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言って、洋平は地面に額をこすりつけたまま唇を噛み締めた。
「秀一さんにも千鶴さんにも世話になってて、オレ、伊理穂のこと一生大事に守っていこうって決めてたのに、恩を仇で返すようなことをして、ほんとうにすみません……!」
語り終えると、水を打ったような沈黙が部屋に下りた。
洋平は無事なほうの手を握り締める。
大事な一人娘をひどく傷つけられて、きっと秀一ははらわたが煮えくり返ってることだろう。
どんな処遇も甘んじて受け入れるつもりだった。
と。
「洋平」
普段と変わらぬ硬質な秀一の声が自分の名を呼んだ。
洋平は土下座の体制のまま返事をする。
「はい」
「顔をあげろ、洋平」
言われたとおり、洋平はのろのろと顔をあげた。
いつのまに椅子から立ったのか、床に両膝をついた洋平の目の前に、秀一の整った顔があった。
顔こそ無表情だったけれど、瞳が優しい光を放っている。
秀一は一瞬だけ微笑むと、すぐに視線を落として洋平の真っ赤な右手を見た。
それを自身の手にとって、その傷の具合を確かめる。
「痛いか?」
「あ、はい」
「握れるか?」
「いや……正直あんまり動かせないっス」
「そうか……」
秀一は瞳を細めると、真っ赤になっているじゅうたんと洋平のその右手を見て、ふうとため息をついた。
「床を殴ったのか?」
「……はい」
「骨が砕けてはいないだろうが……ひびは覚悟しといたほうがいいだろうな。救急箱はどこだ? 手当てしてやる。いまは病院に行くのは嫌だろう?」
言いながら秀一は救急箱を取り出すと、洋平の傷を手当てした。
消毒して包帯を巻いて、最後になぜか思いっきりその拳を叩く。
「いてっ!」
思わず声をあげると、秀一がにやりと意地悪く笑った。
「だろう。これに懲りたらこんな無茶は二度とするな。治療代も安くはない」
「……すんません」
お礼を言いながら、洋平は手当てされた自分の右手をじっと見た。
秀一の手つきは慣れたものだった。
昔取ったなんとやらだろう。
洋平は強張る頬を引っ張って、クッと口角を持ち上げた。
ぎこちなく笑んで秀一に問いかける。
「しょっちゅう、こんな風に族仲間の手当てをしてたんすか?」
伊理穂の父・秀一は、神奈川最強の暴走族『死神』を旗上げした初代総長だった。
今もその伝説はおさまることを知らず、この神奈川では恐れられている存在だ。
電話ひとつで動く舎弟もいまだにいるという、まことしやかなウワサも流れている。
さすがに洋平も真偽のほどを確かめたことはないが、実際いるだろうと睨んでいる。
秀一は時々、単身では絶対に不可能だろうということをやってのけることがあったからだ。
(きっとそういうときは、舎弟を動かしたに違いない)
思って神妙な表情をしていると、再び右手を叩かれた。
脳天を貫くような痛みが駆け抜ける。
「いたっ」
「随分おもしろい想像をしているようだが洋平。そんな場合じゃないぞ。……弥生が帰ったら、きちんと治療してもらえ。俺は所詮素人だ」