「彰……？」

名前は恐る恐る呼びかけると、仙道の顔に手を伸ばした。
仙道はそれを顔を背けることで避けると、名前に優しく微笑む。

「それで。名前はここでどうしたの？　オレを待ってたの？」
「あ、う、うん。そうなの」
「どうしたの？」

優しい笑顔のはずなのに、どこか迫力のある仙道の表情。
名前の心が底知れぬ恐怖に震える。

「あ、あの、今日、彰の部活見学しててもいいかなって……」
「部活？」

そこで、仙道の瞳に暗い色が閃いた。
名前は思わず息を呑む。

「彰……？」
「部活って、なんで？　珍しいね。……もしかして、越野の勇姿が見れるから？」
「――え？」

（宏明？　なんで？）

戸惑う名前をよそに、仙道の顔がどんどん皮肉にゆがめられていく。

「今日名前の様子がおかしかったから、オレ何かしちゃったのかなってずっと悩んでたんだけど、そういうことだったんだな」
「そういうこと？」
「名前、越野が好きになったんだろ？」
「――は!?　え、ちょ、なんで!?」

名前は訳がわからなくて動揺した。
どうしてそういう話になるんだろう。
仙道がそんな名前を見て、自嘲するように唇を持ち上げる。

「いいよ、ごまかさなくて。オレ、見ちゃったんだ。昼休みに屋上で、名前と越野が抱き合ってるとこ」
「なっ！」

瞬間名前の頭が真っ白になった。
まさかアレを見られていたなんて。
名前の全身から血の気が引く音がした。
違うと弁解しようとする名前を、仙道が笑って制止する。

「言い訳しなくていいよ。――オレも、ちょうどよかったし」
「……え？」

ちょうどよかった？　なにが？
仙道の言葉に名前の体が硬直する。
脳内で黄色信号が点滅する。
危険。
この先は聞いてはいけない。
だけど、名前の体は、金縛りにあったように動けない。

「ちょうどよかった……って？」

恐る恐る問いかける名前に、仙道はへらっといつもの笑顔で笑った。
この場の雰囲気にそぐわないその明るい笑顔に、名前の胸に亀裂が走る。

「オレさ、この前監督に名前と付き合ってること怒られちゃってさ。ちょうど名前のこと邪魔だなって思ってたんだ」

仙道の言葉に、心臓が拍動をやめる。
すべての音が遠のいて、目の前が真っ暗になる。

「あ、そう……なんだ……」

かろうじて紡ぎ出した言葉に、仙道が明るく笑う。

「うん、そうなの。どうやって振ろうか考えてたんだけど、越野と出来てるならそっちのほうが助かったよ。振る手間も省けたしね」