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夢小説設定
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「バレちゃったかって……」
呆気に取られたように伊理穂は言う。
「そういう問題じゃないでしょー!? もう、洋平! ちゃんと電話したのになんで遅刻してるのー!?」
「はは。まあまあ、そんな怒んなよ伊理穂」
「怒るよ! だって……」
言い募る伊理穂の頭を洋平は優しく撫でることで言葉を遮ると、花道によおと挨拶をしながら席に座った。
勢いをそがれた伊理穂は、鞄から教科書を取り出しもせずに机にかける洋平をじっとりと睨みつけながら、それでも文句を言ってやろうと洋平の机に両手をつく。
「洋平! ごまかさないでよ、なんで遅刻したの?」
「伊理穂チャンには関係ないだろ? これからは、オレのことはいいから流川のことを気にしてろよ。な?」
洋平のその言葉に、伊理穂の胸の奥に隠してきた感情のふたが、小さくひび割れた気がした。
そろりと、その感情が外側へと滲み出す。
「どうして? どうしてそんな冷たいこと言うの? わたしが、洋平の心配をしたら迷惑?」
自分でも驚くくらい頼りない声が口をついてでた。
その声音に、洋平と花道が驚いたように伊理穂をみる。
「どうした、伊理穂? 迷惑なんてことねえよ。オレは嬉しいよ? ……だけど、お前がオレのことばっか気にしてたら、流川がかわいそうだろ?」
「でも……。でもそれでも、わたしは洋平が心配だもん」
洋平は自分のためを思って言ってくれている。そのことは確かにわかるのに、それでも伊理穂はどこか洋平に突き放されているような気がしてならなかった。
胸が不安に震える。
この感情にはしっかりと封をしなければいけないのに。変に勘ぐらないで、目の前の洋平をただ信じればいい。
伊理穂は心の中だけでそれを繰り返し、自分にきつく言い聞かせる。
おそるおそる洋平の目を覗きみると、自分を見る洋平の瞳がふっと優しく細められた。
緊張で硬くなった伊理穂の心も、それと一緒に弛緩する。
洋平の手の平が、伊理穂を安心させるように優しく頭に触れた。
「……今日、遅刻しちまったのは出かけにお袋に頼まれごとをしたからだ。それをやってたら一時間目に間に合いそうもなくて、せっかくだからゆっくり散歩しながら来たんだよ。そんな顔するなよ、伊理穂。お前が心配しなくていいように、これからはちゃんと遅刻しないようにするから、な? オレの言い方が冷たく思ったなら謝る。お前を悲しませようと思ったんじゃないんだ。悪かった」
「うん」
耳に優しい、洋平の穏やかな声音。
伊理穂はそれに耳を澄ませながら小さく頷く。
そして、それを言う洋平の顔色が、少し悪いことに気付いた。
血の気のうせた洋平の頬。思えばここのところ、顔色の悪い日がずいぶん多い。
伊理穂は眉をひそめて、洋平の頬に手を伸ばす。
「洋平、大丈夫? 少し顔色悪い。最近あんまり元気ないみたいだし、バイト、頑張りすぎて疲れてるんじゃない?」
「ん? ……うん。そう……かもな。最近、いろいろ無理してたからな」
「無理? どうして? いろいろってなに? なにか洋平の家大変なの?」
「はは、ちげぇよ。――なんでもねぇよ。だから、心配すんな」
「ほんとうに?」
「ほんとう。なんか大変なことがあったら、ダメになる前に、ちゃんとお前に助けを求めるから。な?」
「……うん。それなら、いいけど……」
優しく言う洋平。
けれど、その瞳がこれ以上の追及を許さないとでも言うように強く光っていて、伊理穂はもうそれ以上なにも言うことができなかった。
洋平が、無言で伊理穂にクラスに戻るよう促しているのがわかる。
それでもなんとなくその場を離れがたくて、伊理穂がそこに留まっていると、再び洋平の手が頭に触れた。
目の前で、洋平が優しく笑う。
「ほら、伊理穂。もうそろそろ教室もどれ。休み時間終わるぞ?」
呆気に取られたように伊理穂は言う。
「そういう問題じゃないでしょー!? もう、洋平! ちゃんと電話したのになんで遅刻してるのー!?」
「はは。まあまあ、そんな怒んなよ伊理穂」
「怒るよ! だって……」
言い募る伊理穂の頭を洋平は優しく撫でることで言葉を遮ると、花道によおと挨拶をしながら席に座った。
勢いをそがれた伊理穂は、鞄から教科書を取り出しもせずに机にかける洋平をじっとりと睨みつけながら、それでも文句を言ってやろうと洋平の机に両手をつく。
「洋平! ごまかさないでよ、なんで遅刻したの?」
「伊理穂チャンには関係ないだろ? これからは、オレのことはいいから流川のことを気にしてろよ。な?」
洋平のその言葉に、伊理穂の胸の奥に隠してきた感情のふたが、小さくひび割れた気がした。
そろりと、その感情が外側へと滲み出す。
「どうして? どうしてそんな冷たいこと言うの? わたしが、洋平の心配をしたら迷惑?」
自分でも驚くくらい頼りない声が口をついてでた。
その声音に、洋平と花道が驚いたように伊理穂をみる。
「どうした、伊理穂? 迷惑なんてことねえよ。オレは嬉しいよ? ……だけど、お前がオレのことばっか気にしてたら、流川がかわいそうだろ?」
「でも……。でもそれでも、わたしは洋平が心配だもん」
洋平は自分のためを思って言ってくれている。そのことは確かにわかるのに、それでも伊理穂はどこか洋平に突き放されているような気がしてならなかった。
胸が不安に震える。
この感情にはしっかりと封をしなければいけないのに。変に勘ぐらないで、目の前の洋平をただ信じればいい。
伊理穂は心の中だけでそれを繰り返し、自分にきつく言い聞かせる。
おそるおそる洋平の目を覗きみると、自分を見る洋平の瞳がふっと優しく細められた。
緊張で硬くなった伊理穂の心も、それと一緒に弛緩する。
洋平の手の平が、伊理穂を安心させるように優しく頭に触れた。
「……今日、遅刻しちまったのは出かけにお袋に頼まれごとをしたからだ。それをやってたら一時間目に間に合いそうもなくて、せっかくだからゆっくり散歩しながら来たんだよ。そんな顔するなよ、伊理穂。お前が心配しなくていいように、これからはちゃんと遅刻しないようにするから、な? オレの言い方が冷たく思ったなら謝る。お前を悲しませようと思ったんじゃないんだ。悪かった」
「うん」
耳に優しい、洋平の穏やかな声音。
伊理穂はそれに耳を澄ませながら小さく頷く。
そして、それを言う洋平の顔色が、少し悪いことに気付いた。
血の気のうせた洋平の頬。思えばここのところ、顔色の悪い日がずいぶん多い。
伊理穂は眉をひそめて、洋平の頬に手を伸ばす。
「洋平、大丈夫? 少し顔色悪い。最近あんまり元気ないみたいだし、バイト、頑張りすぎて疲れてるんじゃない?」
「ん? ……うん。そう……かもな。最近、いろいろ無理してたからな」
「無理? どうして? いろいろってなに? なにか洋平の家大変なの?」
「はは、ちげぇよ。――なんでもねぇよ。だから、心配すんな」
「ほんとうに?」
「ほんとう。なんか大変なことがあったら、ダメになる前に、ちゃんとお前に助けを求めるから。な?」
「……うん。それなら、いいけど……」
優しく言う洋平。
けれど、その瞳がこれ以上の追及を許さないとでも言うように強く光っていて、伊理穂はもうそれ以上なにも言うことができなかった。
洋平が、無言で伊理穂にクラスに戻るよう促しているのがわかる。
それでもなんとなくその場を離れがたくて、伊理穂がそこに留まっていると、再び洋平の手が頭に触れた。
目の前で、洋平が優しく笑う。
「ほら、伊理穂。もうそろそろ教室もどれ。休み時間終わるぞ?」