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夢小説設定
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「よし。では行きますか!」
そのとき。
ふとペダルを漕ぎ出そうとして、伊理穂は唐突になにか物足りなさを感じて足を止めた。
「?」
眉を寄せて静止する伊理穂に、流川も訝しげに口を開く。
「伊理穂? どーした?」
「んん、よくわからない。自分でもよくわからないんだけど、なんかすっきりしないような変な感じがするの」
「?」
隣りで流川が眉根を寄せる。
伊理穂も首をひねった。
なんだろう、この違和感。胸の底の方が、重くもやもやしている。
なにか大事なものを忘れているような……。
と、その時。背後の方でぎっと窓の開く音がした。
振り返ると、開かれたのは、伊理穂の家の隣、水戸家の洋平の部屋の窓だった。
そこから寝ぼけ眼で顔を出した洋平を見て、伊理穂の胸のもやがすっきりと晴れ渡る。
(そうか、洋平!)
今まで意識したことがなかったけれど、そういえば小学校から今まで、中学時代のグレ期を除けば、洋平と一緒に学校へ行かない日はなかった。
そのことが、伊理穂も無意識のうちに小さな違和感として胸にわだかまりを残していたのだろう。
なあんだ。思って伊理穂は表情をほころばせる。
「洋平!」
呼びかけると、あくびをしながら空を仰いでいた洋平が、ゆっくりとこちらを向いた。
伊理穂と流川を見とめて、気だるそうに片手をあげた。
「よお、伊理穂、流川。今から行くのか?」
「うん、そう! 洋平は今日は早いね。どうしたの?」
「ん? なんか目が覚めちまってな。――これから二度寝するとこ」
悪戯な表情で歯を見せて笑って、洋平が言う。
伊理穂はそれに不機嫌そうに眉根を寄せた。
「えー。二度寝? 洋平、大丈夫なの? ちゃんと起きれる?」
「はは。ガキじゃねえんだから大丈夫だよ」
「うそ、朝苦手のクセに! 洋平、遅刻しないでね? 起きなきゃいけない時間にわたし電話するから、ケータイ枕元に置いておいてね」
「おいおい、随分過保護だな。そこまでされなくても大丈夫だよ」
「絶対ダメ! 一緒に行けなくても、洋平の学校生活の管理はわたしの義務なの」
「はいはい、わかったよ。じゃあケータイ枕元においとくから」
洋平は苦笑交じりにそう返すと、視線を伊理穂から流川へと転じた。
それまでおもしろくなさそうにそのやり取りを見ていた流川が、洋平と目が合って微かに眉を持ち上げる。
「流川。伊理穂、頼むな」
「…………」
流川は目線だけでそれに返事を返すと、洋平が満足そうに微笑んだ。
「じゃあ、洋平。行ってくるね、また学校でね!」
「おう、気をつけていけよ」
ひらひらと窓から眠そうに手を振る洋平に見送られ、伊理穂は流川の自転車を今度こそ漕ぎ出した。