11
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「オレにはそうは見えねー。お前と伊理穂は、一番大事な根っこの部分で、ちゃんと繋がってるようにオレには見えるぞ」
「幼馴染みとしてだろ? そんなの、脆くて儚いもんだ。風が吹けば、すぐに朽ち果てるような絆だよ」
窓の外から視線を戻して、洋平は瞳を伏せた。
自分の内側に住む伊理穂。
それが、どんどん知らないオンナの顔になっていく。
変えられていく。流川の手によって。
洋平のからだを、苦しいほどの衝動が駆け巡る。
「伊理穂が……。伊理穂が、どんどん、知らないオンナになってくんだ。オレじゃなくて、流川の手で。オレの知ってる伊理穂が、オレだけの伊理穂が、どんどん消えてなくなっていく。オレたちの関係が、どんどんどんどん、思い出になっていくんだ。――耐えられねぇよ……」
「洋平……」
「なあ、花道。オレは、伊理穂の傍にいたい。その気持ちは変わってねえ。アイツが、幸せに笑う姿を、ずっと近くで見ていたいんだ。アイツに、幸せになって欲しいんだ。なのに……」
洋平はきつく拳を握り締めた。
脳裏によみがえる、あの日の衝動。
思い出すだけで全身を駆け巡る、狂おしい感情。
「オレ、もうほんとうにヤバいんだ。限界、なんだ。このままじゃ、オレが伊理穂を壊しちまう。どうすればいいかわからないんだ。大切なのに……。愛しくて、大切でもうどうしようもないのに、それと同じくらい強く、無理矢理にでもオレのものにしてしまいたいと思うオレがいるんだ」
溢れる想いを堪えるように、洋平は拳を強く握り締めた。
その力に白く震える洋平の拳を、花道が息をつめて見つめる。
「洋平……」
「花道。オレ、どうすればいい。伊理穂と流川が幸せになって欲しいってこんなにも心から願うのに、どうして同じくらいの衝動で、伊理穂が欲しいなんて思うんだ……っ」
悔しかった。
ほんとうに、伊理穂の幸せを願っているのに。
それを壊すかもしれないのが自分だなんて、勘弁して欲しかった。
だけど、離れたくない。
それだけは、どうしても選べない。
生きていけない。伊理穂がいなくなったら、世界に自分が存在する意味がなくなってしまう。
「なあ、洋平」
花道が、普段からは考えられないくらい硬い声音で呟いた。
洋平はゆっくりと伏せていた顔をあげる。
「ん?」
「オレは、思うのと、実際にそうするのとは、全然違うと思うぞ」
「あ?」
「だから! んーっ!」
要領の得ない花道の言葉に眉を寄せると、花道が悩んで赤いリーゼント頭を掻き毟った。
慎重に言葉を選びながら、拙い表現で、それでもなんとか必死に洋平に伝えようと言葉を紡ぐ。
「だから。例えば、どっかお店に行って、すっげえ欲しいもんがあったとすんだろ?」
「? ああ」
「その時、くっそう盗んでも欲しいなと思うのと、実際に盗んじまうのとじゃ、ぜんっぜん違うだろ? 考えるくらいは誰だってするけど、それをするのとしないのとじゃ、全然違うと、オレは思う」
「……つまり、オレが伊理穂にそういう衝動を感じるのは、罪じゃないって?」
「……好きなら、それくらい誰だって思うんじゃねえか。ましてや、伊理穂は相変わらずお前と寝てるんだろう? 隣りに好きな女が寝てて、手を出したいと思うだけで留まるお前は逆にすげえよ。オレだったらガマンできるかわかんねえ」
「……また、キス、しちゃったけどな」
「またやったのか!?」
花道が驚いて声を上ずらせた。
それに洋平が眉尻を下げて苦笑する。
「そう」
「……まあ、それは……。でも、普通に考えたら、伊理穂も悪いだろ? お前ばっかりが自分を責めなくちゃいけない問題じゃねえ」