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『いつまでも甘えたこどもじゃいられないのよ』
繰り返し夢に出てきたもうひとりの『伊理穂』の言葉が耳元でよみがえった。
ほんとうにその通りだ。
気づいていたのに。嫌われているって知っていたのに。なのに、こどものようにわがままを言って、その事実から目を背け続けてきた。
そうして、目を背け続けてきた感情が、もうひとつ。
(洋平が好き……)
洋平のことが好き。好き。苦しいくらいに好きで好きで、どうしようもなくて。
だけど、洋平に大嫌いだと言われたあの日に、自分には彼を好きになる資格がないって気づいた。
彼を追い詰めて、彼の人生をめちゃくちゃにしたのは紛れもない伊理穂自身だったから。
だから。
嫌われていると気づいた気持ちと一緒に、その感情も箱に閉じ込めたはずだったのに。
もう二度と開かないように厳重に鎖で縛り付けて何重にも鍵をして、伊理穂自身も気づかないくらい心の奥深く深くに沈めておいたのに。
流川と付き合い始めたことで離れはじめた洋平との距離に耐えられなくて、いつのまにかそれが手に取れるくらい近くに浮上して来てしまった。
厳重に巻いたはずの鎖がほどけ、蓋にひびが増えて。
そしてついに今日、その箱が砕け散ってしまった。跡形もなく粉々になってしまった。
(もう、どこにも隠しておけない……)
気づいてしまった。思い出してしまった。
こんなにも焼けるように激しく、わたしは洋平のことが好き。
伊理穂はこちらを振り向かない洋平の背中を、涙で霞む視界でじっと見つめた。
こんなに間近で洋平を見るのはもうこれが最後だ。
伊理穂は唇を持ち上げる。
「よう……へい」
「…………」
なにも答えない背中に向けて、伊理穂は必死に言葉を紡ぐ。
「わたしのこと……嫌いだったのに……。ずっとずっと苦しかったのに……、そんな気持ちを我慢して……優しくしてくれて……守ってくれて……」
声が震える。
でも言わなくては。
これを言ったら、もう心臓が止まってしまってもいい。
いっそ死んでしまってもいい。
だから神様、お願いします。どうかこの言葉を伝える力をください。
伊理穂は必死で酸素を取り込むと、言った。
「い、今まで……ほんとうに、ありがとう……。もう、二度と近づかないって……約束する。だから……どうか……どうか、しあわせに、なってね、洋平……。――さよなら」
振り向かない洋平の背中。
伊理穂はそれから視線を背けると、自分の部屋へと逃げるように駆け出した。
「伊理穂……!」
玄関が荒々しく閉まる音を耳に入れると、洋平はがっくりと膝から崩れ落ちた。
頬を涙が幾筋も伝う。
それがぽたぽたと零れ落ちて、リビングのじゅうたんにまるい染みを作った。
どんどんどんどん涙がおちて、その染みは広がりを増していく。
「伊理穂……!」
洋平はうずくまると、声を殺して泣いた。
こうすることは、大楠が暴走したあの日に決めていた。
伊理穂と流川のキス、そして伝い漏れてきた二人の会話。
流川の、呻くようなあのせりふ。
『だから、こんなときまでアイツの名前を呼ぶな。――オレを呼べ。オレを頼れ、伊理穂。水戸じゃなくて、オレを……!』
あの流川の切迫した声音に、流川がどれほど洋平の存在に追い詰められているのかを思い知った。
繰り返し夢に出てきたもうひとりの『伊理穂』の言葉が耳元でよみがえった。
ほんとうにその通りだ。
気づいていたのに。嫌われているって知っていたのに。なのに、こどものようにわがままを言って、その事実から目を背け続けてきた。
そうして、目を背け続けてきた感情が、もうひとつ。
(洋平が好き……)
洋平のことが好き。好き。苦しいくらいに好きで好きで、どうしようもなくて。
だけど、洋平に大嫌いだと言われたあの日に、自分には彼を好きになる資格がないって気づいた。
彼を追い詰めて、彼の人生をめちゃくちゃにしたのは紛れもない伊理穂自身だったから。
だから。
嫌われていると気づいた気持ちと一緒に、その感情も箱に閉じ込めたはずだったのに。
もう二度と開かないように厳重に鎖で縛り付けて何重にも鍵をして、伊理穂自身も気づかないくらい心の奥深く深くに沈めておいたのに。
流川と付き合い始めたことで離れはじめた洋平との距離に耐えられなくて、いつのまにかそれが手に取れるくらい近くに浮上して来てしまった。
厳重に巻いたはずの鎖がほどけ、蓋にひびが増えて。
そしてついに今日、その箱が砕け散ってしまった。跡形もなく粉々になってしまった。
(もう、どこにも隠しておけない……)
気づいてしまった。思い出してしまった。
こんなにも焼けるように激しく、わたしは洋平のことが好き。
伊理穂はこちらを振り向かない洋平の背中を、涙で霞む視界でじっと見つめた。
こんなに間近で洋平を見るのはもうこれが最後だ。
伊理穂は唇を持ち上げる。
「よう……へい」
「…………」
なにも答えない背中に向けて、伊理穂は必死に言葉を紡ぐ。
「わたしのこと……嫌いだったのに……。ずっとずっと苦しかったのに……、そんな気持ちを我慢して……優しくしてくれて……守ってくれて……」
声が震える。
でも言わなくては。
これを言ったら、もう心臓が止まってしまってもいい。
いっそ死んでしまってもいい。
だから神様、お願いします。どうかこの言葉を伝える力をください。
伊理穂は必死で酸素を取り込むと、言った。
「い、今まで……ほんとうに、ありがとう……。もう、二度と近づかないって……約束する。だから……どうか……どうか、しあわせに、なってね、洋平……。――さよなら」
振り向かない洋平の背中。
伊理穂はそれから視線を背けると、自分の部屋へと逃げるように駆け出した。
「伊理穂……!」
玄関が荒々しく閉まる音を耳に入れると、洋平はがっくりと膝から崩れ落ちた。
頬を涙が幾筋も伝う。
それがぽたぽたと零れ落ちて、リビングのじゅうたんにまるい染みを作った。
どんどんどんどん涙がおちて、その染みは広がりを増していく。
「伊理穂……!」
洋平はうずくまると、声を殺して泣いた。
こうすることは、大楠が暴走したあの日に決めていた。
伊理穂と流川のキス、そして伝い漏れてきた二人の会話。
流川の、呻くようなあのせりふ。
『だから、こんなときまでアイツの名前を呼ぶな。――オレを呼べ。オレを頼れ、伊理穂。水戸じゃなくて、オレを……!』
あの流川の切迫した声音に、流川がどれほど洋平の存在に追い詰められているのかを思い知った。