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ふいに女の人の哄笑が耳をついた。
伊理穂はそれに驚いてハッと顔をあげる。
いつのまにか、目の前に女の人が立っていた。
その姿を見て、伊理穂の心臓が止まったようになる。
目の前で伊理穂を見下げて、嘲けるように高らかに笑うこの女の人。
『伊理穂』だった。
伊理穂よりも少し大人びた雰囲気をまとっていたけれど、目の前の女は間違いなく伊理穂自身だ。
目の前の『伊理穂』は、伊理穂が自分に気付いたことに気付くと、にいっと口の端を持ち上げた。
その笑みに、伊理穂はぞくりと身震いする。
『伊理穂』はそれを見ると、くすくすと面白そうに笑い声をもらした。
「あんたバッカじゃないの? 楓くんと付き合った挙句にキスまでしちゃってさ」
「え?」
「ほんとうは洋平のことが好きなくせに。よくもまあ、他の男と付き合ってキスなんてできるわよね。しんっじらんない」
『伊理穂』が心底軽蔑したと言うように吐き捨てた。
伊理穂はそれに大きく首を横に振る。
「違うっ! わたし、洋平のことそういう意味で好きじゃないよ! わたしがそういう意味で好きなのは楓くんで……」
しゃべっている途中で、『伊理穂』の瞳が冷たく細められて、伊理穂は思わず言葉を止めた。
『伊理穂』がそれまで浮かべていた嘲笑を引っ込めて、侮蔑の表情で伊理穂を見下ろす。
「あんた……まだそんなこと言ってるの? ほんっと、浅ましいイヤな女。我ながらぞっとするわ。……まあ、でもあんたがそう思いたいのもしょうがないわよね。だってわたし、洋平に嫌われてるもんね」
「違う! そんなことない! 洋平は、わたしのこと嫌ってなんか……!」
もうひとりの『伊理穂』は、伊理穂の声なんてまるで聞こえていないかのように言葉を続ける。
「それに。洋平の人生を狂わせたのはわたしだし?」
「!」
伊理穂の心臓が、どくりと嫌な感じに脈打った。
「認めちゃったら彼のそばにいられないもんね。わたしはあんた。あんたはわたし。だから、気持ちわかるわよ? 痛いくらいよく、ね。――でもさ、あんた。いつまでもこのままでいいの? 洋平も……楓くんも。かわいそうだと思わないの?」
『伊理穂』の紡ぎ出す言葉ひとつひとつに、伊理穂の心臓が大きく震える。
「なに……? なに言ってるの? やめて、やめてよ!!」
伊理穂の喉から金切り声が出た。
ダメだ。『伊理穂』にこれ以上言わせてはダメだ。
脳が伊理穂に危険信号を送る。
キケン。キケン。今スグココカラ退避セヨ。
その時。がしゃんと重そうな何かがほどける音がした。
伊理穂はそれに肩を飛び上がらせる。
何かが、自分の中でほどかれていく感覚がする。開けてはいけない何かが、出てこようとしている。
(いや! だめ……! 絶対にだめ……!)
伊理穂自身、自分が何に怯えているのかよくわからなかった。
何が出てくるのを防ぎたいのかわからなかった。
でも、『それ』を出してはならないということだけはわかる。
中身はわからなくとも、全身を支配するこの恐怖が、『それ』がよくないものだと伝えていた。
どくどくと心臓が耳もとで脈打っている。
嫌な汗が全身を伝う。
自然、呼吸が荒くなっていく。
目の前の『伊理穂』が辛そうに表情をゆがめて、伊理穂をじっと見つめる。
「ねえ、いい加減わたしをちゃんと見てよ」
蓋に幾筋かのひびを入れた箱が、開く音がする。
「いや……!」
伊理穂はしりもちをついて、いやいやと首を横に振った。
『伊理穂』がそれを悲しい目で見つめてくる。
(いやだ。どうして。どうしてそんな目で見てくるの)
ぎ……と、蓋の持ち上がる音がする。
「いやっ!」
「ねえ、伊理穂。いつまでも甘えたこどものままじゃいられないのよ。――いい加減、目を覚ましなさい」
伊理穂はそれに驚いてハッと顔をあげる。
いつのまにか、目の前に女の人が立っていた。
その姿を見て、伊理穂の心臓が止まったようになる。
目の前で伊理穂を見下げて、嘲けるように高らかに笑うこの女の人。
『伊理穂』だった。
伊理穂よりも少し大人びた雰囲気をまとっていたけれど、目の前の女は間違いなく伊理穂自身だ。
目の前の『伊理穂』は、伊理穂が自分に気付いたことに気付くと、にいっと口の端を持ち上げた。
その笑みに、伊理穂はぞくりと身震いする。
『伊理穂』はそれを見ると、くすくすと面白そうに笑い声をもらした。
「あんたバッカじゃないの? 楓くんと付き合った挙句にキスまでしちゃってさ」
「え?」
「ほんとうは洋平のことが好きなくせに。よくもまあ、他の男と付き合ってキスなんてできるわよね。しんっじらんない」
『伊理穂』が心底軽蔑したと言うように吐き捨てた。
伊理穂はそれに大きく首を横に振る。
「違うっ! わたし、洋平のことそういう意味で好きじゃないよ! わたしがそういう意味で好きなのは楓くんで……」
しゃべっている途中で、『伊理穂』の瞳が冷たく細められて、伊理穂は思わず言葉を止めた。
『伊理穂』がそれまで浮かべていた嘲笑を引っ込めて、侮蔑の表情で伊理穂を見下ろす。
「あんた……まだそんなこと言ってるの? ほんっと、浅ましいイヤな女。我ながらぞっとするわ。……まあ、でもあんたがそう思いたいのもしょうがないわよね。だってわたし、洋平に嫌われてるもんね」
「違う! そんなことない! 洋平は、わたしのこと嫌ってなんか……!」
もうひとりの『伊理穂』は、伊理穂の声なんてまるで聞こえていないかのように言葉を続ける。
「それに。洋平の人生を狂わせたのはわたしだし?」
「!」
伊理穂の心臓が、どくりと嫌な感じに脈打った。
「認めちゃったら彼のそばにいられないもんね。わたしはあんた。あんたはわたし。だから、気持ちわかるわよ? 痛いくらいよく、ね。――でもさ、あんた。いつまでもこのままでいいの? 洋平も……楓くんも。かわいそうだと思わないの?」
『伊理穂』の紡ぎ出す言葉ひとつひとつに、伊理穂の心臓が大きく震える。
「なに……? なに言ってるの? やめて、やめてよ!!」
伊理穂の喉から金切り声が出た。
ダメだ。『伊理穂』にこれ以上言わせてはダメだ。
脳が伊理穂に危険信号を送る。
キケン。キケン。今スグココカラ退避セヨ。
その時。がしゃんと重そうな何かがほどける音がした。
伊理穂はそれに肩を飛び上がらせる。
何かが、自分の中でほどかれていく感覚がする。開けてはいけない何かが、出てこようとしている。
(いや! だめ……! 絶対にだめ……!)
伊理穂自身、自分が何に怯えているのかよくわからなかった。
何が出てくるのを防ぎたいのかわからなかった。
でも、『それ』を出してはならないということだけはわかる。
中身はわからなくとも、全身を支配するこの恐怖が、『それ』がよくないものだと伝えていた。
どくどくと心臓が耳もとで脈打っている。
嫌な汗が全身を伝う。
自然、呼吸が荒くなっていく。
目の前の『伊理穂』が辛そうに表情をゆがめて、伊理穂をじっと見つめる。
「ねえ、いい加減わたしをちゃんと見てよ」
蓋に幾筋かのひびを入れた箱が、開く音がする。
「いや……!」
伊理穂はしりもちをついて、いやいやと首を横に振った。
『伊理穂』がそれを悲しい目で見つめてくる。
(いやだ。どうして。どうしてそんな目で見てくるの)
ぎ……と、蓋の持ち上がる音がする。
「いやっ!」
「ねえ、伊理穂。いつまでも甘えたこどものままじゃいられないのよ。――いい加減、目を覚ましなさい」