ケンカの常套句、その結末
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今度はその手は優しくて、だけどそれがよけいに気色悪くて、ぞわりと肌が粟立った。
触らないで。
口にするより早く、前島が言う。
「なあ。神なんて、ただちょっとシュートがうまいだけのやつだろ?」
「え?」
前島の顔が皮肉に歪んだ。
放たれた言葉の意味がわからなくて、思わずぎゅっと眉を寄せると、前島がさらに言葉を続ける。
「運動神経だって飛びぬけていいわけじゃねえし、アイツにはバスケの将来性なんてねえよ。所詮高校の部活止まりだ。そんなもんにかまけて、お前のこと捨てるなんてバカだよな、ほんと。だからさ、あんなバスケバカよりオレにしろよ。オレはお前を一番に大切にする。神みたいに、お前に悲しい思いさせたりなんてしないからさ……」
「!」
前島は宗一郎の事をバカにしている。
それがわかったら全身がカッと熱くなって、気がついたら前島の頬をひっぱたいていた。
悔しさで視界が滲む。
何がわかるっていうの。この男に。
帰宅部でなにかに一生懸命になったことなんてないくせに。
いっつも一生懸命やってる人を小バカにしているだけのくせに。
なのに、一体この男に、宗一郎の何がわかるっていうの。
「いってえな」
頬を押さえて前島が言う。
なんで自分が叩かれたのかわからないという前島の表情に、さらに腹が立った。
自分の内側で爆発する何かに身を任せて、渾身の力をこめて叫ぶ。
「うるさい! 宗一郎の悪口言わないでよ! あんたみたいなやつに何がわかるって言うの!? わたしは宗一郎が一生懸命バスケを頑張ってる姿を見て好きになったんだから、それをバカにするやつは絶対許さない!」
「はあ!? んだよ、お前が神にデートどたきゃんされて怒ってたんじゃねえか!」
「違うわよ、そんなことで怒るわけないでしょう!? そんなんで怒ってたら宗一郎の彼女なんて務まるわけないでしょうが!」
「はぁあ!? 意味わかんね。じゃあお前はなんで怒ってたんだよ」
「……だからよ」
「あ?」
視界が揺れる。
自分の目から涙が零れたのがわかった。
こんな男の前で泣きたくなんてないのに、溢れる涙は止まらない。
「わたしが怒ったのは! どたきゃんされたデートの日が宗一郎と付き合って一年の記念日だったのに、そのことについてなんにもなかったからよ! それどころか、デートできなくなってごめんねの一言もなかった! お、おまけに、『部活とわたしとどっちが大事なの』なんてくだらない理由で怒ってると思われて、そんなの、そんなの……!」
足りなくなった酸素を吸い込んだ。
心臓が痛くて、思うほど空気が入ってこなかった。
苦しい。
「うまく……いくわけないでしょう!? そんな風にわたしが考えてるって思われたら、この先、あんな忙しい部活の人とやっていけるわけないじゃない! これから何かあるたびに、宗一郎にずっとそんな風に思わせるのかと思うと、苦しくて……!」
「だから、別れたなんて言ったの?」
「そうよ! だか……ら……、え?」
ふと違和感を感じて、口を噤んだ。
今の、柔らかな声。
前島の声じゃない。
「……え?」
声の主を確認しようとしたら、誰かに体を引き寄せられて視界が真っ暗になった。
胸を切なくさせる、爽やかなデオドラントの香り。
触れ合うからだから伝わってくる体温。
力強くからだに巻きついてくる腕の力。
すべてが懐かしい。
「そ……いち、ろ?」
触らないで。
口にするより早く、前島が言う。
「なあ。神なんて、ただちょっとシュートがうまいだけのやつだろ?」
「え?」
前島の顔が皮肉に歪んだ。
放たれた言葉の意味がわからなくて、思わずぎゅっと眉を寄せると、前島がさらに言葉を続ける。
「運動神経だって飛びぬけていいわけじゃねえし、アイツにはバスケの将来性なんてねえよ。所詮高校の部活止まりだ。そんなもんにかまけて、お前のこと捨てるなんてバカだよな、ほんと。だからさ、あんなバスケバカよりオレにしろよ。オレはお前を一番に大切にする。神みたいに、お前に悲しい思いさせたりなんてしないからさ……」
「!」
前島は宗一郎の事をバカにしている。
それがわかったら全身がカッと熱くなって、気がついたら前島の頬をひっぱたいていた。
悔しさで視界が滲む。
何がわかるっていうの。この男に。
帰宅部でなにかに一生懸命になったことなんてないくせに。
いっつも一生懸命やってる人を小バカにしているだけのくせに。
なのに、一体この男に、宗一郎の何がわかるっていうの。
「いってえな」
頬を押さえて前島が言う。
なんで自分が叩かれたのかわからないという前島の表情に、さらに腹が立った。
自分の内側で爆発する何かに身を任せて、渾身の力をこめて叫ぶ。
「うるさい! 宗一郎の悪口言わないでよ! あんたみたいなやつに何がわかるって言うの!? わたしは宗一郎が一生懸命バスケを頑張ってる姿を見て好きになったんだから、それをバカにするやつは絶対許さない!」
「はあ!? んだよ、お前が神にデートどたきゃんされて怒ってたんじゃねえか!」
「違うわよ、そんなことで怒るわけないでしょう!? そんなんで怒ってたら宗一郎の彼女なんて務まるわけないでしょうが!」
「はぁあ!? 意味わかんね。じゃあお前はなんで怒ってたんだよ」
「……だからよ」
「あ?」
視界が揺れる。
自分の目から涙が零れたのがわかった。
こんな男の前で泣きたくなんてないのに、溢れる涙は止まらない。
「わたしが怒ったのは! どたきゃんされたデートの日が宗一郎と付き合って一年の記念日だったのに、そのことについてなんにもなかったからよ! それどころか、デートできなくなってごめんねの一言もなかった! お、おまけに、『部活とわたしとどっちが大事なの』なんてくだらない理由で怒ってると思われて、そんなの、そんなの……!」
足りなくなった酸素を吸い込んだ。
心臓が痛くて、思うほど空気が入ってこなかった。
苦しい。
「うまく……いくわけないでしょう!? そんな風にわたしが考えてるって思われたら、この先、あんな忙しい部活の人とやっていけるわけないじゃない! これから何かあるたびに、宗一郎にずっとそんな風に思わせるのかと思うと、苦しくて……!」
「だから、別れたなんて言ったの?」
「そうよ! だか……ら……、え?」
ふと違和感を感じて、口を噤んだ。
今の、柔らかな声。
前島の声じゃない。
「……え?」
声の主を確認しようとしたら、誰かに体を引き寄せられて視界が真っ暗になった。
胸を切なくさせる、爽やかなデオドラントの香り。
触れ合うからだから伝わってくる体温。
力強くからだに巻きついてくる腕の力。
すべてが懐かしい。
「そ……いち、ろ?」