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どこかで、誰かの泣いている声が聞こえる。
泣き声をあげる事を拒んだ、だけれど抑えきれない嗚咽をどうしようもできない。そんな泣き声。
泣いているのは誰だろう。
伊理穂はその声に耳をじっと澄ませた。
そして、ハッと気付く。
(――洋平!)
この声は間違いなく洋平の声だった。
どうしよう。洋平が泣いている。早くそばに行かなくては。
伊理穂は焦ったようにその声の出所を探して辺りを見回した。
そして愕然とする。
目の前に広がっているのは、一面灰色の世界だった。
伊理穂以外には誰も、何もない、無の世界。
「――っ」
ぞくりと肌が粟立った。
恐怖が伊理穂の背中をつるりと撫でる。
足元からも忍び寄ってくるそれに、伊理穂の体が小さく震えた。
今度ははっきりと、吼えるような洋平の泣く声が聞こえた。
(洋平……っ! 早く、早く行かなくちゃ……っ!)
伊理穂は臆病な心を叱咤するように唇を噛み締めると、目の前に広がる灰色世界を鋭く睨みつけた。
一歩足を踏み出す。
普通の地面と違う、底の感じられないさわりとした頼りない感触が足を通して伝わってきて、伊理穂の心がさらに恐怖に震えた。
脳裏に浮かぶ、映画か何かで見た流砂の画。
もがけばもがくほど呑み込まれていく、底なしの地獄。
「…………」
途端に足元が心許なくなって、伊理穂はじっとつま先を見つめた。
この下に地面はちゃんとあるだろうか?
これ以上先に進んだら、底なしの地面に呑み込まれて二度と出てこれなくなるのではないだろうか?
ごくりと、伊理穂はつばを飲み込んだ。
恐怖で、口の中がカラカラだった。
ここはどこだろう。怖い。足を、これ以上前に踏み出せない。
がくがく震えていると、再び洋平の泣く声が聞こえた。
魂を振り絞って、苦しみを吐き出そうとするようなその声。
その洋平の泣き声を聞いた途端、伊理穂のからだは頭で考えるよりも早く、弾かれたように走り出していた。
蹴り飛ばす地面は変わらず頼りなく、今にも沈んでしまいそうだ。
恐怖と緊張に鼓動を速めた心臓では、満足に息も吸えなかった。
酸素を求めて肺が痛む。喉から時折ヒッと短く悲鳴がもれる。
だけど、行かなくては。
洋平が泣いている。
行かなくては。
恐怖よりも強い感情に衝き動かされて、伊理穂は視界のきかない灰色世界の中、ただひたすらに泣き声のするほうへと足を動かした。
ふと、何もなかった視界の先に、黒いものが見えた。
「洋平……っ?」
学生服の背中だった。
地面にうずくまって、獣のような声をあげて泣いている。
洋平だ。
「洋平!!」
伊理穂は駆ける足を速めて、もつれるようにして洋平にすがりついた。
激しい泣き声をあげる洋平の背中。
それを伊理穂は撫でさする。
「洋平、洋平もう大丈夫だよ。洋平」
洋平は答えない。
それでも伊理穂は、必死で洋平に語りかける。
泣き声をあげる事を拒んだ、だけれど抑えきれない嗚咽をどうしようもできない。そんな泣き声。
泣いているのは誰だろう。
伊理穂はその声に耳をじっと澄ませた。
そして、ハッと気付く。
(――洋平!)
この声は間違いなく洋平の声だった。
どうしよう。洋平が泣いている。早くそばに行かなくては。
伊理穂は焦ったようにその声の出所を探して辺りを見回した。
そして愕然とする。
目の前に広がっているのは、一面灰色の世界だった。
伊理穂以外には誰も、何もない、無の世界。
「――っ」
ぞくりと肌が粟立った。
恐怖が伊理穂の背中をつるりと撫でる。
足元からも忍び寄ってくるそれに、伊理穂の体が小さく震えた。
今度ははっきりと、吼えるような洋平の泣く声が聞こえた。
(洋平……っ! 早く、早く行かなくちゃ……っ!)
伊理穂は臆病な心を叱咤するように唇を噛み締めると、目の前に広がる灰色世界を鋭く睨みつけた。
一歩足を踏み出す。
普通の地面と違う、底の感じられないさわりとした頼りない感触が足を通して伝わってきて、伊理穂の心がさらに恐怖に震えた。
脳裏に浮かぶ、映画か何かで見た流砂の画。
もがけばもがくほど呑み込まれていく、底なしの地獄。
「…………」
途端に足元が心許なくなって、伊理穂はじっとつま先を見つめた。
この下に地面はちゃんとあるだろうか?
これ以上先に進んだら、底なしの地面に呑み込まれて二度と出てこれなくなるのではないだろうか?
ごくりと、伊理穂はつばを飲み込んだ。
恐怖で、口の中がカラカラだった。
ここはどこだろう。怖い。足を、これ以上前に踏み出せない。
がくがく震えていると、再び洋平の泣く声が聞こえた。
魂を振り絞って、苦しみを吐き出そうとするようなその声。
その洋平の泣き声を聞いた途端、伊理穂のからだは頭で考えるよりも早く、弾かれたように走り出していた。
蹴り飛ばす地面は変わらず頼りなく、今にも沈んでしまいそうだ。
恐怖と緊張に鼓動を速めた心臓では、満足に息も吸えなかった。
酸素を求めて肺が痛む。喉から時折ヒッと短く悲鳴がもれる。
だけど、行かなくては。
洋平が泣いている。
行かなくては。
恐怖よりも強い感情に衝き動かされて、伊理穂は視界のきかない灰色世界の中、ただひたすらに泣き声のするほうへと足を動かした。
ふと、何もなかった視界の先に、黒いものが見えた。
「洋平……っ?」
学生服の背中だった。
地面にうずくまって、獣のような声をあげて泣いている。
洋平だ。
「洋平!!」
伊理穂は駆ける足を速めて、もつれるようにして洋平にすがりついた。
激しい泣き声をあげる洋平の背中。
それを伊理穂は撫でさする。
「洋平、洋平もう大丈夫だよ。洋平」
洋平は答えない。
それでも伊理穂は、必死で洋平に語りかける。