ケンカの常套句、その結末
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宗一郎の視線が体に鋭く突き刺さる。
その瞳の奥に失望の色が揺らめいているのを見つけて心臓が凍りついた。
違うのに。
わたしはただ、記念日を忘れられてるのが悲しくて。
この一年間、彼氏彼女らしいことなんてほとんどできなかったけど、でもそれでもなんとか今日まで続いてこれた奇跡を一緒にお祝いしたくて。
だから、それが叶わなくてごめんねって言って欲しかっただけなのに。
なのになんで?
だんだんと心の底から怒りが沸きあがってくる。
デートがだめになって、ごめんねも言ってくれないくせに。
……記念日なのを忘れてるくせに。
なのになんでそんな自分ばっかり被害者面するの?
そっちこそ、部活を優先したいんじゃなくて、最初からわたしのことなんてどうでもいいんじゃない。
滲んだ視界から涙が零れた。
胸が千切れそうに痛い。
勝手に決めつけて幻滅して。そんなのってひどすぎる。
「なによ、宗一郎のバカっ! もっと他に言い方あるでしょお!?」
急に声を荒げたわたしに驚いて、残っていたクラスメートが何事かとこちらを振り返ってきた。
彼らの視線なんて気にもとめずに、宗一郎が鋭い一瞥でわたしを睨む。
「部活なんだからしょうがないだろ」
「そうだけど! でも、他にわたしに言うべきことがあるじゃない!」
「なんだよ、それ。結花のことも好きだよって言えって言うの?」
宗一郎の冷たい瞳。冷たい言葉。
見えない刃になって、全身に突き刺さる。
体中が。心が。血を流す。
「そ、そういうことじゃ……!」
もう震えて言葉にならなかった。
心臓が氷のようだ。
もうすぐ完全に凍りついて、きっと拍動を止めてしまう。
「もういいよ」
宗一郎の抑揚のない声が鼓膜を打つ。
「もういい。まさか結花と、『部活とわたしとどっちが大事なの』なんてバカな口論することになるとは思わなかったよ」
* * *
「…………」
宗一郎の昨日の最後の言葉が耳元でよみがえった。
宗一郎はそれだけ言うと、こちらをもう見もしないで教室を出て行ってしまった。
わたしもすぐに鞄を引っ掴んで部活に行ってしまったから、まさか今日、こんなことになってるなんて思わなかった。
「…………」
わたしは黒板を見つめて、疲れたようにため息をついた。
黒板にでかでかと躍る、『神宗一郎と柏木結花破局!』の文字。
誰だこんなことしやがる暇人は。
ちくしょう力の限り消してやると黒板消しに手を伸ばしかけたところで、柏木さんっと名前を呼ばれた。
振り返ると、宗一郎ファンと名高い、たいして話したこともないようなクラスメートが、期待に瞳を輝かせてこちらを見ていた。
きらきら光線がまぶしくて、思わずウッと息がつまる。
「ねえねえ! 黒板のこれ、本当!? 神くんと別れたって!」
なんて答えようか。
宗一郎に別れるってはっきり言われたわけじゃないけど、自分たちはもう終わりだ。
きっともううまくいかない。