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伊理穂は胸を撫で下ろすと、目線をベッドに移した。
そこに置いてある時計。針の先に蛍光塗料が塗られたそれは、夜の二十三時を差していた。
洋平は、もう寝てしまっているだろうか?
ふいにそんなことが心に浮かぶ。
現実感を取り戻すと、今度は別の恐怖が伊理穂のからだを取り巻いた。
その不安を拭い去りたくて、伊理穂は唇の裏で、必死に言葉を繰り返す。
あれは夢。あれは夢。あれは夢。
けれど、いくら呟いても、不安が消えない。
その感情は嵐のように伊理穂の心の中を吹き荒れて、そこにひどい爪痕を残していく。
夢の中の洋平の言葉。あれはもしかしたら、洋平の本音なのではないか……?
ぶるりと一際大きく伊理穂のからだが震えた。
恐怖に取り込まれそうになる自分に、伊理穂は必死で励ましの言葉をかける。
(違う。違う。洋平はそんなこと思ってない。大丈夫。嫌われてなんてない。迷惑なんかじゃない。だって洋平はいつも優しく笑ってくれる。だから大丈夫)
けれど。
伊理穂の頭で、誰かが囁く。
『あの時』もそうでなかったかと。洋平が感情を爆発させて豹変した『あの時』。
洋平がグレてしまった『あの時』。
『あの時』も、その瞬間までは確かに、洋平は自分に優しく微笑んでいたのではなかったか。
そして、そのことが、洋平を追い詰めていたのではなかったか。
「――っ。違う、違う違う、大丈夫! 洋平は……洋平は……っ!」
(スキナンテウソデ)
(ホントウハ)
(イマデモズット)
(ワタシノコトガキライナンジャナイカ)
「いやあっ!」
伊理穂が堪えきれず声をあげたそのときだった。
「伊理穂?」
からららと、隣りの窓が開く音がして、洋平の声が聞こえた。
びくりと伊理穂の肩が震える。
「よ……へい?」
「伊理穂? どうした? 泣いてるのか? ……窓、開けるぞ?」
お互いの窓を玄関としていた伊理穂と洋平は、窓に鍵をかける習慣がない。
洋平の手が窓に伸びてきて、なんの抵抗もなく伊理穂の部屋の窓が開かれていく。
伊理穂はそれを小さく震えながら見つめていた。
知らず流していた涙で霞むその景色が、そこだけ時の歩みを間違えたかのようにスローモーションに動く。
完全に開かれた窓から、洋平がゆっくりと顔を出した。
「!」
その表情が、夢の中の洋平と同じく苦渋に歪み、伊理穂への嫌悪に溢れていた。
『頼む、伊理穂っ!! オレの目の前から消えてくれ……!』
再び鼓膜によみがえる、洋平の声。
「いやあっ!!」
伊理穂は叫ぶと、きつく目を閉じてしっかりと耳を塞いだ。
夢じゃなかった。現実だった。やっぱり洋平は伊理穂のことが嫌いだった。
塞いだ耳の奥で、洋平が何か言っている。
嫌だ。何も見たくない。何も聞きたくない。
「伊理穂!? 伊理穂、どうした?」
「いやっ、いやっ、いやぁっ!」
「伊理穂!!」
ベッドが軋んだかと思うと、ふいにからだがあたたかいぬくもりに包まれた。
鼻腔をくすぐる洋平の匂い。触れ合う肌から伝わる優しい体温。
しゃくりあげる伊理穂の背中を落ち着かせるように撫でる大きな手の平。
伊理穂は驚いて耳を塞いでいた手をといた。
そこに置いてある時計。針の先に蛍光塗料が塗られたそれは、夜の二十三時を差していた。
洋平は、もう寝てしまっているだろうか?
ふいにそんなことが心に浮かぶ。
現実感を取り戻すと、今度は別の恐怖が伊理穂のからだを取り巻いた。
その不安を拭い去りたくて、伊理穂は唇の裏で、必死に言葉を繰り返す。
あれは夢。あれは夢。あれは夢。
けれど、いくら呟いても、不安が消えない。
その感情は嵐のように伊理穂の心の中を吹き荒れて、そこにひどい爪痕を残していく。
夢の中の洋平の言葉。あれはもしかしたら、洋平の本音なのではないか……?
ぶるりと一際大きく伊理穂のからだが震えた。
恐怖に取り込まれそうになる自分に、伊理穂は必死で励ましの言葉をかける。
(違う。違う。洋平はそんなこと思ってない。大丈夫。嫌われてなんてない。迷惑なんかじゃない。だって洋平はいつも優しく笑ってくれる。だから大丈夫)
けれど。
伊理穂の頭で、誰かが囁く。
『あの時』もそうでなかったかと。洋平が感情を爆発させて豹変した『あの時』。
洋平がグレてしまった『あの時』。
『あの時』も、その瞬間までは確かに、洋平は自分に優しく微笑んでいたのではなかったか。
そして、そのことが、洋平を追い詰めていたのではなかったか。
「――っ。違う、違う違う、大丈夫! 洋平は……洋平は……っ!」
(スキナンテウソデ)
(ホントウハ)
(イマデモズット)
(ワタシノコトガキライナンジャナイカ)
「いやあっ!」
伊理穂が堪えきれず声をあげたそのときだった。
「伊理穂?」
からららと、隣りの窓が開く音がして、洋平の声が聞こえた。
びくりと伊理穂の肩が震える。
「よ……へい?」
「伊理穂? どうした? 泣いてるのか? ……窓、開けるぞ?」
お互いの窓を玄関としていた伊理穂と洋平は、窓に鍵をかける習慣がない。
洋平の手が窓に伸びてきて、なんの抵抗もなく伊理穂の部屋の窓が開かれていく。
伊理穂はそれを小さく震えながら見つめていた。
知らず流していた涙で霞むその景色が、そこだけ時の歩みを間違えたかのようにスローモーションに動く。
完全に開かれた窓から、洋平がゆっくりと顔を出した。
「!」
その表情が、夢の中の洋平と同じく苦渋に歪み、伊理穂への嫌悪に溢れていた。
『頼む、伊理穂っ!! オレの目の前から消えてくれ……!』
再び鼓膜によみがえる、洋平の声。
「いやあっ!!」
伊理穂は叫ぶと、きつく目を閉じてしっかりと耳を塞いだ。
夢じゃなかった。現実だった。やっぱり洋平は伊理穂のことが嫌いだった。
塞いだ耳の奥で、洋平が何か言っている。
嫌だ。何も見たくない。何も聞きたくない。
「伊理穂!? 伊理穂、どうした?」
「いやっ、いやっ、いやぁっ!」
「伊理穂!!」
ベッドが軋んだかと思うと、ふいにからだがあたたかいぬくもりに包まれた。
鼻腔をくすぐる洋平の匂い。触れ合う肌から伝わる優しい体温。
しゃくりあげる伊理穂の背中を落ち着かせるように撫でる大きな手の平。
伊理穂は驚いて耳を塞いでいた手をといた。