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どうせするのならあんなキスじゃなくて、もっと、愛していると心を込めて口づけたかった。
あんな風に強引に、無理矢理、恐怖を煽るようにわざと口づけたりなんてしたくなかった。
「伊理穂……愛してる……っ」
掠れた声が、誰もいない暗いリビングに響く。
「愛してる……伊理穂……っ! だから、だからどうか、幸せになってくれ……!」
もうそばにいることはできないけれど。
近くで伊理穂の幸せを見守ることはできないけれど。
(オレはいつでも、伊理穂の幸せを祈ってるから……!)
洋平は血だらけの拳をもう一度床に打ちつけると、声を殺してむせび泣いた。
夜。洋平は気持ちが少し落ち着くと、家の外にでて玄関の塀に凭れかかった。
ここで洋平は、ある人を待っていた。
小一時間ほど経った頃だろうか。
かつかつと硬質な足音が耳をついた。
洋平がそちらに目を向けると、待ち焦がれていた人影がこちらに向けて歩いてきていた。
洋平は玄関の塀に預けていた背を起こすと、すっと姿勢を正し、その人影に向けて頭を下げた。
人影が、驚いたように目を見開いて足を止めた。
「洋平?」
「こんばんは、秀一さん」
洋平が待っていたのは、伊理穂の父親の秀一だった。
仕事帰りでくたびれているはずなのに、秀一の毅然とした姿はちっとも疲れをうかがわせない。
秀一は、普段クールな目元に浮かんだ微かな驚きを引っ込めると、すぐに無表情に戻って洋平を見た。
「どうした、洋平。こんなところで。うちで待っていれば……」
言う秀一の言葉を、洋平は首を横に振って遮る。
「いや、それはちょっとできなくて……。秀一さん、お疲れのとこすんません、ちょっといいっすか?」
洋平は秀一が頷いたのを確認すると、秀一を自分の家へと招いた。
リビングに通して、テーブルにかけてもらう。
洋平はすぐに台所にまわってコップを二つ手に取ると、冷たい麦茶を注いだ。
秀一の前の席に麦茶をひとつおいて、洋平は自分の分の麦茶をテーブルの真ん中に置くと、おもむろに床に膝をついた。
「洋平?」
秀一が、再び驚いたような声をあげて、自分の名前を呼ぶ。
洋平はそれを耳に入れながら、額を地面にこすりつけた。
「すみません、秀一さん。オレ……伊理穂と縁を切りました」
「縁を……? どういうことなんだ?」
静かに訊く秀一の言葉に、洋平はぽつぽつと語り始めた。
高校に入って伊理穂に想い人ができたこと。
その想いが晴れて成就して、今その人と付き合い始めていること。
だけど、伊理穂と自分の関係が、その幸せを脅かしていること。
だから幼馴染み離れするようにと忠告したけれど、まったく効果がなかったこと。
そして、自分の想像以上に、その想い人が自分という存在に追い詰められていて、伊理穂もまた自分の想像以上に、幼馴染みという関係に依存しすぎていたこと。
そして。
「……秀一さんは、とっくに気づいてたと思うんで……こんな風になってから言うのもいまさらなんですけど……オレ、伊理穂が好きでした。だからこんなことになった一番の原因は、オレが弱くて、二人を見るのを耐えられなかったからかもしれません……」
あんな風に強引に、無理矢理、恐怖を煽るようにわざと口づけたりなんてしたくなかった。
「伊理穂……愛してる……っ」
掠れた声が、誰もいない暗いリビングに響く。
「愛してる……伊理穂……っ! だから、だからどうか、幸せになってくれ……!」
もうそばにいることはできないけれど。
近くで伊理穂の幸せを見守ることはできないけれど。
(オレはいつでも、伊理穂の幸せを祈ってるから……!)
洋平は血だらけの拳をもう一度床に打ちつけると、声を殺してむせび泣いた。
夜。洋平は気持ちが少し落ち着くと、家の外にでて玄関の塀に凭れかかった。
ここで洋平は、ある人を待っていた。
小一時間ほど経った頃だろうか。
かつかつと硬質な足音が耳をついた。
洋平がそちらに目を向けると、待ち焦がれていた人影がこちらに向けて歩いてきていた。
洋平は玄関の塀に預けていた背を起こすと、すっと姿勢を正し、その人影に向けて頭を下げた。
人影が、驚いたように目を見開いて足を止めた。
「洋平?」
「こんばんは、秀一さん」
洋平が待っていたのは、伊理穂の父親の秀一だった。
仕事帰りでくたびれているはずなのに、秀一の毅然とした姿はちっとも疲れをうかがわせない。
秀一は、普段クールな目元に浮かんだ微かな驚きを引っ込めると、すぐに無表情に戻って洋平を見た。
「どうした、洋平。こんなところで。うちで待っていれば……」
言う秀一の言葉を、洋平は首を横に振って遮る。
「いや、それはちょっとできなくて……。秀一さん、お疲れのとこすんません、ちょっといいっすか?」
洋平は秀一が頷いたのを確認すると、秀一を自分の家へと招いた。
リビングに通して、テーブルにかけてもらう。
洋平はすぐに台所にまわってコップを二つ手に取ると、冷たい麦茶を注いだ。
秀一の前の席に麦茶をひとつおいて、洋平は自分の分の麦茶をテーブルの真ん中に置くと、おもむろに床に膝をついた。
「洋平?」
秀一が、再び驚いたような声をあげて、自分の名前を呼ぶ。
洋平はそれを耳に入れながら、額を地面にこすりつけた。
「すみません、秀一さん。オレ……伊理穂と縁を切りました」
「縁を……? どういうことなんだ?」
静かに訊く秀一の言葉に、洋平はぽつぽつと語り始めた。
高校に入って伊理穂に想い人ができたこと。
その想いが晴れて成就して、今その人と付き合い始めていること。
だけど、伊理穂と自分の関係が、その幸せを脅かしていること。
だから幼馴染み離れするようにと忠告したけれど、まったく効果がなかったこと。
そして、自分の想像以上に、その想い人が自分という存在に追い詰められていて、伊理穂もまた自分の想像以上に、幼馴染みという関係に依存しすぎていたこと。
そして。
「……秀一さんは、とっくに気づいてたと思うんで……こんな風になってから言うのもいまさらなんですけど……オレ、伊理穂が好きでした。だからこんなことになった一番の原因は、オレが弱くて、二人を見るのを耐えられなかったからかもしれません……」