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(やっぱり、わたしが傍にいることが一番洋平の負担になってるのかな……?)
洋平がお父さんを失ったあの時。
洋平の優しい笑顔に隠されていた本心に伊理穂が気付けてさえいれば、洋平がグレることもなかったかもしれないのに。
(まあ、それまでも多少悪ぶってはいたけど……あんなに荒れたりなんて、きっとしなかった……)
伊理穂の脳裏に、中学の時の荒れていた洋平が浮かぶ。
思い出すだけで、胸がきりきり痛んで苦しい。
オレなんかどうなったっていいんだって、そう言って毎日ケンカして傷だらけになって、そんな風にならなければ発散できないとこまで洋平を追い込んでしまったのは、まちがいなく自分だ。
伊理穂はずっと、そのことを後悔し続けてきた。
自分さえ。自分さえ鈍感でなければ。
洋平の心の傷に気付いていれば。
それを包み込めるほどの強さと優しさが自分にあれば。
洋平があんな風になることもきっとなかったのに。
だからせめて、これからは守っていきたくて。腹が立つことがあったら自分に言って欲しくて。それがダメなら八つ当たりだっていい。そう思って傍にいるけど。
(本当はやっぱり、それこそが洋平を苦しめてるのかな……?)
伊理穂には、いくら考えてもわからなかった。
ただ、自分に向けられる洋平の優しい笑顔を信じるしかなかった。
と、その時。
「おーい、月瀬」
クラスメートの男子の呼ぶ声が聞こえた。
伊理穂は小さく返事をしながら顔をあげると、そこには三井がいた。
三井は伊理穂を見つけると、その男子にお礼を言ってこちらへと歩いてくる。
「よ、伊理穂。メシ中悪いな」
「全くだ。メシがまずくなる」
ため息とともにそんな暴言を吐く流川を、三井は眼光鋭く睨みつける。
「ぁあ!? るっせえな流川! お前には会いに来てねぇよ! つーか、なんでてめえ伊理穂と一緒にメシ食ってやがる!」
「同じクラス。席が隣り。メシは伊理穂と食ったほうがうまい」
「はぁ!? くっそ、いつのまにか伊理穂のこと名前で呼ぶようになりやがって!」
がるるるるとにらみ合いをする二人を、伊理穂は慌てて止めに入る。
「わあ、もうストップストップ! 三井先輩と流川くんってなんでそんなに仲悪いんですかもう。うちのクラスまで来て暴れないでください、三井先輩。ただでさえ今までが最悪なんだから、みんな怖がっちゃうじゃないですか!」
ただでさえ今までが最悪、という伊理穂の言葉に、三井がグッと息をつまらせた。
小さな子供のように唇を尖らせて、バツが悪そうに頭をかく。
「いや……、騒がしくして悪かった」
「わかってくれたらいいです。で、どうしたんですか、先輩?」
伊理穂が訊くと、三井が思い出したようにおおっと手を打った。
「そうだそうだ。伊理穂、英語の辞書貸してくれ」
「辞書?」
「そう。いやあ、久々に真面目に授業受けてみようと思ったら単語が全然わかんなくってよ」
「おお! 先輩もついに真面目に! いいですよ、ちょっと待っててくださいね」
言いながら伊理穂は席を立って自分のロッカーに向かった。
それを見た流川が、三井にすっとなにかを差し出した。
三井がそれに眉を寄せる。
「あ? なんだ流川」
「辞書」
「は? オレは伊理穂から借りるからいんだよ」
「今、英語辞書持ってないから、古語辞典」
「はぁ!? お前何言ってんだマジで! 英語の辞書借りたいって言ってんだろ!?」
「……伊理穂のモノを借りるのが、おもしろくねー」