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信長は冷や汗でびっしょりになりながらも、事の全てを牧に洗いざらい話した。
牧と名前が付き合いだして気に入らなかったこと。
そのときを境に、散々名前に似合わないだの早く別れろだのとちくちく言い続けたこと。
そして、ケガのこと。責任はお前にあるのだと、八つ当たりもいいところな叱責を名前に向けたこと。
全てを話し終えて小さく縮こまる信長に、牧はふうと嘆息した。
そして信長の頭にゴツンと思いっきりゲンコツを落とす。
「うぐ!」
鈍い声を上げて信長の頬が体育館の床と仲良しになった。
牧はそれを呆れた目で眺め、今しがた信長の頭にゲンコツをくらわせたこぶしを軽く振ると、もう一度深くため息を零した。
「ったく、しょうがねぇなあ……。清田、二度と俺たちのことに口を挟むなよ。今回は許してやるが、次やったら俺の権限でお前を退部させる」
「ヒィッ!」
「わかったな」
「ハハハハハィィィッ!!」
信長が喉の奥でひきつった悲鳴のような返事を返した。
そこでそのやりとりをじっと眺めていた神がくすくすと笑い声を漏らす。
なんだ、と牧が神に視線を向けると、神はいいえと笑いながら首を振る。
「いや……。牧さん、名前ちゃんに相当惚れ込んでるんだなって思いまして」
「だってかわいいだろ? 手を出したらお前だって容赦しないからな、神。お前は気付かれてないつもりなのかもしれないが、俺はお前があいつを狙ってるのに気付いてるぞ」
牧のそのせりふに神は目を丸くした。
ふむと興味深げにその綺麗な手を口許に持っていく。
「おかしいな、いつ気付かれたんだろう。表には出さないようにしてたのに」
「バーカ。名前からいろいろ聞いてんだよ。俺のいないときにばっかあいつに優しくしやがって」
「なるほど。それは盲点でした。特別に優しくしてたのが裏目に出ちゃったかな」
「出ちゃったかなじゃないんだよ」
言いながら牧は少々強めに神の頭を小突く。
「ったく。無害な顔して油断も隙もねえなお前はほんと」
「はは。どういたしまして」
「褒めてないだろ。いいからもう手を出すなよ」
「わかりました。退部にされたら敵いませんからね」
すごむ牧に神は肩をすくめて見せた。
ほんとうにわかっているのかなんなのか判然としない神のその態度に、牧は疲れたように三度息を吐きだす。
「さて。そろそろお姫様を迎えに行って来るかな」
「よろしく頼みますよ、キャプテン」
「当然だ」
牧は余裕の笑みを浮かべて神にそう返すと、名前の姿を探して外へ飛び出した。
名前は零れる涙を拭いながらとぼとぼと昇降口へ向けて歩いた。
あれから教室に戻って退部届けを書いて、決意の揺るがないうちにと思って顧問に持って行ったけれど、当の顧問は今日はもう帰宅してしまったらしい。
部員が部活動の真っ最中だと言うのに帰ってしまうなんてなんて顧問なんだろう。
これでは監督の高頭にも申し訳が立たないではないか。
そんなことを思いながら名前が自分の下駄箱に手をかけたそのとき。
「まだ部活中だぞ」