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「はい」
「……伊理穂のことは、お前の方が辛かったな。よく話してくれた」
「いや……。とんでもないです」
言うと、洋平の瞳がじんわりと滲んだ。
ハッとなって顔を背ける洋平の頭を、秀一がぽんと撫でる。
「洋平。伊理穂をはさまずとも、俺と千鶴はお前のことを自分の息子だと思っている。だから俺たちに恩を感じる必要などない。親が子供の面倒をみるのは当たり前だ。……そうだろう?」
顔は無表情なのに、包み込むようなあたたかさが目の前の秀一から伝わってきた。
洋平の瞳から今度こそ我慢できなくて、涙が零れ落ちる。
「……はい」
「だから、これからも俺たちを頼れ。とりあえず、今度から使いには伊理穂じゃなくて千鶴を走らせよう」
「……すんません」
「気にするなといっているだろう?」
がしがしと秀一は洋平の頭をなでると、ああそうだとにやりと笑って洋平を見た。
「千鶴は俺の女だ。いい女だからって手を出すなよ?」
「……ぶっ。ははは、出しませんよ」
伊理穂を失って初めて、洋平は少し笑えたような気がした。
秀一が家へ帰ると、それを待ちわびていたかのように千鶴が玄関に飛んできた。
千鶴はあわあわと顔面を白くして、秀一にすがりつくように言う。
「秀ちゃん、伊理穂ちゃんが大変なのよ! すごい剣幕で泣きながら帰って来たと思ったら、それっきり部屋にこもりっぱなしで……」
「それはそうだろう」
「え?」
てっきり秀一も驚くだろうと思っていた千鶴は、秀一の答えを聞いて目を丸くした。
秀一は苦笑して、そんな妻の頭を優しくひと撫ですると、リビングに入った。
「千鶴。とりあえずお茶を入れてくれないか? 伊理穂のことはいま、洋平と話してきた」
「洋平と?」
「ああ」
秀一は千鶴からお茶を受け取ると、自分もテーブルに腰掛けた千鶴に向けて、今しがた洋平から聞いたことを話した。
聞き終えた千鶴が驚いたように目を見開く。
「そんなことが……。どうすればいいのかしら」
「どうもできないだろう。こういうことは、他人が横から口を挟んだって無駄だ」
さらりと言うと、千鶴が拗ねたように唇を突き出した。
「まあ、秀ちゃんったら冷たい。他人だなんて。伊理穂と洋平はわたしたちの子供なのに」
「ならなおのことだな。本人たちがなんとかするしかないんだ。俺たち親はそれを見守るのが役目。そうだろう?」
言うと、千鶴が瞳を伏せた。
独り言のように呟く。
「でも、伊理穂ちゃんどうして……? 他に付き合ってる人がいるだなんて……。あの子は昔っからどっからどう見たって洋平一筋なのに……」
「……大方、あの時のことがトラウマにでもなってるんだろう」
秀一も考えるようにぽつりと呟いた。
「あの時?」
顔をあげる千鶴に、秀一が目顔で頷く。
「洋平がグレたときのことだよ。自分のせいだって責めていただろう? 俺たちや洋平が何度違うって言っても、伊理穂は心の奥底でそれを受け入れなかった。――伊理穂のことだ。洋平の人生をめちゃくちゃにして、自分には洋平を好きになる資格なんてないって思いつめてたんじゃないか?」
それが原因で、洋平のことを好きだという気持ちに目隠しがされて、気づけなかった。
他に少しときめく存在に、恋していると勘違いしてしまった。
大方そんなところだろう。呟くと千鶴が拗ねたようにさらに唇を突き出した。
その不満そうな顔に、秀一は形のいい眉を寄せる。
「……どうした?」
「だってわたしは伊理穂ちゃんの母親なのに、秀ちゃんの方がよくわかってると思って」
若い娘のように拗ねる千鶴に、秀一は微笑んだ。
優しく千鶴の頭を撫でる。
「千鶴は昔から鈍いからな。でもお前はそこがいいんだよ」
言って千鶴に触れるだけの口付けをする。
そして、ふうと秀一はため息をついた。
「にしても……どうやら伊理穂も、お前に似てかなりの鈍感に育ってしまったようだな」
「そこがかわいいんじゃないの?」
「それはもちろん。ただ……」
「ただ?」
重ねて問いかけてきた千鶴に、秀一は眉尻を下げて苦笑する。
「洋平は聞き分けがよすぎる。だから、かわいそうだと思って」
「……たしかに、そうよねえ……」
「まったく、ひとの心はややこしいな」
秀一はつぶやくと、二階で泣き崩れているだろう娘を思って嘆息した。
To be continued…
「……伊理穂のことは、お前の方が辛かったな。よく話してくれた」
「いや……。とんでもないです」
言うと、洋平の瞳がじんわりと滲んだ。
ハッとなって顔を背ける洋平の頭を、秀一がぽんと撫でる。
「洋平。伊理穂をはさまずとも、俺と千鶴はお前のことを自分の息子だと思っている。だから俺たちに恩を感じる必要などない。親が子供の面倒をみるのは当たり前だ。……そうだろう?」
顔は無表情なのに、包み込むようなあたたかさが目の前の秀一から伝わってきた。
洋平の瞳から今度こそ我慢できなくて、涙が零れ落ちる。
「……はい」
「だから、これからも俺たちを頼れ。とりあえず、今度から使いには伊理穂じゃなくて千鶴を走らせよう」
「……すんません」
「気にするなといっているだろう?」
がしがしと秀一は洋平の頭をなでると、ああそうだとにやりと笑って洋平を見た。
「千鶴は俺の女だ。いい女だからって手を出すなよ?」
「……ぶっ。ははは、出しませんよ」
伊理穂を失って初めて、洋平は少し笑えたような気がした。
秀一が家へ帰ると、それを待ちわびていたかのように千鶴が玄関に飛んできた。
千鶴はあわあわと顔面を白くして、秀一にすがりつくように言う。
「秀ちゃん、伊理穂ちゃんが大変なのよ! すごい剣幕で泣きながら帰って来たと思ったら、それっきり部屋にこもりっぱなしで……」
「それはそうだろう」
「え?」
てっきり秀一も驚くだろうと思っていた千鶴は、秀一の答えを聞いて目を丸くした。
秀一は苦笑して、そんな妻の頭を優しくひと撫ですると、リビングに入った。
「千鶴。とりあえずお茶を入れてくれないか? 伊理穂のことはいま、洋平と話してきた」
「洋平と?」
「ああ」
秀一は千鶴からお茶を受け取ると、自分もテーブルに腰掛けた千鶴に向けて、今しがた洋平から聞いたことを話した。
聞き終えた千鶴が驚いたように目を見開く。
「そんなことが……。どうすればいいのかしら」
「どうもできないだろう。こういうことは、他人が横から口を挟んだって無駄だ」
さらりと言うと、千鶴が拗ねたように唇を突き出した。
「まあ、秀ちゃんったら冷たい。他人だなんて。伊理穂と洋平はわたしたちの子供なのに」
「ならなおのことだな。本人たちがなんとかするしかないんだ。俺たち親はそれを見守るのが役目。そうだろう?」
言うと、千鶴が瞳を伏せた。
独り言のように呟く。
「でも、伊理穂ちゃんどうして……? 他に付き合ってる人がいるだなんて……。あの子は昔っからどっからどう見たって洋平一筋なのに……」
「……大方、あの時のことがトラウマにでもなってるんだろう」
秀一も考えるようにぽつりと呟いた。
「あの時?」
顔をあげる千鶴に、秀一が目顔で頷く。
「洋平がグレたときのことだよ。自分のせいだって責めていただろう? 俺たちや洋平が何度違うって言っても、伊理穂は心の奥底でそれを受け入れなかった。――伊理穂のことだ。洋平の人生をめちゃくちゃにして、自分には洋平を好きになる資格なんてないって思いつめてたんじゃないか?」
それが原因で、洋平のことを好きだという気持ちに目隠しがされて、気づけなかった。
他に少しときめく存在に、恋していると勘違いしてしまった。
大方そんなところだろう。呟くと千鶴が拗ねたようにさらに唇を突き出した。
その不満そうな顔に、秀一は形のいい眉を寄せる。
「……どうした?」
「だってわたしは伊理穂ちゃんの母親なのに、秀ちゃんの方がよくわかってると思って」
若い娘のように拗ねる千鶴に、秀一は微笑んだ。
優しく千鶴の頭を撫でる。
「千鶴は昔から鈍いからな。でもお前はそこがいいんだよ」
言って千鶴に触れるだけの口付けをする。
そして、ふうと秀一はため息をついた。
「にしても……どうやら伊理穂も、お前に似てかなりの鈍感に育ってしまったようだな」
「そこがかわいいんじゃないの?」
「それはもちろん。ただ……」
「ただ?」
重ねて問いかけてきた千鶴に、秀一は眉尻を下げて苦笑する。
「洋平は聞き分けがよすぎる。だから、かわいそうだと思って」
「……たしかに、そうよねえ……」
「まったく、ひとの心はややこしいな」
秀一はつぶやくと、二階で泣き崩れているだろう娘を思って嘆息した。
To be continued…