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伊理穂は小さく嘆息した。
灰色世界の悪夢を見た日こそ優しかったものの、それ以降、洋平はなかなか伊理穂が夜に部屋に行く事を許してくれなかった。
それどころか、最近では幼馴染み離れしろと口酸っぱく言ってくる。
(やっぱり、洋平はわたしが傍にいるのが嫌なのかな。いい加減迷惑だって思ってて、だからわたしを遠ざけようとするの……?)
伊理穂の感情を閉じ込めている心の箱が、再びぴしりと音を立てて、表面に小さな亀裂を走らせた。
だけど、伊理穂が部屋に行くのを洋平が渋るのは夜だけで、それ以外の時は呼べば普段どおり優しいし、いつもの洋平とたいして変わりがない。
伊理穂はその形のいい唇を尖らせて、再び短く息を吐く。
洋平が何を考えているのか、伊理穂は悔しいくらいにわからなかった。
自分は洋平を追い詰めてしまったあの時から、ちっとも成長していない。
あの時も今も、洋平の考えていることが何ひとつわからない。
洋平は、こちらの考えていることなんてなんでもお見通しなのに。
(結局、今だってほんとうは洋平を苦しめているのかもしれないのに、それさえもわたしにはわからない……)
なんだか切なくなって、伊理穂が机につっぷしたそのときだった。
背後で、教室のドアが開く音がした。
伊理穂は弾かれたように身を起こしてそちらを振り返ると、ちょうど入ってきた大楠を見て顔をほころばせた。
「大楠くん!」
伊理穂は席を立って、大楠のもとへ駆け寄った。
大楠はそんな伊理穂に笑顔を向けることもなく、難しい顔をして教室のドアを後ろ手に閉めた。
伊理穂は大楠の前で足を止めると、無邪気に微笑んだ。
「大楠くん、大事な話なんてどうしたの? 何か悩み事? わたしでよければ力になるから、なんでも話してよ」
「伊理穂ちゃん……」
「うん?」
元気よく返事をする伊理穂に、大楠が硬い声音でそろそろと言う。
「流川と、付き合ってるってほんとか? 昨日、洋平から聞いたんだけど」
「え!? う、うん。ほんとう、だよ……」
なんとなく照れくさい気持ちになって、伊理穂は大楠から視線を外しながら胸の前で手をもじもじさせた。
そんな伊理穂を大楠は苦しげに見つめる。
「なあ、伊理穂ちゃん」
「うん?」
「どうして、流川と付き合うんだ?」
「え?」
伊理穂はその問いに、顔をあげた。
そこで初めて、伊理穂は大楠の様子がおかしいことに気がついた。
目の前の大楠の切迫した表情に、伊理穂は驚いて息を呑む。
「大楠……くん?」
異変に気付いたときには遅かった。
伊理穂は大楠に勢いよく両肩を掴まれた。
その力の強さに、驚きよりも強く恐怖が芽生えてくる。
「大楠くん!? い、痛いよ……どうしたの?」
「伊理穂ちゃん、なあ、どうして流川と付き合ってるんだ?」
「ど、どうしてって……。楓くんのことが好きだから」
「ウソだ!」
大楠が、伊理穂の言葉に覆いかぶさるように鋭く言った。
伊理穂はその大声に驚いて身を竦ませる。
「大楠くん?」