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夢小説設定
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「洋平!」
伊理穂はハッと我に返ると、助けを求めるように大楠の腕の中からそちらへ首をめぐらせた。
洋平は静かに大楠に歩み寄ると、
「ほら、伊理穂放せよ」
言いながら大楠の腕から伊理穂を奪った。
震える伊理穂の頭を安心させるようにひと撫ですると、その背に庇うようにして伊理穂の前に立つ。
教室がぴんと糸を張り詰めたような緊張に包まれた。
しばらく呆然と洋平を見つめていた大楠は、ハッと我に返るとその表情に微かに嘲りの色を含ませて、憎々しげに洋平を睨みつけた。
「ハッ。なんだよ洋平、こんなときばっかカッコつけてんじゃねーよ! お前なんて、伊理穂ちゃんのこと好きとも言えねー意気地なしのくせに!」
「え?」
伊理穂はその言葉に驚いて、目の前の洋平の背中を見つめた。
洋平は大楠の言葉に驚いた様子もなく、悠然とした態度で大楠と対峙している。
「バカなこと言ってんなよ、大楠」
「なんだよ、まだ逃げんのかよ洋平!」
「落ち着けよ大楠。そうじゃねぇだろ? 伊理穂の幸せに、オレらの気持ちはカンケーねえって言ってんだよ」
「それが……カッコつけてるって言ってんだよ!」
言うと同時に、大楠が渾身の力を込めて洋平を殴った。
「洋平!」
伊理穂は悲鳴をあげてよろめく洋平に取りすがった。
殴られた拍子に切ったのか、洋平の唇からは血が流れている。
伊理穂はそれを見ると、頭がまっしろになった。
「洋平、洋平大丈夫!?」
取り乱してうまく動かない手でなんとか制服のポケットからハンカチを取り出して、机に片手をついて大楠を睨みつけている洋平の唇から、そっと血を拭う。
その視界がぼんやり揺らめいた。
どうして。
伊理穂の瞳から堪えきれずに涙が零れる。
どうして、洋平が殴られなくちゃいけないんだろう。
もうなにがなんだかわからなかった。
どうして洋平と大楠がケンカしているのかも。どうして大楠が怒っているのかも。どうしてこんなことになっているのかも。
なんにもわからなかった。
と、その時。
「伊理穂?」
伊理穂がなかなか部活に来ないのを心配したのか、流川が教室に姿を現した。
「楓くん……!」
流川は洋平にすがりつくようにして泣いている伊理穂と、口元の赤くなっている洋平、それに対峙している大楠をみて微かに目を見開いた。
状況を察して足早に伊理穂のもとへ向かうと、泣き濡れる伊理穂の肩を抱くようにして自身の傍へ引き寄せる。
流川は伊理穂の顔にそっと手を伸ばして、親指の腹でそこを流れる涙をふいた。
「ダイジョーブか? なかなか伊理穂が部活に来ねーから気になって来て見れば……。なんの騒ぎだ?」
後半のせりふを、流川が洋平に視線を転じて言った。
洋平がそれに答えようとするより先に、ひらめくような速さで大楠が流川に殴りかかる。
「流川っ! てめえ、よくも伊理穂ちゃんを……!」
「!」
「大楠くん、やめて!」