わたしの彼氏はチンパンジー
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「それで、どうしたの?」
神さんはあれからわたしを人目につきにくい体育館裏に連れていくと、常に閉鎖されている、体育館へ続く鉄扉の石段に腰掛けた。
ぺしぺしと隣りのスペースを叩いてわたしにそこに座るよう示しながら、神さんが眉尻をさげて柔らかく微笑む。
「ノブとケンカでもした?」
わたしがぐすぐす鼻を啜りながらそこに腰を落とすと、神さんの大きな手のひらが頭に触れた。
優しく慰めるように撫でてくれる温かなそれに、さらに涙腺が刺激されて胸が苦しくなる。
「わ、わたし……神さんの彼女さんならよかった……!」
神さんには、同い年の彼女さんがいる。
神さんの彼女さんは麻美さんといって、すっごく綺麗で大人っぽいのに、優しくてひょうきんでどこか子供らしい部分もあるとても素敵な人だった。
二人ともお互いのことをすごく大事に想いあってて、なのに依存することなく、きちんとお互いに自立している。
わたしとノブとはまるで正反対。
わたしたちの関係は、わたしのノブに対する恋愛感情と、ノブがわたしに感じる利便性とがうまく融合して成り立っているかりそめのものだ。
だから、神さんと麻美さんのような、お互いを大切にできるそんな関係がとても憧れだった。
もちろん、ほんとうにわたしが神さんの彼女になりたいわけじゃない。
わたしは麻美さんのことが大好きだし、麻美さんもわたしのことを妹みたいにかわいがってくれる。なにより仲睦まじい二人を見るのがわたしは大好きだった。
少し表現に語弊があったけれど、きちんとわたしの言いたいことが伝わったのか、神さんが微かに唇を笑みの形に持ち上げる。
「どうしたの? 梢ちゃんがそんなこと言うなんて。梢ちゃんはノブのことが大好きだろ?」
「だ、だけど、違うんです……!」
「違う?」
訝しげな声を出す神さんに、わたしはゆるゆると首を縦に振る。
「神さんは、いっつも麻美さんのこと大切にしてて……」
「うん」
「この前だって、神さん、麻美さんの誕生日を一緒にお祝いしたって言ってて、麻美さんもすっごく喜んでて、ほんとうにそれが羨ましくって……! ノブに……爪の垢をまるごと飲ませたいくらいで……!」
「はは。すごく褒めてもらってるところ水を差すようだけど、一緒にお祝いって言っても、練習後に少しだけだよ。他の付き合ってる連中に比べたら全然足りないくらいで、俺も麻美にはずいぶん我慢させてる。……ノブに、誕生日を忘れられたの?」
包み込むような穏やかな声音に、わたしは小さく頷いた。
「わたし、昨日誕生日だったんです。だけど、プレゼントとか、そういうのが欲しかったわけでも、デートして欲しいとかそういうことでもなくって……。たった一言でいいから、ノブにおめでとうって言って欲しかったんです」
「うん……」
「わたし、16年前の昨日という日がなかったら、この世に存在しなかったから。物なんていらない。直接じゃなくてもいい。メールでもなんでも良かったから、おめでとうってノブからの言葉が欲しかった」
涙が瞳から溢れ出す。
神さんが優しく頭をぽんぽんと叩いてくれる。
そのあたたかいリズムに後押しされるように、わたしの口が再び動きだす。
「だけど、ノブの頭にあったのはわたしの誕生日なんかじゃなくて、昨日のNBAの試合だった。それだけしかなかったんです。……悔しくて。それ以上に、すごく悲しくて……! なにも365日ずっとわたしのこと考えてくれなくっていい。たった1日でいいから、そのうちの5分だけでもいいから、わたしにおめでとうって言うために、ノブの時間を少しだけ使って欲しかった」
神さんはあれからわたしを人目につきにくい体育館裏に連れていくと、常に閉鎖されている、体育館へ続く鉄扉の石段に腰掛けた。
ぺしぺしと隣りのスペースを叩いてわたしにそこに座るよう示しながら、神さんが眉尻をさげて柔らかく微笑む。
「ノブとケンカでもした?」
わたしがぐすぐす鼻を啜りながらそこに腰を落とすと、神さんの大きな手のひらが頭に触れた。
優しく慰めるように撫でてくれる温かなそれに、さらに涙腺が刺激されて胸が苦しくなる。
「わ、わたし……神さんの彼女さんならよかった……!」
神さんには、同い年の彼女さんがいる。
神さんの彼女さんは麻美さんといって、すっごく綺麗で大人っぽいのに、優しくてひょうきんでどこか子供らしい部分もあるとても素敵な人だった。
二人ともお互いのことをすごく大事に想いあってて、なのに依存することなく、きちんとお互いに自立している。
わたしとノブとはまるで正反対。
わたしたちの関係は、わたしのノブに対する恋愛感情と、ノブがわたしに感じる利便性とがうまく融合して成り立っているかりそめのものだ。
だから、神さんと麻美さんのような、お互いを大切にできるそんな関係がとても憧れだった。
もちろん、ほんとうにわたしが神さんの彼女になりたいわけじゃない。
わたしは麻美さんのことが大好きだし、麻美さんもわたしのことを妹みたいにかわいがってくれる。なにより仲睦まじい二人を見るのがわたしは大好きだった。
少し表現に語弊があったけれど、きちんとわたしの言いたいことが伝わったのか、神さんが微かに唇を笑みの形に持ち上げる。
「どうしたの? 梢ちゃんがそんなこと言うなんて。梢ちゃんはノブのことが大好きだろ?」
「だ、だけど、違うんです……!」
「違う?」
訝しげな声を出す神さんに、わたしはゆるゆると首を縦に振る。
「神さんは、いっつも麻美さんのこと大切にしてて……」
「うん」
「この前だって、神さん、麻美さんの誕生日を一緒にお祝いしたって言ってて、麻美さんもすっごく喜んでて、ほんとうにそれが羨ましくって……! ノブに……爪の垢をまるごと飲ませたいくらいで……!」
「はは。すごく褒めてもらってるところ水を差すようだけど、一緒にお祝いって言っても、練習後に少しだけだよ。他の付き合ってる連中に比べたら全然足りないくらいで、俺も麻美にはずいぶん我慢させてる。……ノブに、誕生日を忘れられたの?」
包み込むような穏やかな声音に、わたしは小さく頷いた。
「わたし、昨日誕生日だったんです。だけど、プレゼントとか、そういうのが欲しかったわけでも、デートして欲しいとかそういうことでもなくって……。たった一言でいいから、ノブにおめでとうって言って欲しかったんです」
「うん……」
「わたし、16年前の昨日という日がなかったら、この世に存在しなかったから。物なんていらない。直接じゃなくてもいい。メールでもなんでも良かったから、おめでとうってノブからの言葉が欲しかった」
涙が瞳から溢れ出す。
神さんが優しく頭をぽんぽんと叩いてくれる。
そのあたたかいリズムに後押しされるように、わたしの口が再び動きだす。
「だけど、ノブの頭にあったのはわたしの誕生日なんかじゃなくて、昨日のNBAの試合だった。それだけしかなかったんです。……悔しくて。それ以上に、すごく悲しくて……! なにも365日ずっとわたしのこと考えてくれなくっていい。たった1日でいいから、そのうちの5分だけでもいいから、わたしにおめでとうって言うために、ノブの時間を少しだけ使って欲しかった」