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全ての授業が終わると、洋平は空っぽの鞄を持って、教室を後にした。
今日からは、自分のバイトの有無に関わりなく流川が伊理穂を送る。
ぽっかり空いた自分の隣りの空間が淋しくて、その感覚に洋平は切り刻まれるような痛みを覚えた。
口端を引いて、薄い自嘲を浮かべる。
と。
「おい、水戸」
ふいに名前を呼ばれた。
振り返ると、三井が厳しい表情で立っていた。
その表情を見て、洋平は自分がなぜ呼び止められたのかを瞬時に悟った。
それと同時に浮かぶ苦笑。
洋平は三井に視線を向ける。
「三井サン。どうしたんすか?」
「……ちょっと、話がある。来いよ」
三井はそれだけ言うと、すぐに踵を返して歩き出した。
洋平は苦々しい気持ちのまま三井の後をついていく。
前を行く三井の背中からは、目を背けたくなるような激しい感情が陽炎のように揺らめいて見えた。
このまま引き返してしまいたいと思う自分の心を軽く叱咤する。
どうせ、今逃げたとしてもあとでまた捕まるのはわかりきっている。
それなら、嫌なことは早めに済ませてしまった方がよかった。
もうとっくに最悪の事態は訪れているのだ。他に何を怖がることがあるだろう。
三井に連れられて来たのは二階の空き教室だった。
三井は教室に入ると、不機嫌な様子を隠そうともせずに洋平を振り返った。
三井の瞳の奥に瞬く激しい怒りの炎を受け止めるように、洋平はそれとしっかり対峙する。
「話ってなんすか?」
「――わかってんだろ」
刃物を思わせるような、鋭い三井の声。
ぴりっと肌の表面が引き締まる。
「……まあ、だいたいは。それより三井サン、情報早いッスね」
苦笑を滲ませながら洋平が言うと、三井の眉が勢いよく跳ね上がった。
乱暴に胸倉をつかまれる。
制服の襟が喉に食い込んで、うまく息が入ってこない。
苦しい。
「ごまかすなよ。――今日の昼、オレが自主練してたらあいつらが……伊理穂と、流川が……二人で体育館に来たんだよ。流川のヤロウ、付き合ってるとかぬかすから事情聞いたら、翔陽戦の前後で告白と返事があったって言うじゃねえか。――お前、そのこと知ってたのかよ?」
間近に迫る、三井の鋭い眼光。
その強い光を、洋平は屹然と見つめ返す。
「知ってましたよ。告白されたこと、一番に報告されましたから」
「おま……っ! それ、引き止めなかったのかよ!!」
三井が収まりきらない怒りをぶつけるように、乱暴に洋平の襟首から手を放した。
開放された喉をさすりながら、洋平は困ったように眉尻を下げる。
「引き止めてどうなるっつーんスか。オレは、こういう日が来ることはずっと覚悟してた。……伊理穂が幸せなら、オレはそれでいい」
「お……まえっ! 本気でそれ……っ! オレは認めねえぞ、流川なんて!!」
昂ぶる感情を持て余すように吐き出された三井の言葉に、洋平は瞳をきつく細めた。
教室内の空気が、さらにぴりっと緊張感を増す。
洋平の本気の眼差しに、三井が圧倒されたように息を呑んだ。
「三井サン。アンタもおとなしく諦めたらどうっすか? もしも二人の邪魔をするようなら、オレが許さないッスよ」
「水戸……」
洋平は狂気をはらんだ声音でそれだけ言うと、まだ呆然と立ち尽くす三井をそのままにその場をあとにした。
二人の邪魔は誰にもさせない。
固く決意する。
(伊理穂の幸せを壊そうとする奴は、誰であってもオレがゆるさねえ)
それが、今の自分に許された、唯一の存在意義だった。
洋平の去ったあと、一人残された教室で、三井は悔しげに下唇を噛み締めた。
「クソッ!」
押し殺した感情が、言葉になって溢れ出る。
どうして洋平にはわからない。
どうして。
答えは、あんなに簡単に出ているのに。
なんで。
三井はどうしようもなく燻る思いをぶつけるように、強く教室の壁を拳で打ちつけた。
ジンと骨を伝わって体中に響く痛み。
拳が痛いのか、心が痛いのかわからなかった。
とにかく、体のどこかが疼くように痛い。
三井は苦しげに表情をゆがめた。
悔しかった。
気付けるのは、気付いてやれるのは洋平しかいないのに。
なのに。
「バカヤロウ! そうじゃ、ねえんだよ……っ!」
胸に浮かぶ伊理穂の笑顔。
それを守ることも自分にはできないのだろうか? 自分はこんなにも伊理穂に救われたのに。
「クソッ!」
呻くように呟きながら、三井はもう一度、今度は弱々しく壁を殴りつけた。
To be continued…
今日からは、自分のバイトの有無に関わりなく流川が伊理穂を送る。
ぽっかり空いた自分の隣りの空間が淋しくて、その感覚に洋平は切り刻まれるような痛みを覚えた。
口端を引いて、薄い自嘲を浮かべる。
と。
「おい、水戸」
ふいに名前を呼ばれた。
振り返ると、三井が厳しい表情で立っていた。
その表情を見て、洋平は自分がなぜ呼び止められたのかを瞬時に悟った。
それと同時に浮かぶ苦笑。
洋平は三井に視線を向ける。
「三井サン。どうしたんすか?」
「……ちょっと、話がある。来いよ」
三井はそれだけ言うと、すぐに踵を返して歩き出した。
洋平は苦々しい気持ちのまま三井の後をついていく。
前を行く三井の背中からは、目を背けたくなるような激しい感情が陽炎のように揺らめいて見えた。
このまま引き返してしまいたいと思う自分の心を軽く叱咤する。
どうせ、今逃げたとしてもあとでまた捕まるのはわかりきっている。
それなら、嫌なことは早めに済ませてしまった方がよかった。
もうとっくに最悪の事態は訪れているのだ。他に何を怖がることがあるだろう。
三井に連れられて来たのは二階の空き教室だった。
三井は教室に入ると、不機嫌な様子を隠そうともせずに洋平を振り返った。
三井の瞳の奥に瞬く激しい怒りの炎を受け止めるように、洋平はそれとしっかり対峙する。
「話ってなんすか?」
「――わかってんだろ」
刃物を思わせるような、鋭い三井の声。
ぴりっと肌の表面が引き締まる。
「……まあ、だいたいは。それより三井サン、情報早いッスね」
苦笑を滲ませながら洋平が言うと、三井の眉が勢いよく跳ね上がった。
乱暴に胸倉をつかまれる。
制服の襟が喉に食い込んで、うまく息が入ってこない。
苦しい。
「ごまかすなよ。――今日の昼、オレが自主練してたらあいつらが……伊理穂と、流川が……二人で体育館に来たんだよ。流川のヤロウ、付き合ってるとかぬかすから事情聞いたら、翔陽戦の前後で告白と返事があったって言うじゃねえか。――お前、そのこと知ってたのかよ?」
間近に迫る、三井の鋭い眼光。
その強い光を、洋平は屹然と見つめ返す。
「知ってましたよ。告白されたこと、一番に報告されましたから」
「おま……っ! それ、引き止めなかったのかよ!!」
三井が収まりきらない怒りをぶつけるように、乱暴に洋平の襟首から手を放した。
開放された喉をさすりながら、洋平は困ったように眉尻を下げる。
「引き止めてどうなるっつーんスか。オレは、こういう日が来ることはずっと覚悟してた。……伊理穂が幸せなら、オレはそれでいい」
「お……まえっ! 本気でそれ……っ! オレは認めねえぞ、流川なんて!!」
昂ぶる感情を持て余すように吐き出された三井の言葉に、洋平は瞳をきつく細めた。
教室内の空気が、さらにぴりっと緊張感を増す。
洋平の本気の眼差しに、三井が圧倒されたように息を呑んだ。
「三井サン。アンタもおとなしく諦めたらどうっすか? もしも二人の邪魔をするようなら、オレが許さないッスよ」
「水戸……」
洋平は狂気をはらんだ声音でそれだけ言うと、まだ呆然と立ち尽くす三井をそのままにその場をあとにした。
二人の邪魔は誰にもさせない。
固く決意する。
(伊理穂の幸せを壊そうとする奴は、誰であってもオレがゆるさねえ)
それが、今の自分に許された、唯一の存在意義だった。
洋平の去ったあと、一人残された教室で、三井は悔しげに下唇を噛み締めた。
「クソッ!」
押し殺した感情が、言葉になって溢れ出る。
どうして洋平にはわからない。
どうして。
答えは、あんなに簡単に出ているのに。
なんで。
三井はどうしようもなく燻る思いをぶつけるように、強く教室の壁を拳で打ちつけた。
ジンと骨を伝わって体中に響く痛み。
拳が痛いのか、心が痛いのかわからなかった。
とにかく、体のどこかが疼くように痛い。
三井は苦しげに表情をゆがめた。
悔しかった。
気付けるのは、気付いてやれるのは洋平しかいないのに。
なのに。
「バカヤロウ! そうじゃ、ねえんだよ……っ!」
胸に浮かぶ伊理穂の笑顔。
それを守ることも自分にはできないのだろうか? 自分はこんなにも伊理穂に救われたのに。
「クソッ!」
呻くように呟きながら、三井はもう一度、今度は弱々しく壁を殴りつけた。
To be continued…