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「伊理穂……。洋平のことが好きなんだな」
「――好き」
伊理穂が頬に睫毛の影を落として、大切そうにその言葉を口にした。
「だけど、わたしはもう洋平の傍にはいられない……。だから、お願いお父さん!」
物憂げに伏せられていた瞳をあげて、伊理穂がしっかりと秀一の目を見つめてきた。
その瞳に強い光をたたえて、懇願するように秀一に言う。
「わたしのかわりに、お父さんとお母さんで、洋平のことちゃんと見てあげて! 洋平、わたしなんかより全然大人だけど、だからその分ひとりで我慢してること、たくさんあると思うの。……わたしは、それを全然気づけなくて、ただ苦しめるだけだったけど、きっとお父さんなら……! お願い、お父さん! 洋平のこと……見捨てないで!」
秀一はふっと口元を緩めた。
(成長したな、伊理穂)
その娘の成長をもたらしたのがいくら洋平とはいえ、他の男のおかげだということに若干複雑な感情を抱きながら、秀一はそんな娘を心底愛しく思った。
伊理穂に洋平の気持ちを伝えるつもりはない。また洋平に伊理穂の気持ちを伝えるつもりもなかった。
こういうことは当人同士で乗り越えなければ意味がないし、なにより乗り越えられないのであれば二人はそれまでの縁だったということだ。
もちろん外から多少の助けは必要かもしれないが、それは自分たち親の仕事ではない。
子供と親では、どんなに寄り添おうとしても見えている景色が違ってしまう。
それは親の方が人生経験を多く積んでいる分、仕方のないことだ。
正解を教えてやることは簡単だが、伊理穂には伊理穂の世界で、洋平には洋平の世界で悩み苦しんで、その結果自分たちの力で正解を手にして欲しかった。
親が助言や助力をするときは、自分たちの世界で正解を見出せずいよいよ危うくなったときだけで充分だ。
それにきっと、伊理穂と洋平はきちんと自分たちの世界で正解を手にすると、秀一は信じていた。
秀一は真剣にこちらを見つめ続けている娘の頭に手を伸ばすと、そっとそこを撫でた。
優しく、安心させるように言う。
「見捨てたりなんてするわけないだろう? 洋平も、俺たちの息子だ」
「……お父さんっ!」
ホッとしたように涙を流して自分に抱きつく娘のからだを優しく受け止めながら、秀一は自分の頭に浮かんだ場違いな思いに、苦く笑った。
(いつか、洋平が伊理穂をくださいと頭を下げに来るんだろうな)
その時はとことん意地悪してやろう。
想像すると少し愉快な気持ちになって、秀一は伊理穂に気づかれないように心の中だけで小さく笑った。
心を引き締めて、娘の頬を流れる涙をそっと拭って訊く。
「少しは落ち着いたか?」
「――うん」
「そうか。明日からは、笑って過ごせそうか?」
「――自信ない。でも、頑張る」
落ち込んだ姿を見せたら、優しい洋平のことだから心を痛めるかもしれないからね。そう言いながら儚く微笑む伊理穂の頭を、秀一は優しく撫でた。
「いい子だ。それでこそ俺の娘だ。……伊理穂。話ならいつでも聞いてやる。だから、無理だけはするなよ」
「うん。ありがとう、お父さん」
その後、秀一は伊理穂を寝かしつけると、静かにリビングへ戻った。
そこでは千鶴が心配そうな顔で秀一を待っていた。
ここにもまだ手のかかる子供がいたか。思って秀一は苦笑する。
「秀ちゃん。伊理穂ちゃんは大丈夫そう?」
悲しそうに八の字を描く千鶴の眉の中心をぴんと人差し指で軽く弾くと、秀一は微かに笑って言う。
「さあな。そんなに大丈夫じゃないんじゃないか?」
「――好き」
伊理穂が頬に睫毛の影を落として、大切そうにその言葉を口にした。
「だけど、わたしはもう洋平の傍にはいられない……。だから、お願いお父さん!」
物憂げに伏せられていた瞳をあげて、伊理穂がしっかりと秀一の目を見つめてきた。
その瞳に強い光をたたえて、懇願するように秀一に言う。
「わたしのかわりに、お父さんとお母さんで、洋平のことちゃんと見てあげて! 洋平、わたしなんかより全然大人だけど、だからその分ひとりで我慢してること、たくさんあると思うの。……わたしは、それを全然気づけなくて、ただ苦しめるだけだったけど、きっとお父さんなら……! お願い、お父さん! 洋平のこと……見捨てないで!」
秀一はふっと口元を緩めた。
(成長したな、伊理穂)
その娘の成長をもたらしたのがいくら洋平とはいえ、他の男のおかげだということに若干複雑な感情を抱きながら、秀一はそんな娘を心底愛しく思った。
伊理穂に洋平の気持ちを伝えるつもりはない。また洋平に伊理穂の気持ちを伝えるつもりもなかった。
こういうことは当人同士で乗り越えなければ意味がないし、なにより乗り越えられないのであれば二人はそれまでの縁だったということだ。
もちろん外から多少の助けは必要かもしれないが、それは自分たち親の仕事ではない。
子供と親では、どんなに寄り添おうとしても見えている景色が違ってしまう。
それは親の方が人生経験を多く積んでいる分、仕方のないことだ。
正解を教えてやることは簡単だが、伊理穂には伊理穂の世界で、洋平には洋平の世界で悩み苦しんで、その結果自分たちの力で正解を手にして欲しかった。
親が助言や助力をするときは、自分たちの世界で正解を見出せずいよいよ危うくなったときだけで充分だ。
それにきっと、伊理穂と洋平はきちんと自分たちの世界で正解を手にすると、秀一は信じていた。
秀一は真剣にこちらを見つめ続けている娘の頭に手を伸ばすと、そっとそこを撫でた。
優しく、安心させるように言う。
「見捨てたりなんてするわけないだろう? 洋平も、俺たちの息子だ」
「……お父さんっ!」
ホッとしたように涙を流して自分に抱きつく娘のからだを優しく受け止めながら、秀一は自分の頭に浮かんだ場違いな思いに、苦く笑った。
(いつか、洋平が伊理穂をくださいと頭を下げに来るんだろうな)
その時はとことん意地悪してやろう。
想像すると少し愉快な気持ちになって、秀一は伊理穂に気づかれないように心の中だけで小さく笑った。
心を引き締めて、娘の頬を流れる涙をそっと拭って訊く。
「少しは落ち着いたか?」
「――うん」
「そうか。明日からは、笑って過ごせそうか?」
「――自信ない。でも、頑張る」
落ち込んだ姿を見せたら、優しい洋平のことだから心を痛めるかもしれないからね。そう言いながら儚く微笑む伊理穂の頭を、秀一は優しく撫でた。
「いい子だ。それでこそ俺の娘だ。……伊理穂。話ならいつでも聞いてやる。だから、無理だけはするなよ」
「うん。ありがとう、お父さん」
その後、秀一は伊理穂を寝かしつけると、静かにリビングへ戻った。
そこでは千鶴が心配そうな顔で秀一を待っていた。
ここにもまだ手のかかる子供がいたか。思って秀一は苦笑する。
「秀ちゃん。伊理穂ちゃんは大丈夫そう?」
悲しそうに八の字を描く千鶴の眉の中心をぴんと人差し指で軽く弾くと、秀一は微かに笑って言う。
「さあな。そんなに大丈夫じゃないんじゃないか?」