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貸すのやめよっかなあとぽつりと呟くと、三井が慌てたように伊理穂の手から辞書を奪った。
「いや、貸してくれ! 頼む! じゃないとオレは古語辞典片手に英語の授業を受けるハメになる!」
「え?」
「いや、こっちの話だ」
わけがわからなくて眉を寄せる伊理穂の頭を三井はくしゃくしゃっと撫でると、歯を見せて笑った。
「とにかく伊理穂、辞書サンキューな。お前、次英語の授業いつだ?」
「あ、今日はもうないので、そのまま持ってていいですよ」
「おお、サンキュー! じゃあ部活んとき返すわ」
「はーい。ちゃんと勉強してくださいね、三井先輩?」
「おう、任せろ!」
それだけ言うと、三井は伊理穂の辞書片手に自分の教室へと帰っていった。
その背中を見送って、結子がため息をつく。
「伊理穂も大変ねえ……」
「? なにが?」
「別に。あんたのその鈍感も、ほんとたいがいにしないとだわよね」
「ええ? なになに、わたしが辞書探してる間になんかあったの?」
「……多分、辞書探してる間だけのことじゃないと思うけど。まあ、あんたはそのままの方がいいのかもね」
「……?」
ため息まじりに苦笑する結子を見て、伊理穂は不思議そうに首を傾げた。
伊理穂が三井達と大騒ぎをしていたのと同時刻。
一年七組の教室。その窓側の自分の席で、洋平は頬杖をついてぼんやりと窓の外を眺めていた。
憎らしいくらい爽やかで真っ青な空。そこに思わず伊理穂の笑顔を思い描いてしまって、その無邪気な微笑みが洋平の心を抉るように突き刺す。
「…………」
洋平は深くため息を零した。
そのため息を耳聡く聞きつけて、花道が前の席に腰を降ろす。
「よお、洋平。どうした? 最近元気ねーなあ」
「んー? そうでもねぇよ」
「そうか……って、この天才をそんなんでごまかせると思ってんのか洋平!?」
何年一緒につるんでると思ってやがる! と花道が鼻息も荒くまくし立てた。
洋平はそれに苦笑を滲ませる。
「はは、わりぃわりぃ。そうだよな」
言って再び沈黙する洋平に、花道が気遣うように唇を持ち上げた。
「……伊理穂か?」
「ん、正解」
窓の外を見つめたまま、洋平は答える。
グラウンドでは、元気な生徒がサッカーをして遊んでいる。
あいつらはきっと、まっとうな人生を送っているんだろうな、なんて考えながら、洋平は独白のようにぽつりぽつりと話し始める。
「伊理穂が、さ。もうそろそろ、遠くに行っちまうなぁって思って」
「あいつは、いつでもお前の傍にいるだろ」
「はは、物理的にはな。……だけど、心の距離は遠いんだ。すごく」
「そうか?」
花道が眉根を寄せる。
「いや、貸してくれ! 頼む! じゃないとオレは古語辞典片手に英語の授業を受けるハメになる!」
「え?」
「いや、こっちの話だ」
わけがわからなくて眉を寄せる伊理穂の頭を三井はくしゃくしゃっと撫でると、歯を見せて笑った。
「とにかく伊理穂、辞書サンキューな。お前、次英語の授業いつだ?」
「あ、今日はもうないので、そのまま持ってていいですよ」
「おお、サンキュー! じゃあ部活んとき返すわ」
「はーい。ちゃんと勉強してくださいね、三井先輩?」
「おう、任せろ!」
それだけ言うと、三井は伊理穂の辞書片手に自分の教室へと帰っていった。
その背中を見送って、結子がため息をつく。
「伊理穂も大変ねえ……」
「? なにが?」
「別に。あんたのその鈍感も、ほんとたいがいにしないとだわよね」
「ええ? なになに、わたしが辞書探してる間になんかあったの?」
「……多分、辞書探してる間だけのことじゃないと思うけど。まあ、あんたはそのままの方がいいのかもね」
「……?」
ため息まじりに苦笑する結子を見て、伊理穂は不思議そうに首を傾げた。
伊理穂が三井達と大騒ぎをしていたのと同時刻。
一年七組の教室。その窓側の自分の席で、洋平は頬杖をついてぼんやりと窓の外を眺めていた。
憎らしいくらい爽やかで真っ青な空。そこに思わず伊理穂の笑顔を思い描いてしまって、その無邪気な微笑みが洋平の心を抉るように突き刺す。
「…………」
洋平は深くため息を零した。
そのため息を耳聡く聞きつけて、花道が前の席に腰を降ろす。
「よお、洋平。どうした? 最近元気ねーなあ」
「んー? そうでもねぇよ」
「そうか……って、この天才をそんなんでごまかせると思ってんのか洋平!?」
何年一緒につるんでると思ってやがる! と花道が鼻息も荒くまくし立てた。
洋平はそれに苦笑を滲ませる。
「はは、わりぃわりぃ。そうだよな」
言って再び沈黙する洋平に、花道が気遣うように唇を持ち上げた。
「……伊理穂か?」
「ん、正解」
窓の外を見つめたまま、洋平は答える。
グラウンドでは、元気な生徒がサッカーをして遊んでいる。
あいつらはきっと、まっとうな人生を送っているんだろうな、なんて考えながら、洋平は独白のようにぽつりぽつりと話し始める。
「伊理穂が、さ。もうそろそろ、遠くに行っちまうなぁって思って」
「あいつは、いつでもお前の傍にいるだろ」
「はは、物理的にはな。……だけど、心の距離は遠いんだ。すごく」
「そうか?」
花道が眉根を寄せる。