12
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
言われて時計を見上げると、次の授業まで後三分だった。
「あ、ほんとうだ。じゃあ、わたし教室戻るね。洋平、遅刻した分、真面目に授業受けるんだよ」
「りょーかい」
快活に頷く洋平に、伊理穂は後ろ髪を引かれる思いで一年七組を後にした。
ゆるやかに波打つ栗毛の髪を揺らしながら伊理穂が教室を出て行くのを、洋平は瞳を細めて見送った。
何人かの男子生徒が、伊理穂が通り過ぎた先を振り返る。
それに気付いて、洋平は口元に苦笑をのぼらせた。
伊理穂は湘北高校でも有名な美少女だ。
おそらく、振り返った男子生徒たちはなんであの月瀬伊理穂がうちの教室に? と思ったに違いない。
伊理穂のクラスと違って、洋平のクラスでは二人が幼馴染みということはまだ認知度が低かった。
実際のところ、それを知らないクラスメートの好奇の視線が、さっきから痛いくらいに体中に突き刺さっている。
幸い、誰も怖がって話しかけてはこないので面倒はないが、居心地はすこぶる悪い。
洋平は胸の底にたまったどす黒い気持ちを、ため息と共に吐き出した。
と、そこに、それまで大人しくしていた花道が口を開いた。
「なあ、洋平。もしかして、伊理穂のやつ……」
花道が何を言わんとしたのか察した洋平は、花道に苦笑してみせる。
「ん。なあ、花道。次の時間サボろうぜ。――ちゃんと、話すよ」
言うと、洋平は立ち上がった。
花道が同じように立ち上がる音を耳にいれながら、洋平は後ろを振り返らずに廊下を歩く。
目的地は屋上だった。
先客がいるかもしれないと思ったけれど、着いたそこには誰もいなかった。
今日は重く雲が垂れ込めていて天気も悪い。
梅雨の時期特有の、じめじめとした空気が肌に不快なほどにまとわりついて気持ち悪かった。
きっとこの天気も、ここが運良く誰もいなかった要因のひとつなんだろうななんて考えながら、洋平は後ろを振り返る。
花道が、神妙な顔をして立っていた。
洋平は胸ポケットから真新しいタバコのパッケージを取り出すと、それを花道に向けて傾けた。
「吸うか?」
「いや、いい」
微かに目を見張って、花道が首を振る。訝しげに、洋平を見た。
「お前だってタバコなんてあんまり吸わねーじゃねーか。どうしたんだよ、今日は」
「んー? 吸いてえ気分なんだよ」
言いながら、洋平はタバコを一本取り出すと、それを銜えてズボンのポケットから取り出したライターで火をつけた。
肺の奥に、苦い煙の味が充満する。
洋平はそれをゆっくり吐き出すと、ふうと息をついた。
何度吸ってもうまいとは思えなかったけれど、この苦さが今の洋平にはちょうどよかった。
「なあ、洋平。さっきの話だけどよ」
花道が、言いにくそうに口を開く。
「もしかして、伊理穂とルカワのヤロー……」
「そうだよ」
その先を言うのが躊躇われるのか、言葉に詰まった花道に、洋平が答えてやる。
「あの二人、付き合ってる」
「! やっぱり……! いつからだよ」
「昨日から」
「昨日? 昨日って翔陽戦のあとか……?」
「そう」
「あ、ほんとうだ。じゃあ、わたし教室戻るね。洋平、遅刻した分、真面目に授業受けるんだよ」
「りょーかい」
快活に頷く洋平に、伊理穂は後ろ髪を引かれる思いで一年七組を後にした。
ゆるやかに波打つ栗毛の髪を揺らしながら伊理穂が教室を出て行くのを、洋平は瞳を細めて見送った。
何人かの男子生徒が、伊理穂が通り過ぎた先を振り返る。
それに気付いて、洋平は口元に苦笑をのぼらせた。
伊理穂は湘北高校でも有名な美少女だ。
おそらく、振り返った男子生徒たちはなんであの月瀬伊理穂がうちの教室に? と思ったに違いない。
伊理穂のクラスと違って、洋平のクラスでは二人が幼馴染みということはまだ認知度が低かった。
実際のところ、それを知らないクラスメートの好奇の視線が、さっきから痛いくらいに体中に突き刺さっている。
幸い、誰も怖がって話しかけてはこないので面倒はないが、居心地はすこぶる悪い。
洋平は胸の底にたまったどす黒い気持ちを、ため息と共に吐き出した。
と、そこに、それまで大人しくしていた花道が口を開いた。
「なあ、洋平。もしかして、伊理穂のやつ……」
花道が何を言わんとしたのか察した洋平は、花道に苦笑してみせる。
「ん。なあ、花道。次の時間サボろうぜ。――ちゃんと、話すよ」
言うと、洋平は立ち上がった。
花道が同じように立ち上がる音を耳にいれながら、洋平は後ろを振り返らずに廊下を歩く。
目的地は屋上だった。
先客がいるかもしれないと思ったけれど、着いたそこには誰もいなかった。
今日は重く雲が垂れ込めていて天気も悪い。
梅雨の時期特有の、じめじめとした空気が肌に不快なほどにまとわりついて気持ち悪かった。
きっとこの天気も、ここが運良く誰もいなかった要因のひとつなんだろうななんて考えながら、洋平は後ろを振り返る。
花道が、神妙な顔をして立っていた。
洋平は胸ポケットから真新しいタバコのパッケージを取り出すと、それを花道に向けて傾けた。
「吸うか?」
「いや、いい」
微かに目を見張って、花道が首を振る。訝しげに、洋平を見た。
「お前だってタバコなんてあんまり吸わねーじゃねーか。どうしたんだよ、今日は」
「んー? 吸いてえ気分なんだよ」
言いながら、洋平はタバコを一本取り出すと、それを銜えてズボンのポケットから取り出したライターで火をつけた。
肺の奥に、苦い煙の味が充満する。
洋平はそれをゆっくり吐き出すと、ふうと息をついた。
何度吸ってもうまいとは思えなかったけれど、この苦さが今の洋平にはちょうどよかった。
「なあ、洋平。さっきの話だけどよ」
花道が、言いにくそうに口を開く。
「もしかして、伊理穂とルカワのヤロー……」
「そうだよ」
その先を言うのが躊躇われるのか、言葉に詰まった花道に、洋平が答えてやる。
「あの二人、付き合ってる」
「! やっぱり……! いつからだよ」
「昨日から」
「昨日? 昨日って翔陽戦のあとか……?」
「そう」