫が乾いたアスファルトに落ちて、そこに黒い染みを作っていく。
一度それを許してしまうと、もう胸を突き上げる熱いものを、洋平はどうしようもできなくなった。
「洋平……」
大楠が驚いたように小さく声をあげる。
洋平は顔を俯けたまま、胸にうごめく感情を吐き出すように、呻くように言葉を続けた。
「好きだったんだ。伊理穂のことが。ほんとうに、ほんとうに好きだった。愛してた。今も……この先も……オレはきっと、伊理穂のことが……っ。こんな気持ち、一生かかったって忘れられるわけが……ねぇ……だろっ」
最後はもうほとんど独り言のようになってしまった。
最初は涙を見せた洋平に驚いていた大楠も、すぐに落ち着きを取り戻して静かに声を掛けてくる。
「なあ、洋平。大丈夫だよ」
言いながら、大楠が肩に触れた。
小さい子をあやすように、ぽんぽんと軽くリズムをつけて叩いてくる。
「大丈夫だ。オレが、今も、これから先も、お前と伊理穂ちゃんがうまくいくよう願っててやるから。だから大丈夫だ、洋平。オレの願いは絶対叶う。――だからお前も、伊理穂ちゃんを好きだって気持ち、忘れんなよな? どんなに苦しくっても、絶対忘れんな。……オレが、たまにはこんな風に泣かせてやるからよ」
俯いて露わになった首のうしろに、夏の焼け付くような日差しがじりじり突き刺さって痛い。
震える心臓を抑えて、胸に突き上げてくる衝動に瞳を閉じて必死で耐えていると、大楠の気遣うような声が耳をついた。
「……洋平。オレはさ、今でも伊理穂ちゃんはお前のことが好きだと思ってるんだ」
「は、バーカ。それはねぇよ。あいつにとってオレはただの幼馴染みだった。それ以上でもそれ以下でもねえ。それは、悔しいくらいにオレが一番よくわかってんだよ。――もう、そんな関係も失っちまったけどな」
声が震えないようにするので精一杯だった。
顔なんてあげられなかった。
背中に、大楠の心配げな声がかかる。
「――洋平。伊理穂ちゃんは、大丈夫なのか?」
「伊理穂? ああ、あいつは大丈夫だろ。流川もいるし、それに……あいつの親父さんにも事情を話した。だから、大丈夫だ。オレなんかがいなくなったところで、たいして支障なんかない。……伊理穂は、すぐに立ち直るよ」
「…………」
大楠が押し黙る。そんな大楠に向けて、洋平は顔を伏せたままで口を開いた。
「……なあ、大楠。今まで、ごめんな」
「あ?」
言うと、大楠が訝しげな声をあげた。
顔を伏せたままそれに小さく笑って、洋平は言葉を続ける。
「今まで、伊理穂のこと、ちゃんと話さなくってさ。――オレ、全部気付いてたんだ。お前が伊理穂をずっと好きだったことも、お前がオレの気持ちに気付いてることも、そして……お前が、オレたちを想って身を引いてくれてたことも、全部」
「洋平」
大楠が静かに息を呑んだ気配がした。
洋平は瞳を閉じたままそれを察して、自嘲する。
「最低、だよな。だけど、大楠。だからお前には言えなかったんだ」
胸に熱いものがせまる。
洋平はそれを押し返すように深く息を吸い込む。二酸化炭素のかわりに言葉を吐き出した。
「お前がそうやって思ってくれてることが、すっげえ嬉しかったんだ。お前がそうやって思ってくれることで、もしかしたら伊理穂とそうなれる日が来るかもしれねえとも思ってた。ほんと、最低だよな……! オレは、お前の気持ちを自分の願掛けに利用してたんだ。もう情けなくって、お前に顔向けもできねぇよ……!」
ほんとうに悪いと、そう言ったところで、ついに洋平は自分の目頭の重みに耐えることができなくなった。
ぽたりと、透明な雫が乾いたアスファルトに落ちて、そこに黒い染みを作っていく。
一度それを許してしまうと、もう胸を突き上げる熱いものを、洋平はどうしようもできなくなった。
「洋平……」
大楠が驚いたように小さく声をあげる。
洋平は顔を俯けたまま、胸にうごめく感情を吐き出すように、呻くように言葉を続けた。
「好きだったんだ。伊理穂のことが。ほんとうに、ほんとうに好きだった。愛してた。今も……この先も……オレはきっと、伊理穂のことが……っ。こんな気持ち、一生かかったって忘れられるわけが……ねぇ……だろっ」
最後はもうほとんど独り言のようになってしまった。
最初は涙を見せた洋平に驚いていた大楠も、すぐに落ち着きを取り戻して静かに声を掛けてくる。
「なあ、洋平。大丈夫だよ」
言いながら、大楠が肩に触れた。
小さい子をあやすように、ぽんぽんと軽くリズムをつけて叩いてくる。
「大丈夫だ。オレが、今も、これから先も、お前と伊理穂ちゃんがうまくいくよう願っててやるから。だから大丈夫だ、洋平。オレの願いは絶対叶う。――だからお前も、伊理穂ちゃんを好きだって気持ち、忘れんなよな? どんなに苦しくっても、絶対忘れんな。……オレが、たまにはこんな風に泣かせてやるからよ」