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「伊理穂……。大切にするから、ずっとオレだけを見てろ」
好きだ。耳元で流川が囁くように言った。その言葉に、伊理穂の頭が真っ白になる。
激しい鼓動と一緒に温かいものが胸に広がって、伊理穂の表情が自然と笑顔になっていく。
「楓くん……。ありがとう。わたしも、楓くんが大好きだよ」
「ん……」
伊理穂は、まるで腕の中に閉じ込めようとするかのようにきつく抱きしめてくる流川の腕に、しばらくの間身をゆだねていた。
学校に、一時間目の授業終了を報せるチャイムの音が鳴り響いた。
伊理穂はそれが鳴り終わらないうちにシャーペンを筆箱の中にしまい、教科書とノートを閉じる。
日直の号令の合図に合わせて頭を下げ、先生が出て行くのをじりじりした気持ちで見送ると、すぐに自分も教室から飛び出した。
急ぐ頭の隅で流川にノートを貸しそびれた事を思い出したけれど、教室に戻ってから渡せばいいだろうと思い直し、伊理穂は小さく足音を鳴らして廊下を急ぐ。
洋平が、ちゃんと遅刻せずに学校に来ているかどうかがひどく気に掛かった。
もちろん、起きなければいけない時間にきちんと洋平に電話もしたし、その電話に洋平もきちんと出たけれど、それでも姿を見なければ安心できなかった。
一年七組の教室に着くと、伊理穂はその入り口で足を止めて目的の顔を探した。
教室とは不思議なもので、そのクラスの生徒でないと、なんとなく断りなしには中に入りづらい雰囲気がある。
伊理穂も例に漏れずその雰囲気にあてられて、教室の中にまで入り込むことができなかった。
洋平はどの辺りの席だったかな。思いながら教室内を目を凝らしながら見つめていると、ふいに中から声をかけられた。
「伊理穂?」
花道だった。
おそらく一時間目の授業は寝ていたんだろう。頬にくっきりと何かの跡が残っている。
花道は目立つ赤頭をぼりぼり掻きながら伊理穂を見つめると、こいこいと手招きをした。
どこか心細い気持ちだった伊理穂はそれにホッと息をつくと、誘われるままに花道の席へと向かう。
「花道、おはよう! ね、洋平は?」
入るなり咳き込むように訊ねると、花道がきょとんと目を丸くした。
「洋平? まだ来てねえぞ」
「え!? 来てない!?」
「おう。なんだ、お前たち一緒だったんじゃなかったのか? オレはてっきりお前も遅刻かと」
「ううん。違うよ。わたしは今日流川くんと一緒に来たの」
「ルカワと……?」
伊理穂の言葉に花道が表情を止めた。
伊理穂はそれに気付かず、ひとりぶつぶつと考え込む。
「あれえ、おかしいな。洋平、朝電話にはちゃんと出たのにな? 遅刻しないって言ってたのになんで……? ねえ、花道。洋平、ほんとうに学校に来てないの? 朝のホームルームだけ出て一時間目は単にサボってるとか、そういうことでもなくて?」
「当たり前だろ。第一洋平がサボるってんなら、オレも一緒にサボってる」
「それもそうだよね。どうしよう、洋平もしかして誰かに絡まれてるとか……?」
そう言ったときだった。
頭に、ぽこりと軽い衝撃を感じた。
驚いて振り返ると、そこにはバツの悪そうな表情を浮かべた洋平が立っていた。
「洋平!」
「よ、おはよ伊理穂チャン。遅刻したのバレちゃったか」