わたしの彼氏はチンパンジー
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それだけで、いつもほったらかされていることも我慢できたのに。
生まれきてくれて嬉しいって、無事に16年目を迎えられておめでとうって。ただ大好きな人に言われたかっただけ。
付き合った記念日を忘れても許せたけど、誕生日だけはどうしても譲れなかった。
「せめて目の前で泣いたりなんてしたくないって思って必死で涙を堪えてたら、ノブを無視することしかできなくて。そうしたら、ノブに嫌われちゃった……っ」
「梢ちゃん……」
「神……さん」
「うん?」
しゃくりあげる喉の隙間を縫って、眉を八の字にしてわたしを見つめる神さんを見あげると、カバンからDVDを取り出した。
昨日のNBAの試合を焼いたものだ。
これで、初代便利屋としてのわたしの役目が終わる。
思うと持つ手が震えた。
神さんが不思議そうに瞳を細める。
「それ、なに?」
「昨日の、試合のDVDです。わたし、ほんとうはこれ、録画してて。ノブ、楽しみにしてたみたいだから、渡してあげてください」
「……梢ちゃんが渡さないの?」
「……はい。もういいんです」
見たくなかった。
ノブの瞳に、彼女じゃなくて便利屋としてまた映ってしまう自分を見たくなかった。
「そのDVD、神さんが録画してたことにしておいてください。わたしの名前は、どうか出さないで」
「……梢ちゃん。俺、ノブは梢ちゃんのこと、ほんとうに大切に想ってると思うよ。あいつは確かにバカだし梢ちゃんの誕生日忘れちゃうなんてほんとうにどうしようもなくて救いようがないけど、でも梢ちゃんのことがすごく大好きだってこと、俺は知ってる。……ノブに、もう一度チャンスあげてくれないかな。あいつ、梢ちゃんに嫌われたって知ったらきっと泣く。バカで手のかかるやつだけど、あれでもかわいい後輩なんだ。あんまり泣く姿は見たくない。もちろん、梢ちゃんが泣く姿もね」
自分も泣きそうな顔で笑いながら、神さんが優しくわたしの頭を撫でてくれた。
優しい神さん。
ノブとの関係が終わったら、神さんと麻美さんとも、こんな風に話したりできなくなるのかな。
だけどそれでも、これ以上鈍感なふりしたままノブのそばに居続けることなんてできない。
わたしは自分で思ってる以上に、ノブに愛されたいんだと気づいてしまった。
どちらかの愛情が肥大しすぎて相手に迷惑をかけるまでになってしまったら、それはもう恋愛が終着点に来た合図だ。
これ以上ずるずる別れを引き延ばせば、最後には友達でもいられなくなってしまう。
今ならまだ、いつか再会したときにきっと笑って話せるようになる。
だからこのタイミングを逃したくなかった。
「ごめんなさい、神さん。ノブのこと……よろしくお願いします」
素早く頭を下げると、わたしはその場所から逃げ出すように、一目散に駆け出した。
気づいたらもう夜だった。
19時から見たい番組があったのに、もう終わっちゃってる。
あーあ。大好きな番組だったのに。
散々泣き倒してぼんやりした頭で考える。
鏡で顔を確認したら上瞼も下瞼も腫れてひどい顔だった。
「うわ。お岩さん降臨!」
ふざけてみたって、返る言葉はない。
虚しく部屋に吸い込まれていくだけ。
「…………っ」
急にまた淋しさが胸に迫ってきて、視界が涙で揺らめいた。
もうダメだ。
生まれきてくれて嬉しいって、無事に16年目を迎えられておめでとうって。ただ大好きな人に言われたかっただけ。
付き合った記念日を忘れても許せたけど、誕生日だけはどうしても譲れなかった。
「せめて目の前で泣いたりなんてしたくないって思って必死で涙を堪えてたら、ノブを無視することしかできなくて。そうしたら、ノブに嫌われちゃった……っ」
「梢ちゃん……」
「神……さん」
「うん?」
しゃくりあげる喉の隙間を縫って、眉を八の字にしてわたしを見つめる神さんを見あげると、カバンからDVDを取り出した。
昨日のNBAの試合を焼いたものだ。
これで、初代便利屋としてのわたしの役目が終わる。
思うと持つ手が震えた。
神さんが不思議そうに瞳を細める。
「それ、なに?」
「昨日の、試合のDVDです。わたし、ほんとうはこれ、録画してて。ノブ、楽しみにしてたみたいだから、渡してあげてください」
「……梢ちゃんが渡さないの?」
「……はい。もういいんです」
見たくなかった。
ノブの瞳に、彼女じゃなくて便利屋としてまた映ってしまう自分を見たくなかった。
「そのDVD、神さんが録画してたことにしておいてください。わたしの名前は、どうか出さないで」
「……梢ちゃん。俺、ノブは梢ちゃんのこと、ほんとうに大切に想ってると思うよ。あいつは確かにバカだし梢ちゃんの誕生日忘れちゃうなんてほんとうにどうしようもなくて救いようがないけど、でも梢ちゃんのことがすごく大好きだってこと、俺は知ってる。……ノブに、もう一度チャンスあげてくれないかな。あいつ、梢ちゃんに嫌われたって知ったらきっと泣く。バカで手のかかるやつだけど、あれでもかわいい後輩なんだ。あんまり泣く姿は見たくない。もちろん、梢ちゃんが泣く姿もね」
自分も泣きそうな顔で笑いながら、神さんが優しくわたしの頭を撫でてくれた。
優しい神さん。
ノブとの関係が終わったら、神さんと麻美さんとも、こんな風に話したりできなくなるのかな。
だけどそれでも、これ以上鈍感なふりしたままノブのそばに居続けることなんてできない。
わたしは自分で思ってる以上に、ノブに愛されたいんだと気づいてしまった。
どちらかの愛情が肥大しすぎて相手に迷惑をかけるまでになってしまったら、それはもう恋愛が終着点に来た合図だ。
これ以上ずるずる別れを引き延ばせば、最後には友達でもいられなくなってしまう。
今ならまだ、いつか再会したときにきっと笑って話せるようになる。
だからこのタイミングを逃したくなかった。
「ごめんなさい、神さん。ノブのこと……よろしくお願いします」
素早く頭を下げると、わたしはその場所から逃げ出すように、一目散に駆け出した。
気づいたらもう夜だった。
19時から見たい番組があったのに、もう終わっちゃってる。
あーあ。大好きな番組だったのに。
散々泣き倒してぼんやりした頭で考える。
鏡で顔を確認したら上瞼も下瞼も腫れてひどい顔だった。
「うわ。お岩さん降臨!」
ふざけてみたって、返る言葉はない。
虚しく部屋に吸い込まれていくだけ。
「…………っ」
急にまた淋しさが胸に迫ってきて、視界が涙で揺らめいた。
もうダメだ。