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それを待っていたかのように耳元で囁かれる、穏やかでやわらかな声音。
「伊理穂、大丈夫。大丈夫だ。怖い夢でも見たのか? 大丈夫。もう怖いものなんてなにもないよ。あってもオレが追い払ってやる。だから大丈夫だ」
「よ……へ……?」
「そうだよ、オレだよ」
言うと、洋平は伊理穂の顔を両手ではさみこんできた。
そのままぐいと顔を持ち上げられて、洋平が間近で伊理穂の瞳を覗きこんでくる。
あたたかい光を宿す、洋平の黒い瞳。
洋平は怯える伊理穂にやわらかく微笑むと、親指の腹で優しく伊理穂の頬を流れる涙を拭った。
「――伊理穂、もう大丈夫だ。オレがお前を守ってやる。だから安心しろ? な?」
霞む視界の先の洋平は、心配そうに瞳を細めて、けれど優しく伊理穂のことを見つめていた。
さっき見た洋平の表情が幻だったことに気付いて、強張った伊理穂の体から力が抜けていく。
「よう……へ……っ!」
「ん。大丈夫、伊理穂。大丈夫……」
「洋平……っ!」
伊理穂は洋平の胸にすがりついた。
洋平が伊理穂のからだに腕をまわして、優しく抱きしめてくれる。
繰り返し耳元で囁かれる、大丈夫という洋平の言葉。
伊理穂の心にすうっと染み渡っていく。
(大丈夫。さっきの洋平が夢で、今の洋平が現実。洋平は、わたしのこと嫌ってなんてない)
しばらく洋平の胸に縋り付いて、伊理穂はからだの中にある恐怖をすべて出し切るように泣き続けた。
ようやく気持ちが落ち着いた頃になって、それを見計らっていたかのように洋平の声が耳をつく。
「落ち着いたか、伊理穂?」
「……うん」
「また、『例の夢』とやらを見たのか?」
洋平の言葉に、伊理穂は小さく頷いた。
さっきの夢。灰色世界の、あの悪夢。
伊理穂は洋平がグレたあの日以来、時折あの悪夢を見た。
あの日の出来事はまさに伊理穂にとって晴天の霹靂だった。それまで自分が洋平に嫌われているなんて露とも思ってこなかった伊理穂だ。大嫌いだと言われたあの言葉は、一瞬のトラウマのようになってしまっているのだろう。その恐怖が時折、悪夢という形でよみがえる。
頷いた伊理穂に、洋平がそうかと呟いて、頭を撫でてくる。
「なあ、伊理穂。今回もその夢、内容覚えてないのか? 怖い夢は人に話すと良いって言うだろ? お前のその夢も、オレに話せばこんなにうなされることもなくなるんじゃないか?」
洋平の言葉に、伊理穂は夢を思い出す振りをして顔を俯かせた。
もちろん夢の内容を覚えていないわけじゃない。
夢の内容は、嫌だというくらい仔細まではっきりと覚えている。
だけど、それを洋平に話す気にはなれなかった。
――怖かった。
内容を話して、それを聞いた後の洋平の反応。それを見るのが、伊理穂はたまらなく怖かった。
もしも、もしも。
バレてたのかと、言われてしまったらどうしよう。
ほんとうはずっと嫌いだったんだよと、肯定されてしまったらどうしよう。
嫌われているだけならまだいい。
そうして、洋平が自分から離れてしまったら……。
(いや……!)
伊理穂は目の前の存在をつなぎとめるように、洋平がパジャマ代わりに着ていたタンクトップの胸の辺りを、ぎゅっと掴んだ。小さく首を振る。
「な、内容は……覚えてないの。起きたときに、ただ恐怖だけが残ってて……」
「そうか……」
ふいに、洋平が伊理穂を抱きしめていた腕をほどいた。
「伊理穂、大丈夫。大丈夫だ。怖い夢でも見たのか? 大丈夫。もう怖いものなんてなにもないよ。あってもオレが追い払ってやる。だから大丈夫だ」
「よ……へ……?」
「そうだよ、オレだよ」
言うと、洋平は伊理穂の顔を両手ではさみこんできた。
そのままぐいと顔を持ち上げられて、洋平が間近で伊理穂の瞳を覗きこんでくる。
あたたかい光を宿す、洋平の黒い瞳。
洋平は怯える伊理穂にやわらかく微笑むと、親指の腹で優しく伊理穂の頬を流れる涙を拭った。
「――伊理穂、もう大丈夫だ。オレがお前を守ってやる。だから安心しろ? な?」
霞む視界の先の洋平は、心配そうに瞳を細めて、けれど優しく伊理穂のことを見つめていた。
さっき見た洋平の表情が幻だったことに気付いて、強張った伊理穂の体から力が抜けていく。
「よう……へ……っ!」
「ん。大丈夫、伊理穂。大丈夫……」
「洋平……っ!」
伊理穂は洋平の胸にすがりついた。
洋平が伊理穂のからだに腕をまわして、優しく抱きしめてくれる。
繰り返し耳元で囁かれる、大丈夫という洋平の言葉。
伊理穂の心にすうっと染み渡っていく。
(大丈夫。さっきの洋平が夢で、今の洋平が現実。洋平は、わたしのこと嫌ってなんてない)
しばらく洋平の胸に縋り付いて、伊理穂はからだの中にある恐怖をすべて出し切るように泣き続けた。
ようやく気持ちが落ち着いた頃になって、それを見計らっていたかのように洋平の声が耳をつく。
「落ち着いたか、伊理穂?」
「……うん」
「また、『例の夢』とやらを見たのか?」
洋平の言葉に、伊理穂は小さく頷いた。
さっきの夢。灰色世界の、あの悪夢。
伊理穂は洋平がグレたあの日以来、時折あの悪夢を見た。
あの日の出来事はまさに伊理穂にとって晴天の霹靂だった。それまで自分が洋平に嫌われているなんて露とも思ってこなかった伊理穂だ。大嫌いだと言われたあの言葉は、一瞬のトラウマのようになってしまっているのだろう。その恐怖が時折、悪夢という形でよみがえる。
頷いた伊理穂に、洋平がそうかと呟いて、頭を撫でてくる。
「なあ、伊理穂。今回もその夢、内容覚えてないのか? 怖い夢は人に話すと良いって言うだろ? お前のその夢も、オレに話せばこんなにうなされることもなくなるんじゃないか?」
洋平の言葉に、伊理穂は夢を思い出す振りをして顔を俯かせた。
もちろん夢の内容を覚えていないわけじゃない。
夢の内容は、嫌だというくらい仔細まではっきりと覚えている。
だけど、それを洋平に話す気にはなれなかった。
――怖かった。
内容を話して、それを聞いた後の洋平の反応。それを見るのが、伊理穂はたまらなく怖かった。
もしも、もしも。
バレてたのかと、言われてしまったらどうしよう。
ほんとうはずっと嫌いだったんだよと、肯定されてしまったらどうしよう。
嫌われているだけならまだいい。
そうして、洋平が自分から離れてしまったら……。
(いや……!)
伊理穂は目の前の存在をつなぎとめるように、洋平がパジャマ代わりに着ていたタンクトップの胸の辺りを、ぎゅっと掴んだ。小さく首を振る。
「な、内容は……覚えてないの。起きたときに、ただ恐怖だけが残ってて……」
「そうか……」
ふいに、洋平が伊理穂を抱きしめていた腕をほどいた。