わたしの彼氏はチンパンジー
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考えるよりも早くからだが動いた。
閃光のような速さで階段を駆け降りて、驚く家族の声も介さずに外に飛び出す。
うずくまるノブに、その勢いのまま抱きついた。
胸に抱え込むようにして抱いたノブの頭が、ビクッと震える。
「梢……?」
涙で掠れた、震えた声が胸の下から発せられる。
喉が震えて言葉がつかえたから、わたしは返事の代わりに何度も頷いた。
これだけ密着してたら、きっと振動で伝わるはず。
ノブがおそるおそるというように顔を上げて、わたしの醜く腫れた顔を見る。
ノブの顔も、涙でぐしょぐしょだった。
いつも元気なノブが泣く姿なんて初めて見た。
ノブはのろのろと腕を持ち上げてわたしの重く腫れ上がった瞼に触れると、優しく滑るようにそこを撫でた。
ふるふると震えるノブの指先の振動が、瞼を通して伝わってくる。
胸が潰れる。何か得体のしれない熱いものが体の奥の方から湧き上がってきて、言葉が詰まった。
ノブの胸にしがみつく。
ノブが苦しいくらいきつくわたしの体を抱き締める。
ノブが時々わたしの顔を持ち上げて、今までされたこともないような深いくちづけをしてくる。
そしてまた存在を確かめるように、きつくきつく抱きしめてくる。
そんなことが何回か繰り返されて、やっとノブが口を開いた。
「梢……ごめん」
「うん……」
お互いの声がみっともないくらい掠れている。
だけど、そんなこと今は気にならなかった。
ノブが喘ぐように言葉を続ける。
「お前の誕生日……忘れててごめん」
「うん……」
「でも、忘れてたわけじゃないんだ……。オレ、バカだから。数字覚えるの苦手で……。おま、えの誕生日、12月3日じゃなくて、1、2、3って覚えてて」
「うん」
「そしたら、12月3日じゃなくて、いつのまにか1月23日と勘違いしちまってて……!」
「……うん」
「日付け、勘違いしちまってたから、忘れてたって言われたってしょうがねぇんだけど、でも、お前が生まれた日を大切に思ってたのは本当だし、なによりお前のこと、便利屋だなんて思ったことねえよ……!」
「うん……!」
「大事な、かわいい彼女に決まってんだろ……!? でも、お前にそう感じさせてたのは全部オレの態度のせいで……ほんとうにごめん、梢。くだらねえ照れが先行しちまって、ちゃんとお前のこと大事にしてやれなくてごめん……!」
「うん……!」
「愛してる。愛してるんだ、梢! オレから離れていかないでくれ……! お前がいないとなんもできねえよ。ダンク決めたって、お前の喜ぶ声が聞こえなきゃ、なんにも嬉しくねえ……! それどころか、お前がいてくれなきゃ、ダンクだって決まりもしねえんだ……! 梢……!!」
抱きしめてくるノブの腕の力が、一段と強くなった。
それに応えるように、わたしもノブのからだにまわした腕の力を強くする。
「うん……! わたしもノブが好きだよ。大好きだよ。これからもそばにいてくれる?」
「バカ。オレが、お前にそれお願いしてんだろ……? そばにいてくれよ、梢。大事にするから。お前がもっとわがまま言えるように、オレ、もっともっとでっかくなるから」
「うん。期待してる。まずは人間になろうね、ノブ」
憎まれ口を叩いてやると、ノブのからだが、微かに振動した。
ズズッと鼻を啜って、掠れた声で言ってくる。
「もう、ザルバカチンパンジーなんて言わせねえよ」
「うん」
くすくす笑いながら返事をしたら、くいと顎を持ち上げられた。
すぐにノブの柔らかい唇の感触がする。
わたしはそれに酔いしれながら目を閉じた。
わたしの彼氏は、チンパンジーだ。
バカでマヌケでおたんこなすなチンパンジー。
でもわたしは、そんなノブが大好き。
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