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最終回はナシの方向で

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名前

体育館の前まで来ると、まずはじめに女子の黄色い歓声が耳をついた。
次いで聞こえてくる、仙道くぅーん、という、自分の彼氏の名を呼ぶ甘ったるい声。

「…………」

名前はげんなりとした表情を浮かべると、小さく嘆息した。
相変わらず仙道の人気は絶大だ。
ここに来ると、否が応でもその現実を思い知らされてしまう。

(教室にいるだけだと、まだそんなにわかんないんだけどな)

心の中でそんなことを呟きながら、名前は体育館を覗き込む。
中では紅白戦が行われているようだった。
相変わらず仙道は大活躍で、仙道がボールを持つたび、シュートを決めるたびに割れんばかりの歓声が体育館を占める。

(そういえば、この歓声を聞くのがつらくて、練習をあんまり見に行かなくなったんだっけ)

すっかり忘れていた。
この歓声は、近くにいるはずの仙道と自分との距離を遠くに感じさせるからとても嫌いだ。
名前が盛大にため息をつくと、体育館からきゃああと空を裂くような悲鳴が響いた。
何事かと視線を体育館に戻すと、コートの中で仙道が顔面を押さえてうずくまっていた。

「彰っ!?」

慌てて駆け寄ろうと一歩踏み出した名前の耳に、轟くような怒鳴り声が飛び込む。

「なあにをやっとるか仙道ーっ!」

腹の底に響くその唸り声に、名前はその場で固まった。
声の主は陵南の監督・田岡茂一だった。
うずくまる仙道に、肩をいからせながら足音も荒く近づいていく。

「試合中によそ見をするとは何事だ! たるんどる!」
「はは。すんません、先生」

仙道は立ち上がると、ぽりぽりと頭をかきながら全く悪びれた様子なく謝った。
ケガはたいしたことないらしい。ちょっとおでこが赤くなっているけれど、それだけだ。
名前はホッと息をつく。

「なんだその態度は! 仙道、お前誰の肩に全国がかかってるのかわかっとるのか!?」
「もちろんわかってますよ、監督。みんなでしょ?」

へらっと返す仙道を見て、名前は顔を青くした。
どうして仙道はああいう切り返ししかできないんだろう。あんなこと言ったら田岡が怒るに決まってるのに。
案の定田岡は、顔を怒りに染めて声を大きくする。

「ばっかもーん! みんなにかかってるのはもちろんだが、一番はエースのお前にきまっとるだろーが! エースがそんなことでどうする仙道! もっと自覚を持たんか!」
「はい」

ひゃっと肩を竦めて仙道が答える。

「だいたい仙道、お前最近彼女が出来たとかなんだとかで浮かれとるらしいな!」

突然田岡の話に自分がのぼって、名前は驚いて肩を飛び上がらせた。
なんとなくその場にいづらくなって、中から見えないように育館扉の影に身を潜める。

「あれ、先生なんで知ってるんですか?」
「なんでじゃないだろう、なんでじゃ。目立つお前の素行など、調べなくとも勝手に耳に飛び込んでくるんだ」
「……なるほど」
「仙道。お前、バスケ部が大変なこの時期に、彼女なんかにかまけてる暇があるのか!? ちゃんとバスケに集中しろ!」

その言葉に名前の心臓が凍りついた。
それは、名前自身最も恐れていたことだった。
仙道の邪魔にはなりたくない。
そうならないように今まで努めてきたつもりだけど……。

(彰はなんて答えるのかな……)
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